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イスラエル・ハマース衝突開始から100日:ガザ、レバノン、イエメン、イラクの抵抗枢軸の戦果と損害

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

レバノンのヒズブッラーの傘下にあるテレビ局マナール・チャンネルは1月18日、公式ホームページを通じて、パレスチナ・ハマース衝突をめぐるガザ地区、イスラエル、そして抵抗枢軸の戦果と損害をまとめたインフォグラフィックを公開した。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

抵抗枢軸とは、イラン、シリア、そして両国と連携し、その支援を受けるヒズブッラー主体のレバノン・イスラーム抵抗、ヒズブッラー大隊やヌジャバー大隊などイラクの人民動員隊の急進派によって構成されるイラク・イスラーム抵抗、イエメンのアンサール・アッラー(蔑称フーシー派)、そしてパレスチナ諸派の総称。

これらの組織は、イスラエルに対して抵抗闘争を続ける一方、ハマースを除く各派は、シリア内戦において、バッシャール・アサド政権を支援し、シリアのアル=カーイダと目される国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)、イスラーム国に対する「テロとの戦い」に参加、シリア北部、東部、南東部に違法駐留する米軍に対峙してきた。「イランの民兵」、「シーア派民兵」といった蔑称で呼ばれることもある。

インフォグラフィックの公開は、昨年10月8日にパレスチナのハマースによる「アクサーの大洪水」作戦とイスラエルのガザ地区への攻撃が始まってから1月16日で100日が経過し、また昨年10月9日にヒズブッラーが主導するレバノン・イスラーム抵抗がイスラエル北部への攻撃を開始してから1月17日で100日が経過したのを受けたもの。

戦闘はガザ地区、イスラエル北部・レバノン南部に限られず、この動きに同調するかたちで、イラク・イスラーム抵抗が、イスラエル軍、そしてこれを支援する米国への報復として、シリアとイラクの米軍基地とイスラエル本国に無人航空機(ドローン)、ロケット弾、弾道ミサイルでの攻撃を繰り返している。また、アンサール・アッラーも、イスラエル南部などにドローンや弾道ミサイルでの攻撃を行うとともに、イスラエルに物資を輸送する船舶を紅海のバブ・エル・マンデブ海峡で攻撃し、航行阻止を試みている。

ガザ地区における戦果と損害

インフォグラフィックによると、パレスチナ諸派の戦果は、戦車・車輛への攻撃が957回、兵士・部隊への攻撃が403回、作戦司令室への攻撃が16回、軍事基地への攻撃が38回、ヘリコプターへの攻撃が6回、偵察機への攻撃が8回、入植地への攻撃が130回となっている。攻撃回数を足し合わせると1,558回に達する。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

一方、ガザ地区でのイスラエルの攻撃による損害は、死者が23,843人、うち子どもは10,300人、女性は7,100人、医療スタッフは337人、民間防衛隊(消防隊)員は45人、記者は117人となっている。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

また、負傷者は60,317人、行方不明者は8,000人、避難民は2,000,000人、全壊した住居は69,700棟、半壊した住居は359,000棟、損害を受けた学校は318ヵ所、全壊したモスクは142ヵ所、損害を受けた政府関連施設は134ヵ所、教会は3ヵ所、病院は30カ所、攻撃を受けた救急車輛は121台を記録している。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

レバノンにおける戦果と損害

レバノン・イスラーム抵抗の戦果は、作戦回数が722回、うちイスラエルとレバノンを隔てる境界(ブルー・ライン)および後方の陣地・ポストへの攻撃は649回、車輛への攻撃は45回、入植地への攻撃は47回、ドローンへの攻撃は5回、技術設備への攻撃は186回、後方の拠点への攻撃25回、航空作戦は18回となっている。また戦闘員は160人である。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

レバノンでの損害は、死者184人、その内訳は、民間人17人、記者3人、救急隊員2人、軍兵士・抵抗運動戦闘員162人に達している。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

イラク・イスラーム抵抗の戦果と損害

イラク・イスラーム抵抗の戦果は、作戦回数が162回、うちイラク領内の米軍基地への攻撃は65回、シリア領内の米軍基地への攻撃は887回、シオニスト政体(イスラエル本国)への攻撃は10回を記録している。戦闘員の死者数は12人である。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

アンサール・アッラーの戦果と損害

アンサール・アッラーの戦果は、作戦回数が24回、その内訳は船舶への攻撃が12回、船舶の拿捕が1回、シオニスト政体(イスラエル本国)への攻撃が11回に達している。また戦闘員17人を記録している。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

イスラエルの損害

最後に、イスラエル側の損害は、軍関係者521人を含む1,600人以上が死亡、うち地上戦で死亡したイスラエル軍兵士が194人に達しているという。また軍関係者5,000人を含む7,262人以上が負傷、うち兵士4,000人以上が障害を負っている。さらに、500,000人以上が避難、137人が捕捉されているという。

マナール・チャンネル、2024年10月18日
マナール・チャンネル、2024年10月18日

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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