プラットフォーマーはなぜ国家と戦うことになるのか―理解のヒントは「規格」(上)
昨今の企業戦略論では、企業がプラットフォーマーに変身できるかどうかが戦略の岐路だとよく言われる。データを握ったGAFAが世界を支配する―ー他分野でもSuicaは交通の、コマツは建設業のプラットフォーマーだといった議論である。
〇プラットフォーマーは既存市場を吸収・再構築する
プラットフォーマーはITの進化とともに突如出現した――としばしばいわれるが正しくない。プラットフォーマーの原型は紀元前から存在する。度量衡や通貨などの「規格」である。国家や市場は長い時間をかけて社会や経済を動かす基盤として「規格」を育ててきた。ところがGAFAなどのプラットフォーマーは、ITを駆使して自社サイト内に市場を構築(例えばAmazonはEC市場を構築)し、さらに生産や流通に新たな標準を構築し(例えばAmazonの物流に合わせたサイズの家具)、さらに金融(Amazonペイ等)に進出しつつある。
〇「規格」は国家による権力と秩序の基盤
「規格」はもとは国家が独占していた。例えば通貨単位などの度量衡や暦である。度量衡は課税の基盤として構築された。物の価値(価格)や面積や重さが測定できないと公平な課税ができず、統治も取引もできない。きちんと測定する能力が示せないと統治に対する不満が募り、不正や反乱を誘発する。暦もそうだ。時間の概念具体的に見える化することで人々の行動とマインドを支配し、国家の権威を示した。古くから国家のパワーソースは面積(農業生産力、地下資源量)と人口(兵力、労働力)とされてきた。だから国家は面積、重さ、労働時間、そして通貨による富の測定を通じて自分達の実力を推し量り、そこから防御と攻撃の作戦、つまり「戦略」を考えた。このように規格は国家や政府が権力と秩序を維持する基盤として誕生した(これを「規格1.0」とする)。
〇大量生産と標準化(規格2.0)
古代に確立した規格1.0は近代に入り、産業革命を経た工業化のなかで規格2.0へ進化する。規格2.0とは「標準化」のことである。ネジの太さや長さ、コンテナの大きさなどは当初、ばらばらだった。それが国内、さらに世界で統一され、アダムスミスのいう分業による協業が成立した。規格1.0の主役は国家だったが、ここでの主役は企業である。企業が競争しながら規格の標準化を図り、化石燃料の活用とともに大量生産、大量消費の資本主義社会を作り上げた。とりわけコンテナの標準化の貢献が大きい。大型コンテナ船の国際定期航路が開通し、物資が低コストで国境を越えて移動するようになった。コンテナ自体は横幅と高さと奥行きのある単純な箱でしかない。しかし雑多な荷物をそこに詰めて扱いやすくし、さらにそれを積み重ねて運ぶことで陸海空の物流コストが激減した。おかげで原料も製品も世界中を動かせるようになり、生産効率が向上した。かくして大量生産と大量消費が実現し、経済は飛躍的に拡張した。
義務教育や学歴、学位といった制度も規格2.0である。これらは人間を「標準化」し均質な労働者をつくる装置である。学校教育を経て子供たちは「標準人間」に規格化され、彼らが集まって工場での大量生産に従事した。こうしてかつての農民たちは国民教育を受け、技能と社会常識を身に着け、兵役をこなし、また選挙で票を投じるようになった。教育はもともとは徒弟制度だった。しかし学校では標準カリキュラム、科目、授業単位などが制度化され、専門家たちが集まって「分業による協業」を行い、短時間で効率的に労働者を大量生産するようになった。
規格1.0(度量衡や通貨)は測定の単位として統治の基盤となったが、規格2.0(標準化)はかくして生産の単位として企業と経済の基盤となった。
〇規格3.0は「自社内の独占取引市場」
最後に「規格3.0」だが、これこそまさにプラットフォームのことである。プラットフォームは基盤ということだが自社内の独占取引市場と表現するとわかりやすい。規格2.0の時代、取引市場は複数企業が集まってそこに国家が介在して公的なものとして生まれた。そこでは政府が法律で取引ルールの法制化(民法や独占禁止法など)や決済単位や開設時間などを細かく決め、またしばしば取引に課税をした。ところがプラットフォーマーは売り手と買い手を自社のサイトに呼び込み企業内に新市場を創出した。
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