JTB海外旅行CMに『推し武道』など出演が続く伊礼姫奈「演技では自分が出ないように気を張ってます」
昨年、ドラマ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』で松村沙友理が演じる主人公が推す内気なアイドル役で話題を呼んだ伊礼姫奈。現在はJTB「いよいよ海外旅行はじまる」CMに出演し、主演映画や劇場版『推し武道』なども次々に公開。キャリアは4歳からで今春から高校3年生になったが、仕事への意識が大きく変わったという。
主役の現場では引っ張ることを意識しました
――『推し武道』のドラマ取材のとき、内気な舞菜は自分と正反対とのことでしたが、主演映画『18歳、つむぎます』のハツラツとした愛理は素に近い感じですか?
伊礼 舞菜と違う意味で正反対です。愛理も自分にないものをたくさん持っていて、すごく真っすぐで行動的。クラスでみんなの前で発言するシーンも多いんですけど、私はそういうことができないタイプです。
――でも、この映画では、若手俳優の発掘・育成プロジェクト『私の卒業』のオーディションから選ばれたキャストの中で主役を務めました。伊礼さんは同世代ではキャリアも長いですし、現場で引っ張ったりはしませんでした?
伊礼 できるだけ愛理と同じように、自分が引っ張ることを意識していました。他の現場より振る舞い方に気をつけて、みんなとお話しする時間をなるべく取ったり。私は空き時間はいつも寝てしまうタイプですけど、今回は一度も寝ていません(笑)。監督ともコミュニケーションを取って、常に前向きに取り組んでいました。
――いつもはそんなに寝ているんですか(笑)?
伊礼 寝るのが大好きで、ちょっと時間が空くと寝ちゃいます。ロケバスではもちろん、セットチェンジの間に立って寝ていたりもします(笑)。
早く大人になりたいと思うようになって
――愛理は男子にはチャリ子と呼ばれていて、自転車で走るシーンも印象的です。
伊礼 自転車は普段から乗っています。海沿いを走るシーンは初日に撮って、大寒波の日でした。寒かったけど、きれいな海が見えて、気持ち良かったですね。
――愛理は高校3年生。伊礼さんは撮影時は高2。「卒業したくないな」「18歳から大人と言われても心がついていけない」といった気持ちはわかりました?
伊礼 共感する台詞が多かったです。大人って何なのか、教わってもいなくて、ずっと考えながら成人を迎える不安はわかります。でも、私は最近、早く卒業したいと思うようになってきました。大人になる楽しさが少しずつわかってきて。
――大人はどんなことが楽しそうだと?
伊礼 できることが増えて、環境が変わるといろいろな出会いもあると思いますし、高校を卒業したらドライブもしてみたいです。20歳になったらお酒も飲みたくて、カッコいい大人のイメージもだんだんできてきました。
――どんな大人をカッコいいと思いますか?
伊礼 誰かに必要とされる人は素敵だなと思います。お芝居の現場でも「この人がいたら落ち着くよね」とか「引っ張ってくれるね」とか、言っていただけるようになりたいです。
キラキラしたもうひとつの学校のようでした
――『18歳、つむぎます』では、クラスメイトの佐伯に告白されるシーンもありました。恋愛が絡む役は今までありましたっけ?
伊礼 告白される役は初めてだったかもしれません。新鮮でした。
――愛理は佐伯のことをどう思っていたのか、考えました?
伊礼 映画の中ではあえてあまり描かれてなかったんですけど、佐伯くん役の高橋璃央さんとも「どうなんだろうね?」と話しながら、常に考えていました。
――後から「この間のことだけどさ」と言いながら、結局は話が途切れたり。
伊礼 あそこもあいまいなまま終わっていました。でも、他の登場人物も何かが解決したり、発展したりはしてなくて。日常を切り取ったのがいい、という感じでした。
――伊礼さんはそういう学校での青春も楽しんでいますか?
伊礼 あんなキラキラしたことはないですね(笑)。部活も入ってなくて。だから福山での撮影は、もうひとつの学校みたいに楽しんでいました。写真部のメンバーで撮り合ったり、PR映像の撮影で福山城とかいろいろなところに行ったり、思い出ができました。
油断すると元気なテンションが落ちるので
――全体的に愛理を演じるうえで、悩んだことはありませんでした?
伊礼 常に悩んでいました。やっぱり元気な子なので、ちょっと油断するとテンションが落ちてしまって。ずっと気を張って、みんなとできるだけ話して、常に同じ温度感でいることを心掛けていました。
――「俳優として一歩ステップアップさせてくれた」とのコメントがありました。
伊礼 お芝居のことはもちろん、現場での居方の大切さをすごく実感しました。みんなをどう引っ張っていくか、監督とどう接していけばいいか。今後こういう立場の役が増えてきたときに困らないように、いい経験になりました。
――愛理は自分が関わった観光PR用のポスターを見た人に「ここに行きたい」と言われたことで、やり甲斐を感じたと話していました。女優の仕事でもそういうことはありますか?
伊礼 本当にそのままです。私も母が事務所に写真を送ったのがきっかけで、自分の意志で始めたわけではなかったんです。出演した作品を観たおじいちゃん、おばあちゃんが喜んでくれて、続けていきたいと思ったので。そこは自分に落とし込んでいきました。
いろいろな外国語でコメントをいただきました
昨年10月クールに人気コミックからドラマ化された『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。フリーターのえりぴよ(松村沙友理)は、地元・岡山の地下アイドルChamJamのメンバー、市井舞菜(伊礼)に収入のすべてを貢ぐ伝説的なファン。一方、内気でシャイな舞菜は、えりぴよに緊張のあまり塩対応をしてしまっていた。劇場版が5月12日より公開される。
――『推し武道』のドラマでは反響は感じましたか?
伊礼 大きかったです。今でも「舞菜」と呼んでくださる方が多いですし、海外の方から英語、中国語、韓国語や初めて見る言葉でのコメントもあって。放送中、他の現場やオーディションでも、よく「武道館には行けたの?」と聞かれました(笑)。
――こちらの前回のインタビュー記事にも、「本当に内気な子なのかと思っていた」といったコメントがありました。
伊礼 そう思っていただけたなら、役者として良かったです。
――シャイな舞菜を演じるために声や話し方、目線まで気を配っていたんですよね。
伊礼 本当に細かいところまで意識して、作り込んでいきました。舞菜も気を抜くと自分が出てしまうので、常に気は張っていましたけど、現場を楽しんでいて。えりぴよさんとの距離だけは、お互い気をつかっていました。
中学時代は仕事にマイナスな意識を持ってました
――劇場版では舞菜が脚をケガして休業して、「私はここにいていいのかな」と悩むくだりがあります。芸能界にいて、そういう気持ちに陥った経験はありますか?
伊礼 舞菜とはちょっと違いますけど、この仕事を続けるべきか悩むことは、私もよくあります。大変な作品に入って辛いときに、「自分はこの世界に必要なのかな」と思ったり。
――子役時代から朝ドラに出演したり、順調に来ていたわけではなくて?
伊礼 いえ、全然。オーディションに全部落ちていた時期もあります。ちゃんと頑張っていたのに、悔しくてヘコみました。中学時代は反抗期というか、この仕事に対してマイナスな意識も持ってしまって、友だちと遊びまくっていました。
――どう立ち直ったんですか?
伊礼 私はわりとポジティブで、ヘコんでも2日あればケロッと戻ります。甘いものを食べたり、いっぱい寝て忘れていました。それで、中3のときに『向こうの果て』で内田英治監督とご一緒して、「このままだとヤバい」と思ったんです。自分がどちらに行くのか、ちゃんと決めないといけない。芸能界で続けるなら、責任感を持たないといけない。そこでやっと続けていくと決断して、頑張ってきました。
――内田監督に何か刺さることを言われたんですか?
伊礼 そういうわけではないですけど、3ヵ月くらい撮影していて、刺激を受けました。大事なことを教わって、自分が女優をもっと真剣にやらないとダメだと実感しました。
――どんな局面でそういうことを感じました?
伊礼 私が出演したシーンは昭和30年代の設定で、「今の泣き方は現代っ子だった」と言われたり。泣き方に現代も昔もあるのかと思いましたけど、それまで気づかなかったことをちゃんと指摘してくださって。そういう言葉のひとつひとつが、すごく刺激になりました。
新曲のライブシーンは緊張感がいい味に
――『推し武道』のChamJamは岡山の地下アイドルで、劇場版でもライブのビラ配りをするシーンがあります。
伊礼 私だったらしんどいと思っていましたけど、実際にアイドルの方がビラ配りをしているところを見に行くと、みんな生き生きとしていて。私もビラを受け取って「頑張ってください」と言ってきました(笑)。裏では悩むことがあっても、前向きに頑張っているのを感じました。
――岡山から東京まで、マネージャーの運転する車で往復したりも。
伊礼 私たちも日帰りのロケだと車で3時間とかはよくあって、しんどいのはわかります。でも、私はずっと寝ていて、起きたら着いていることが多いので(笑)、車移動はわりと得意です。
――劇場版のライブシーンでは、計3曲をフルで披露しています。
伊礼 本当にライブシーンが多かったですね。『Fall in Love』と『ずっと ChamJam』は前から練習してきたので、みんな自信を持って踊っていました。でも、初披露の曲は緊張感があって、ソワソワしていて。
――ChamJamも初披露する曲では緊張するでしょうし。
伊礼 そうですね。だから、完成した映像を観たときは緊張感が伝わってきて、いい味が出ていました。撮影ではダンスをどんどんいい方向に持っていきたいと、練習をたくさんして、何テイクも重ねました。
電車の中でも頭の中で台詞を言ってます
――伊礼さんはこのところ、他にも出演作の公開が続いて、JTBのCMもよく流れています。活動が軌道に乗ってきた感じですか?
伊礼 高1のときより自分が成長できて、ちゃんと届いていることも実感できています。今までは親しい方が「観たよ」と言ってくださることが多かったのが、現場で初めましての方にも「『推し武道』観てました」と言っていただけるのは本当に嬉しくて。そういうことが増えました。
――努力が実を結んだ結果でもありますか?
伊礼 努力の仕方が変わってきたとは思います。お芝居について考える時間が増えてきました。高1のときは学校生活も楽しみながら、お仕事をしている感じだったのが、高2では学校よりもお仕事。友だちと一緒にいる時間は減ってしまいましたけど、その分、お仕事への想いは強くなって、結果的にいい方向に向かっている気がします。今は電車に乗っていても、頭の中ではレッスンの台本や観た映画の台詞をずっと言っていたりします。
――どんな作品の台詞を言っているんですか?
伊礼 韓国ドラマに影響を受けていて、好きになった主人公のマネを頭の中でしています。電車では人には見せられないので、ひっそりと(笑)。『マイネーム』を観て、アクション練習に行く途中から、自分をハン・ソヒさんだと思って、頭の中で台詞を言いながら戦っていたり(笑)。
海外に「めっちゃ行きたい!」と本気で思ってます
――アクション練習もしているんですか?
伊礼 1ヵ月に1回、通っていました。最低限のことはできるようにしておきたくて、やっていたら体を動かすのが楽しくなってきました。最近、アクションまではいかなくても、転んだり蹴ったりするシーンが増えて、活きていると思います。
――演技に自信も付いてきました?
伊礼 だいぶ付きました。いい意味で負けず嫌いになったというか、「ここまでできたんだから、もっとできる」と現場を重ねるごとに感じるようになって。そこもすごく変わりました。
――JTBのCMは自分でもよく目にしますか?
伊礼 はい。「あっ、私がいる!」って嬉しくて、母も喜んでくれます。あのCMも現場で「観た」と言ってくださる方が多いです。
――「そろそろ海外行こう」と言ってますが、伊礼さん自身も行きたいと?
伊礼 行きたいです! 私はまだ海外に行ったことがなくて、CM撮影のときも本気で「めっちゃ行きたい!」と思って言ってました(笑)。
――最初に行くのはどこがいいですか?
伊礼 ハワイで大きいハンバーガーやロコモコをガッツリ食べたいです(笑)。あと、韓国もいいなと思います。
学校も楽しんで幅を広げて成長できたら
――一方で、高校生活もラスト1年になりました。
伊礼 去年1年を振り返ると、お仕事の方向に行きすぎた気もしていて。もう少しフッ軽に学校も楽しみつつ、人とのつき合いを大事にどっちも頑張りたいです。
――具体的に高校時代にやりたいことも?
伊礼 卒業するまでに、絶対に制服でディズニーランドに行くと決めています(笑)。私、制服が大好きなので、あと1年しかないと思うと、やりたいことがいっぱい浮かんでしまいます。卒業したあとでもディズニーランドには行けますけど、制服でないとリアルに感じ方が変わってしまいますからね。
――仕事のほうも、ますます充実しそうですね。
伊礼 声のお仕事をしたいと前から思っていて、それも高3で叶えたいです。アニメだと『ジョジョ(の奇妙な冒険)』が好きで、そういうものにも影響されやすいタイプです(笑)。勉強も頑張りつつ、いろいろ幅を広げて成長できたらと思います。
Profile
伊礼姫奈(いれい・ひめな)
2006年2月7日生まれ、群馬県出身。
4歳から女優活動をスタート。主な出演作はドラマ『とと姉ちゃん』、『向こうの果て』、『今度生まれたら』、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』、映画『ファミマを曲がれば私のおうち』、『マイ・ブロークン・マリコ』など。映画『18歳、つむぎます』、『この小さな手』が公開中。『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』が5月12日より公開。
『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』
監督/大谷健太郎 脚本/本山久美子 原作/平尾アウリ
5月12日より全国ロードショー