「いいゲームを示したい」國學院久我山の李監督が“東京の指導者”として抱く思い
「1にも2にも魅力あるチームを作る。魅力あるチームを作って魅力あるゲームをする。ここに尽きると思います」
11月15日、味の素フィールド西が丘で行われた第93回全国高校サッカー選手権大会東京都Bブロック決勝で國學院久我山は実践学園を2-0で下し、2年連続6度目となる全国大会出場を決めた。その國學院久我山の李済華(リ・ジェファ)監督は試合後、冒頭にある一風変わった発言を行なった。
リーグ戦文化が根付いてきた2種の高校年代だが、高校サッカーにおいて「選手権」という華やかな舞台は誰もが憧れ、誰もが立ちたいと思う特別な大会であり続けている。だからこそ、どのチームも一発勝負のトーナメントでリスク回避の守備的な戦いを採用する傾向が強く、その反動でどうしても蹴り合いの展開となり総体的にサッカーの質は下がる。
■なぜ久我山は選手権でも攻撃的なサッカーを貫こうとしてきたのか?
そんな高校サッカーの選手権にあっても李監督は長年、「美しく勝て」というスローガンを掲げながら、ボールコントロールと状況判断に優れた選手を自らの眼で発掘した上で育て、攻撃的で魅力的なパスサッカーを展開するチームを毎年のように作ってきた。
とはいえ、攻撃重視の前掛かりなサッカーは選手権、特に「久我山対策」でがっちりと守備を固められる東京都予選では勝ち難い。今回の優勝で6度目の選手権出場となる國學院久我山ながら、意外にも東京都を連覇したのは初めて。ではなぜ李監督はこれほどまでに攻撃、テクニック、サッカーの質といった部分にこだわるチーム作りをしてきたのか。
そこには東京都でユース年代を指導する指導者としてのある特別な思いがあった。
「東京というのは、ジュニアユース年代、U-15年代に非常にいい選手、タレントがいる全国で有数のタレント地域なんです。でも、その子たちがほとんど外に出てしまう。東京以外でサッカーをやろうするんですよ。それがなぜ?というのは、高校サッカー、東京でユースのU-18年代を教えている私たちが本当に真剣に考えないといけないことだと思っています。
東京が全国で勝てない、なかなか結果を出せない一方で、千葉や埼玉のような地域には東京出身の子がたくさんいる。逆に言うと、それを引き止められないユース年代の私たち指導者に責任があると。なぜ彼らが流出するのか。そこを私たちが真剣に考えないといけません。
そのためには、1にも2にも魅力あるチームを作る。魅力あるチームを作って魅力あるゲームをする。ここに尽きると思います。ボールコントロールをしっかりする。状況判断を良くする。そして、攻撃的なゲームをやる。お互いのペナルティで数多くシュートチャンスがあるようなゲームをやる。
そういうゲームを私たちが示せるのか。選手権というのは、独特なトーナメントのゲームですが、それでも私たちは色々な人に魅力あるゲームを観てもらえるようにしなければいけません。本当にありがたいことに、日本テレビが高校サッカーを盛り上げてくれているのですから、そこにいいゲームを提供することが私たちの義務だと思います。
勝負事だから勝ったり負けたりというのはありますけど、やはりいいゲームを見てもらう。これが私たちユース年代に関わる指導者の最大の責務、義務だと思います。だから、そういうゲームを今後もやっていきたいですね」
■負けの美学とブレない哲学
実際、高いレベルで文武両道を実践できる環境のみならず、純粋に國學院久我山のサッカーに惹かれて入学を希望する中学生は特にここ数年増加傾向にある。ちなみに、李監督は1995年に同校サッカー部の外部コーチに就任し、2007年に監督に昇格。現在も外部の「雇われ監督」であり、いくら高校サッカーとはいえ結果がでなければ学校のみならず、保護者会、OB会からの突き上げも覚悟しなければいけない立場だ。
そんな中でもサッカーの芸術性やエンタメ性を重視し、魅力的なチームとゲーム作りに果敢に挑む李監督には確実に「負けの美学」がある。それは哲学と言い換えてもいいだろう。勝ち負けのある勝負事だからこそ、どう勝つかはどう負けるかとイコール。昨年度の卒業生は母親にこんな監督評をしていたのだという。
「李さんには哲学がある。今の日本では政治家を筆頭に哲学のない大人が多いけれど、李さんはブレない。だから僕はあまり試合で使ってもらえなくても、李さんのことを尊敬している」