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タイムリープを繰り返すヒロイン役で涙を誘う。福本莉子が大切にする「普通の感覚」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2022映画『君が落とした青空』製作委員会

人気アプリの切ない小説ランキングで1位となった『君が落とした青空』が映画化された。交通事故に遭った恋人を助けようと、タイムリープを繰り返す主人公を演じたのは福本莉子。「東宝シンデレラ」オーディションのグランプリからデビューして5年、最近はドラマ『消えた初恋』などヒロイン役が続く。上昇気流に乗っている中での、演技への想いを聞いた。

「こうしたら面白い」と思えるようになりました

――最近は主役やヒロインが続きますが、演技に自信を持てるようになってきたのでは?

福本 自信はないですね。この前やらせてもらった『消えた初恋』でも、天使のようなクラスメイトという今までにない役で、「これでいいのかな?」と手探り状態で始まって。撮影を重ねるうちに、だんだんしっくりきた感じです。毎回、最初は不安があります。

――当然ながら、デビューした頃と比べたら、作品に臨む心持ちは変わりましたよね?

福本 昔より視野は広がったと思います。お芝居をする中で「こういうこともできる」という選択肢が増えてきて。以前は周りが見えてなかったのが、ちょっと余裕が出て、「こうしたらもっと面白いんじゃないか」と思えるようになりました。

――『君が落とした青空』での水野実結役でも、自分発信でしたことがあったんですか?

福本 髪型は「ボサボサした冴えない感じがいいです」と言いました。実結はキラキラしたヒロインというより、クラスで目立つポジションにもいない、等身大の高校生にしたかったので。

青春ものはやたら走りますね(笑)

――今回も最初は不安があったんですか?

福本 役作りの面でいうと、『ふりふら(思い、思われ、ふり、ふられ)』の由奈みたいに声も変えて演じるというより、実結はナチュラルに思ったことをそのまま返して、わりと自分に近い感じでした。でも、今までの作品で一番台本を見る回数は多かったです。というのも、撮影中に時系列が行き来するので。

――タイムリープして同じ1日を繰り返すからですね。

福本 全部で3回タイムリープして、初日は家でのシーンを1回目の朝、タイムリープした2回目、3回目と一気に撮ったんです。その前に学校で何があって、これくらいの気持ちになって……というところで、頭が混乱しました(笑)。あと、体力的にもすごく大変な作品でした。

――走るシーンも結構ありました。

福本 青春もののヒロインはやたら走りますね(笑)。(実結の恋人の)修弥(松田元太)が車とぶつかるシーンとか何回も走って、ハァハァ言いながらやっていました。夜の撮影でギャラリーも日に日に増えて、何回も「修弥!」と叫びながら走るのはちょっと恥ずかしかったんですけど、松田さんが「実結!」と叫んだりもしたから、主人公の名前は覚えてもらえたと思います(笑)。

寒すぎて生きるのを諦めたら震えが止まって

――その走るシーンは1日でまとめて撮ったわけではなくて?

福本 事故に遭うシーンは一番大事なところなので、3日に分けて丁寧に撮りました。11月の夜で、すごく寒かったんです。雨を降らせて、アスファルトで寝転んで。雨粒が小さすぎても画面に映らないから、ずぶ濡れになって、松田さんと2人で震えながらやっていました。

――でも、莉子さんは女優魂で1分間震えを止めたとか。

福本 そのときは本当に極限まで来ていたんです。お昼から同じ場所で出会いのシーンを撮って、そこも雨で、夜に事故のシーンだったから、体が冷え切ってしまって。震えが止まらないし、寒すぎて涙も止まりませんでした。「もうダメだ」と思いながら撮っていたんですけど、「ダメ元でもう1回」となって、やるしかないから、生きることを諦めたんです(笑)。「もういいや」と思ったら、震えがスッと止まりました。

――そういうこともありつつ、青春恋愛映画の醍醐味も感じました?

福本 松田さんの胸キュンシーンで、皆さんキャーッとなると思います(笑)。私自身、女子校で育ってきたので、映画でしか味わえない体験がありました。

――おでこをくっ付け合ってからのキスシーンとか、緊張はするものですか?

福本 そんなに他のシーンと変わりません。意外と割り切っています(笑)。

――実結と修弥って、いかにも高校生カップルっぽいところがありませんか?

福本 同じ学校でクラスは違いますけど、あんなに近くにいて、なんですれ違ってしまうのか(笑)。でも、確かに高校生の頃って、思ったことを言えなかったですね。実結は修弥と2年もつき合っているのに不満も言えないくらい、自分の中に全部閉じ込めてしまって。それがタイムリープを重ねるうちに、修弥を助けようとアクションを起こしていく姿には勇気をもらえました。

私だったら「どうして?」と問い詰めます

――それにしても、2人で映画を観に行ったら修弥に電話がかかってきて、「急用ができちゃって」とキャンセルとは、どうですかね(笑)?

福本 あれはキツいですよね。だって、ポップコーンを買っちゃっていたから(笑)。完全に2人用で「これ、どうする?」って困ります。だったら、買わないでほしい。もったいないので(笑)。

――問題はそこですか(笑)?

福本 もちろん悲しいですよね。毎月1日は必ず映画を一緒に観に行くことにしているのに、「急に何?」と思います。しかも、電話1本で。

――莉子さんだったら、どうします?

福本 「どうして?」と問い詰めます。私は思ったことを言うタイプなので、最初から修弥に何でも聞いていたと思います。それだと、物語が序盤で「そうだったんだ。チャンチャン」と終わってしまいますけど(笑)。

高校時代の何気ない日常が幸せでした

――莉子さんはタイムリープできたら、戻りたい日はありますか?

福本 高校時代に戻りたいです。あの頃の何気ない日常が一番幸せだったと思います。学校で他愛ないことで笑い合って、授業は聞いてるのか聞いてないのかわからない感じでしたけど(笑)、教室にいるのが楽しくて。放課後も、私は大阪出身で梅田のスタバに寄ったり、ユニバ(USJ)に行ったりしてました。ユニバの年パスは中高6年間持っていて、「ちょっとハリドリ(ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド)だけ乗りに行こう」ということもありました。

――高校時代はどんなキャラクターだったんですか?

福本 関西人なので、ボケかツッコミかというと、ツッコミです。周りがボケ倒すから、ツッコむしかなくて(笑)、毎日コントしていたような感じ。何が面白いのかわからないけど、常に笑っていました。

――莉子さんって、あまり大阪っぽさがないですけど。

福本 よく言われます。でも、ガッツリ大阪人です(笑)。

――高校時代に戻るとして、今度は共学がいいとは思いませんか?

福本 思いません。女子校で良かったです。うちの学校はやさしい世界なんですよ。人のことを否定しない。私が高1で東宝シンデレラになって、土・日はお仕事をしていても、変わらず接してくれて。私の中で学校生活が日々の支えになっていました。

――だとしても、共学で映画のような胸キュンをしたかったとも思いませんか?

福本 うーん……。たぶん共学に通っていても、ああいうことはあまりないんじゃないですか? そういう夢はないです(笑)。

――実結と修弥みたいに自転車の2人乗りをして、学校を抜け出すようなことはないと。

福本 でも、あれはすごく青春って感じですよね。映画ならでは。撮影した学校がマンモス校で、すごく校舎があって、その日は模試だったから、皆さんいたんですよ。撮影中にパッと見たら、教室からみんなに見られていて、恥ずかしかったです(笑)。

『トムとジェリー』を観て育ちました

――莉子さんも実結たちのように映画館には行ってました?

福本 学生の頃は、よく学校帰りに友だちと行ってました。東京に来てからは、名画座の昔の映画のリバイバル上映とか、1人でふらっと観に行ったりしています。

――どんな昔の映画を観たんですか?

福本 めちゃくちゃ古い映画は家で観ますけど、劇伴ができるまでのドキュメンタリーがあって。それは家より、音響設備がある映画館で観たほうが面白かったです。

――初めて観た映画は覚えていますか?

福本 『トムとジェリー』ですかね。小さい頃、大好きだったんです。『トムとジェリー』と『くまのプーさん』を観て育ちました。去年、ハリウッドの『トムとジェリー』の実写版が公開されたのも、観に行きました。

――女優を目指すきっかけになったような映画もありますか?

福本 東宝シンデレラのオーディションを受けるまではテレビっ子で、普通にドラマや映画を好きで観ていました。でも、それで自分が女優になりたいと思うことはなくて。お仕事を始めてから、時間があるときは映画を観るようになりました。

――刺激を受けた作品というと?

福本 『セブン』はブラッド・ピットの最後のシーンで、すごく衝撃を受けました。あと、お仕事でロサンゼルスの映画祭に行ったとき、海外で活躍されている日本の俳優さんとお話をしたり、ワーナーのスタジオを見学して、刺激をもらえました。ハリウッドの作品を観ると、毎回スケールの大きさに圧倒されて、同じ時代に同じ映画でこんなものを作れるなんて、すごいなと思います。

――自分でも『セブン』みたいな作品に出たいということですか?

福本 というより、カッコイイなって感じです。タランティーノの作品も話が面白いし、ぶっ飛んでいるし、最高のエンターテイメントですね。

韓国の女優さんはチャーミングでいいなと

――映画を観ていて「こういう女優さんになりたい」と思うことはないですか?

福本 今だと韓国ドラマの女優さんを観ていて、表情が素敵だなと思います。同じアジア人として感情移入しやすいし、日本人とまた違う良さもあって、最近ハマっています。

――韓国の女優さんは感情表現が豊かですよね。

福本 そうですね。それに、みんな、すごくかわいいんです。ヒロインがチャーミングで、いいなと思います。

――どんな韓国ドラマを観たんですか?

福本 Netflixで『わかっていても』を観ました。

――危ない男に惹かれていく話ですね。

福本 あと、最近観てるのが『ボーイフレンド』。ホテルの女社長が海外出張でたまたま出会った男の人が、韓国に帰ったら自分のホテルに入社してきて……というお話で、面白いです。

「負けず嫌いだから選んだ」と言われて

――これまでのご自身の出演作では、その後の女優人生の糧になったような経験はありますか?

福本 『ふりふら』は自分にとってターニングポイントでした。悩んだし、撮影中も挫けそうになって、三木(孝浩)監督に「何で私を由奈に選んだんですか?」と聞いたんです。そしたら、「負けず嫌いなところが重なっていて、いいなと思ったからだよ」と言ってもらえたのが印象に残っています。

――その負けず嫌いで、撮影も乗り越えて?

福本 そうですね。自分でも負けず嫌いだと思っていたので。三木監督からいただいた手紙を、ずっとお守りのように持っていました。

――演技について、他の監督からでも、言われて刺さったこともありますか?

福本 スクリーンデビュー作の『のみとり侍』で、斎藤工さんが演じる先生が病で倒れて、私がうちわで扇ぐシーンがあって。緊張していたんですけど、鶴橋(康夫)監督に「あの扇ぎ方は上品で良かった。(役の)おみつらしかった」と言ってもらえたのが、すごく嬉しかったです。まさかそこで誉めていただけると思っていなかったので。

――今回の『君が落とした青空』も含め、主演だと作品を背負うプレッシャーもありますか?

福本 ありますけど、一番不安なのは撮影に入る前です。入ったらやるしかないので、それどころじゃなくて。日々撮影に追われながら、一生懸命演じる感じです。

同年代の子が何をしているか知っておきたくて

――今は出演作が続いて忙しいと思いますが、インプットのためにしていることはありますか?

福本 最近は何もできてないですけど、電車に乗ってごはんを食べに行くとか、友だちに会うとか、そういう普通の時間が取れるといいですね。日常が一番幸せだと思います。特別なことをしようとすると、体力を使って疲れちゃうので、気の合う友だちとおいしいごはんを食べるのがリフレッシュになります。

――どんなごはんを食べるんですか?

福本 この前は仲良しのスタイリストさんと台湾料理を食べました。タイ料理も好きで、辛いものも食べます。冬は火鍋とかも行きたいですね。あと、普段お仕事ばかりしていると、同年代の子が今、何をしていて何が流行っているのか、全然わからないんです。だから、この業界でない友だちと会って、普通の感覚を取り戻したいです。そういう感覚を持ってないと普通の役をできないし、社会人としても欠けてしまうところがあるので。

――これからさらに売れっ子になっても、そこは忘れないと。

福本 まだ売れっ子ではないです。普通に電車に乗っていますし。でも、そういう日常は本当に大事にしたいです。

――いずれは自分が日本の映画界を引っ張るくらいの意欲はあります?

福本 事務所の先輩方の背中を追いながら、一歩一歩頑張っていけたらいいなと思います。

*写真は『君が落とした青空』より

Profile

福本莉子(ふくもと・りこ)

2000年11月25日生まれ、大阪府出身。

2016年に第8回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ。2018年に映画『のみとり侍』で女優デビュー、同年にミュージカル『魔女の宅急便』に主演。主な出演作は映画『思い、思われ、ふり、ふられ』、『映像研には手を出すな!』、『しあわせのマスカット』、ドラマ『歴史迷宮からの脱出~リアル脱出ゲーム×テレビ東京~』、『華麗なる一族』、『消えた初恋』など。2月18日公開の映画『君が落とした青空』に主演。5月公開の映画『20歳のソウル』に出演。舞台『お勢、断行』に出演。5月11日~24日/世田谷パブリックシアターほか。

『君が落とした青空』

監督/Yuki Saito 原作/櫻いいよ 出演/福本莉子、松田元太(Travis Japan/ジャニーズJr.)、板垣端生、横田真悠、莉子ほか 配給/ハピネットファントム・スタジオ

2月18日よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

公式HP

(C)2022映画『君が落とした青空』製作委員会
(C)2022映画『君が落とした青空』製作委員会

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埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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