小野リサ ボサノバと言葉の旅を続け30年 「今は日本語で歌う事が楽しい」
小野リサといえば、ボサノバを日本に広め、定着させる事に貢献をしたアーティストのひとりだ。ブラジル生まれ、日本育ちの小野は今年デビュー30周年を迎え、3月28日に30周年記念アルバム『旅 そして ふるさと』を発売し、4月27日からは『30thアニバーサリーツアー~旅 そして ふるさと~』を行う。5月には初のオーストラリア公演を行うなど、精力的にライヴ活動を続け、今も世界中を旅している。そんな小野に、30周年を迎えて思う事、ボサノバの魅力についてなどを改めて聞かせてもらい、これからの活動についてもを振り返ってもらった。
ブラジルで生まれ、ブラジル音楽を奏で続けてきて、デビュー当初はポルトガル語にこだわる。「今は日本語で歌う事が楽しい」
30周年記念アルバム『旅 そして ふるさと』は、日本語で歌うJ-POPカバーアルバム第4弾になる。玉置浩二「メロディー」や山口百恵『いい日旅立ち』他、ご当地ソングや、旅をテーマにした名曲を中心に14曲カバーしている。しかしデビュー当初は、ポルトガル語で歌い続け、結果的にそれがボサノバが、日本で広がっていく大きな要因になっている。
「デビューするにあたっては、日本語でオリジナルアルバムを、というお話を、レコード会社からはいただいていました。でもブラジルで生まれて、ブラジル音楽を演奏し続けてきて、やはりポルトガル語で歌うという事に当時はすごくこだわっていました。それが自分のカラーであると思っていました。1999年から『音楽の旅』(ジャズ、ソウルミュージック、カンツォーネ、シャンソン、ハワイアンなど、世界各国の音楽をボサノバアレンジで、現地の言葉で歌う)というシリーズを始めて、得るものがたくさんありました。そんな中でシリーズの最終目的地である日本に辿り着き、初めて全て日本語で歌うアルバム『Japao』(2011年)を作った時に、壁にぶつかりました。日本語は緻密で、表現がすごく難しくて、そこに到達できない自分がいて、悩んでいた時期もありました。でも今は日本語で歌う事が楽しいです」。
「私のやるべき音楽はこれ(ボサノバ)だったんだと、ビビッときた」瞬間とは
小野が音楽と出会い、ミュージシャンを志すきっかけになったのは、父親がブラジル・サンパウロで経営していたライブハウスレストランだった。
「父がサンバが好きで、賑やかなリズムを日本の人にも聴かせたいと、ライヴハウスを経営していました。私もサンバを歌っていましたが、サンバは打楽器の音が大きいので、それに負けないような声量も必要です。でも私にはそんな声量はなく、悩んでいた時、あるホテルのラウンジで歌うお仕事をいただいて、そこではお客さんの妨げにならないように、雰囲気を作る静かな音楽を、というリクエストでした。その時初めてボサノバを歌ったところ、私のやるべき音楽はこれだったんだとビビッときました。それが23歳くらいの時でした」。
ボサノバと日本の音楽の共通点
小野の、心地いい風を感じさせてくれる、ナチュラルで柔らかな声を聴くと、まさにボサノバを歌うために生まれてきたのではないかと思ってしまうほどだが、自身の中で“しっくりきた”のは、意外なタイミングだった。メロディアスな旋律と情熱的なリズム。ボサノバの特徴だが、ボサノバは1950年代後半に生まれた、比較的新しいジャンルの音楽だ。昔から東洋思想に興味があったという小野は、以前何かのインタビューで、「ボサノバと日本の音楽の共通点は、禅の考え方」という事を語っていた。
「ボサノバの神様と呼ばれている、ブラジルのジョアン・ジルベルトは、瞑想的な演奏をしますが、当時の若者たちはインドの瞑想やヨガなどの、ナチュラル志向の考えを持っている人がたくさんいて、その中でジョアン・ジルベルトはボサノバを作っていったと思います。ブラジルには“ボサノバ禅”という言葉もあります」。
『ワールドツアー完璧MAP 世界を巡るコンサート』で、城南海、K、Ryu Matsuyamaと共演
ボサノバは、まず中流階級の学生を中心とした、現地の若い層に受け入れられ、その後世界中に広がっていった。日本にボサノバの大きな波を運んできたのが小野だ。その活動の場は日本だけにとどまらず、ニューヨーク、ブラジル、アジアなどで海外公演を積極的に行ってきた。そんな世界中を旅している小野が出演する、旅をテーマにしたライヴが行われる。それが、BSフジの番組『ワールドツアー完璧MAP』シリーズ(月~金曜 朝7:30-7:55)と関わりの深い、小野、城南海、K、Ryu Matsuyamaという4組のアーティストが一同に会する『ワールドツアー完璧MAP 世界を巡るコンサート』(4月20日(金)/東京・かつしかシンフォニーヒルズ)だ。
「3組のアーティストと共演させていただくのは初めてですが、それぞれが、色々な国の音楽のスパイスやジャンルに影響を受けて、オリジナリティあふれる音楽を作り上げています。非常に楽しみです」。特に計画を立てずに、本能的に旅に出てしまうという小野が、今行ってみたいところは「京都」だという。「もう何度も訪れている街ですが、行く度に惹かれます。最新アルバム『旅 そして ふるさと』でも、京都のご当地ソング「女ひとり」(デューク・エイセス)をカバーしています。歌詞に三千院、高山寺、大覚寺という寺院が登場しますが、木々に囲まれて自然と共存するお寺や神社は、歳を重ねるごとに見え方も変ってきます。和楽器の音の響きは心を落ち着かせてくれて、その景色に馴染むものだと感じます。私もそのような重心の低さをもった音楽を、こんな素敵な場所で学べたらと思います」。
“音楽は国境を越える”というが、その国や土地の音楽へ理解を深めようとすれば、自ずと文化や歴史を知ることにつながる。『ワールドツアー完璧MAP 世界を巡るコンサート』では、小野はブラジルの、城は奄美大島の、Kは韓国の、そしてRyuMatsuyamaはイタリアの風を運んでくれる。“音楽”が旅をする空間で、音楽の風に身を委ね、心ゆくまで楽しみたい。