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“楽しいことに貪欲”であり続け26年。真心ブラザーズ初カバーアルバムは“楽しく裏切ってくれる”名盤

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
真心ブラザーズ YO-KING・桜井秀俊

名盤『KING OF ROCK』再現ライヴが好評

11/28 EX THEATER ROPPONGI
11/28 EX THEATER ROPPONGI

先日、久々に真心ブラザーズのライヴを観た。デビューから26年、『MORE KING OF ROCK 20th』と銘打たれたこのライヴは、日本のロック史に残る名盤『KING OF ROCK』が1995年5月にリリースされ、今年で発売からちょうど20年ということで、アルバムの曲順通りに演奏する再現ライヴを今年5月に東京と大阪で行い、それが好評だったことを受けてのアンコールツアーだ。Low Down Roulettes(ドラム伊藤大地、ベース岡部晴彦)という超強力グルーヴラインを従え、4人だけで『KING OF ROCK』をひたすら再現。4人だけど凄まじく太く豊かな音、4人だからより生々しく熱い音。とことんカッコイイ。でも変わらずどこか独特の“すきま”と“ゆるさ”を感じさせてくれ、それが心地イイYO-KINGのボーカルと、桜井が醸し出す雰囲気。その変わらないメリハリが真心ブラザーズの余裕でもある。

メリハリといえば、『KING OF ROCK』以前の真心の音楽といえば、どこかほのぼの感と朴訥とした雰囲気が漂っていた。それが『KING OF ROCK』では、実はその朴訥さの中に眠っていた“狂気”を曝け出してきた。その豹変ぶりに誰もが驚き、でもその作品が名盤と呼ばれ、様々なアーティストに影響を与えて、聴き継がれている。

キャリア初のカバーアルバムは、'70~'80年代女性アイドルの名曲集

真心ブラザーズにとって、名盤再現ライヴというのも大きなトピックスだが、10月7日に初のカバーアルバム『PACK TO THE FUTURE』をリリースした。これが1970~1980年代の女性アイドル曲のカバーということで、こちらも大きなトピックスになった。これまで、ライヴでカバー曲を披露したり、トリビュートアルバム『真心COVERS』(2004年)で、他のアーティストが彼らの曲をカバーしたことはあったが、カバーアルバムはリリースしていなかった。

まず、真心が‘70~’80年代の女性アイドル曲を歌うというコンセプトが面白い。アイドルの曲を、オトナが時に激しい、時にゆるいロックで表現するというそのギャップがいい。職業作家の先生方が作った名曲の数々を、そしてニューミュージックのアーティストが歌謡曲のフィールドに進出して、歌謡曲でもニューミュージックでもない、いわゆるJ-POPが生まれてきた黎明期の作品をすくいとり、二人が料理するという斬新さがポイントだ。そして“肝”でもある収録曲を見るとまさに“選曲の妙”を感じさせてくれる。もちろん原曲とアーティストに対しての大いなるリスペクトを感じさせてくれるが、真心の真骨頂でもあるバンドサウンドで料理し、全編ギターがガンガン鳴り響くという、とにかく遊び心満載で聴き手の予想を大いに、しかも“楽しく裏切ってくれる”から、痛快でさえある。

収録曲を見てみると、

1「風立ちぬ」(松田聖子/'81年)

2「風になりたい」(川村ゆうこ/'76年)

3「横浜いれぶん」(木之内みどり/'76年)

4「メイン・テーマ」(薬師丸ひろ子/'84年)

5「赤い風船」(浅田美代子/'73年)

6「早春の港」(南沙織/'73年)

7「風の谷のナウシカ」(安田成美/'84年)

8「木綿のハンカチーフ」(太田裕美/'75年)

9「ゆ・れ・て湘南」(石川秀美/'82年)

10「スローモーション」(中森明菜/'82年)

11「グッド・バイ・マイ・ラブ」(アン・ルイス/'74年)

というラインナップで、名曲&埋もれ名曲が揃う、まさに選曲の妙だ。

11曲中、松本隆作詞曲が4曲、筒美京平作曲が3曲と、やはり両巨頭が作る名曲はハズせない。そのほかにも、吉田拓郎が川村ゆうこに提供した隠れた名曲「風になりたい」、木之内みどり最大のヒット曲「横浜いれぶん」、「スローなブギにしてくれ」でおなじみ南佳孝が薬師丸ひろ子に提供した同名映画の主題歌「メイン・テーマ」(作詞:松本隆)、南沙織の曲は大ヒットナンバー「十七歳」ではなく「早春の港」(作曲;筒美京平)、「裸足の季節」他、松田聖子の初期のヒット曲を手掛けていた小田裕一郎が石川秀美に提供した「ゆ・れ・て湘南」(作詞:松本隆)、細野晴臣が安田成美の歌手デビュー曲として提供した、同名のジブリ映画のイメージソング「風の谷のナウシカ」(作詞:松本隆)、なかにし礼×平尾昌晃という大御所歌謡曲職人コンビ作で、アン・ルイスの最初のヒット曲になり、様々なアーティストがカバーした「グッド・バイ・マイ・ラブ」他、どちからといえば玄人受けする選曲かもしれないが、当時の音楽を知っている人にとっては、「どこかで聞いたことがある」曲、若い音楽ファンにとっては新鮮に感じる曲が揃っているのではないだろうか。それはどの曲もやはり“美メロ”だから。一度聴くと忘れられない、耳に残っている曲ばかりなのだ。

名曲をオトナロックで新鮮アレンジする”楽しい裏切り

『PACK TO THE FUTURE』(10月7日発売)
『PACK TO THE FUTURE』(10月7日発売)

1曲目の「風立ちぬ」からニヤリとさせられる。イントロは大瀧詠一「君は天然色」をオマージュしていて、大瀧作品2曲を合体させてしまうという荒技、でもしっくりくる。そう、選曲の妙だけではなく、“アレンジの妙”がこのアルバムが他のカバーアルバムにはないカッコよさを作り出していて、真心ブラザーズの懐の深さを改めて感じさせてくれる。前出の強力グルーヴラインLow Down Roulettesという若手と作り上げた音は、新鮮かつ非常に色彩豊かだ。真心の二人はリアルタイムで聴いていて大きな影響を受けた曲も、リズム隊の二人は聴いていない。だから逆にアレンジのアイディアが色々出てきただろうし、それに真心の二人が触発された部分もあるのではないだろうか。スタジオでのやりとりから生まれたアレンジをそのまま瞬間パッケージした--全く的外れかもしれないが、そんなライヴ感さえ感じさせてくれるアレンジであり、音だと思う。

ボブ・ディランのカバーアルバムとの共通点、原曲に愛情を持って「覆い(カヴァー)を外す」

このアルバムの発売から遡ること約8か月、ボブ・ディランの約3年ぶりのアルバム『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』が発売され、大きな注目を集めたが、こちらもカバーアルバムで、やはり複雑なアレンジを排し、5人編成のバンドでの一発録りでレコーディングしている。彼はこのアルバムについてこう語っている。「もう十分カヴァーされてきた曲ばかりだから。実際カヴァーされすぎて本質が埋もれてしまっている。私とバンドがやっていることは、基本的にその覆い(カヴァー)を外す作業だ」と。ほぼ時を同じくして、日米のカリスマアーティストが、カバーという概念を今一度見つめ直したカバーアルバムをリリースした。そしてその覆い(カバー)を外す作業、というのは言い得て妙だ。そのカバーを外す作業というのが、サウンドをバンドと創り上げていくこと、原曲に愛情を注いで料理している、という部分では共通している。アルバムについてYO-KINGは「いつも楽しいけど、今回は特に楽しいレコーディング!ミュージシャン最高!歌うの楽C!!」、桜井は「青春は、永遠です。」とコメントしているが、コメントの表現の仕方は違えど、両アーティストとも、とにかく「とことん楽しんで作った」という事。それがやはり歌にもサウンドにも出ていて、伝わってくる。デビュ27年目に突入している真心ブラザーズ。デビュー当時から“楽しいことに貪欲であれ”という姿勢は変わっていないようだ。同様に音楽に対するその真摯な姿勢も。そう感じさせてくれたカバーアルバムだ。

<Profile>

1989年、大学在学中、音楽サークルに所属する先輩YO-KINGと、一年後輩桜井秀俊で結成。 フジテレビ系バラエティ番組『パラダイスGOGO』内の“勝ち抜きフォークソング合戦”に出演、見事10週連続で勝ち抜き、同年9月「うみ」でメジャーデビューを果たす。「どか~ん」「サマー・ヌード」、「拝啓、ジョン・レノン」など数々の名曲を世に送り出す。 2001年12月21日の日本武道館公演をもって活動を一旦休止する。 休止中、YO-KINGはソロとして3枚のオリジナルアルバムを発表、桜井はロゼッタガーデンのメンバーとして活躍する。 2005年春、約三年半の時を経て活動を再開。2014年デビュー25周年を迎え、自身のレーベルDo Thing Recordingsを設立、第一弾作品「I’M SO GREAT!」(映画『猫侍』主題歌)をリリースした。2016年2月には対バンイベント『マゴーソニック2016』を名古屋、大阪で開催する。 Zepp Nagoya(2月17日)公演には斉藤和義、Zepp Namba(2月28日)公演にはウルフルズが出演することが決定した。

真心ブラザーズ オフィシャルサイト

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音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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