柔道界はいつ”非暴力”にたどり着くのか――道場の指導者が小学生に平手打ち
道場の指導者が小学生に平手打ち
全日本柔道連盟(全柔連)は30日、臨時理事会のなかで会員登録停止処分の事案を発表した。
そのうちの一つは、中国地方のK道場で昨年8月に起きた、小学6年男児2人に対する暴力行為に関するものである。男性指導者が頬を平手で叩き、ケガを負わせたとされる。全柔連は、6カ月の期限付きではあるものの、その指導者に会員登録停止処分を科した。(→Yahoo!ニュース:時事通信社、Yahoo!ニュース:毎日新聞社)
K道場でまた・・・
この一報を目にしたとき、私は驚きを禁じ得なかった。
なぜなら、同じK道場で2007年に死亡事故が起きていたからである。K道場は、オリンピックの金メダリストであるK氏が運営している。民事訴訟において、館長であるK氏は安全配慮義務違反があったとして敗訴している(K氏に2400万円の支払い命令が下される)。「全国柔道事故被害者の会」の資料によると,事例の概要は次のとおりである(一部、加筆・修正をおこなった)。
○事故発生年月: 2007年
○被害生徒・学年(事故当時): Aさん、中学1年
○被害状況: 急性硬膜下血腫により死亡
2007年●月●日午後6時半頃、K道場において投げ込み練習中、A(経験年数3年)は中学3年生に変則的な大外刈りで投げられ後頭部を強打した。その際、Aは頭を痛そうに抱えていたにもかかわらず、そばにいた女性指導者が「頭を打ったくらい大丈夫」と続行を命じ、再度投げられ急性硬膜下血腫を発症し、同年●月に死亡した。
女性指導者は、瞳孔が開き激しく嘔吐し呼びかけに反応しないAを熱中症と軽信し、直ちに救急車を要請せずに畳に寝かせていた。加害者は道場指導者から、非常に危険で変則的な大外刈りを教わっていた。
民事裁判で加害者の大外刈りは非常に危険な技だと認められ、以前から相手がよく頭を強打する事実を放置していた道場側に安全配慮義務違反があったとして勝訴した。指導者が基本的な医療知識を有し、危機管理の念を持って指導にあたっていれば、Aは死亡という最悪の事態を免れたはずだ。
道場は事故後も裁判後も事故原因を追及することなく稽古を続け、未だに謝罪の言葉もない
2007年当時の、K道場の杜撰な安全管理が読み取れるだろう。しかも、じつはAさんの死亡事故以前にも、道場の門下生が柔道で重度の障害を負う事故に遭っている。とある機会に、Aさんの父親は、私に次のように語った。
Aの事故の前にも、事故が起きていたんです。昭和62(1987)年に、近くの中学校で部活動中に、その道場の門下生どうしが練習をしていて、事故が起きました。中学1年生が2年生に大外刈りで投げられて、脳に重い後遺症を負うという事故でした。柔道で頭部外傷の重大事故が起きるということは、その時点で道場も当然認識していたはずなんですよ。それでも、そのときの教訓が何も活かされないまま20年が過ぎて、悲劇を繰り返してしまったんです。
20年前に門下生の間で起きた事故の原因を自ら検証して、安全対策を講じていれば、Aさんの事故は防げたはず。残念ながらK道場では、頭部外傷に対する危機意識が醸成されることはなかったようだ。
安全意識の低さ
ここでは、K道場のことをとりあげたが、だからといって、これをけっしてK道場個別の問題にとどめてはならない。重要なのは、安全意識が低くかつ暴力的指導を厭わないような事態が,許されてきたことこそに問題がある。柔道界さらにはスポーツ界の体質に目を向けなければならない。
Aさんの父親は、全国柔道事故被害者の会のシンポジウムにて、柔道の安全を次のように訴えかけた――
「柔道は怪我がつきもののスポーツ」
「最近の子どもは体力がないから怪我をする」
「受け身を取れば怪我をしない」
これら全て大人の都合です。言い訳です。責任の回避、責任の転嫁です。
怪我がつきものであれば、まずその原因を取り除いてください。
体力がないのなら怪我をしない体力をまず付けさせてください。
[写真:全中柔道 全国中学校柔道大会 @ flickr 克年 三沢 http://www.flickr.com/photos/misawakatsutoshi/5898676495/ ※写真は本文の内容に直接関係するものではありません。]