Yahoo!ニュース

みずほのポジティブすぎる謝罪会見

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
(写真:西村尚己/アフロ)

 みずほ銀行が8月20日、約半年で5度目となるシステム障害についての記者会見を開いた。

 みずほ銀行では、2021年2月末から3月上旬に、4回のシステム障害でATMからキャッシュカードが取り出せなくなるトラブルなどが起きており、再発防止に取り組んでいる中での障害だった。今回は、みずほ信託銀行と合わせて計500店舗超で窓口の取引を一時的に全面停止した。

 会見には、みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長、みずほ銀行の藤原弘治頭取らが登壇した。

「原因はまだよく分からない」段階の、謝罪が主な内容となる会見だった

原因が分からなければ、責任も見えず、もちろん再発防止に向けた取り組みも説明ができない。「なぜこんなに何度も」と厳しく追及され、理解も得にくい流れになることが予想された。ところが実際には、経営陣のポジティブさが際立つ異色の謝罪会見だった。

 会見は開始から1時間半ほどで質問が出なくなり、一般的には「申し訳ございませんでした」と頭を下げて終わることが多い会見終了時も、「どうもありがとうございました」で静かに終えた。

 このポジティブすぎる姿勢が社風によるものか、トップ個人の気質によるものか、あるいは狙いがあってのものなのかは分からない。だが、これだけ短期間に繰り返されるシステム障害の謝罪会見の場には、明らかにそぐわない。

みずほ会見のポジティブさを生む3つの要素

みずほの記者会見が、謝罪会見でありながら、他社にはあまり見られないポジティブすぎる印象があるのは、大きく以下の3つの要素が組み合わさっているからだ。

1)システム障害の内容についても、技術系の担当役員ではなく、そのほとんどをFG社長や頭取が「文系でも分かるように」説明すること。

2)問題の全容が明らかになっていない段階で、トップが説明することによって、具体的な問題の1つ1つに注目させるのではなく、リーダーとして誠実に取り組んでいる姿勢を見せることに重きをおいた説明になっていること。

3)どんな厳しい質問や批判に対しても、前向きな表現でまとめること。

 一例を紹介しよう。

 「こんなことを繰り返してもなお、自分たちの責任は防止策だと言う。現場にはもっと厳しくやってるんじゃないか。どんな顔で言ってるんだ」などと問われた際に、藤原頭取は、

 「それは私が一番気にしていることの1つ」であり、「すばらしい仲間に支えられている。申し訳ないとともに感謝の気持ちでいっぱい

 「きびしいお言葉をお客様からいただくのも現場の諸君」であり、4回のシステム障害のあと多くの社員と直接話をし、「熱い情熱ですとか思いを聞いた」。

 そうした経験から、「最後の一秒まで全力を尽くしたい」と言う。これまで進めてきた改革も、「私をヘッドに指差し確認をしながら新体制を迎えた」「もう一段、目線を上げてシステム部門の盤石性について見ていきたい」などという具合で答えている。

 謝罪会見で、頭取が「情熱」に「指差し確認」である。

初めてなら合格点

 日頃、多くの会見を見て伝え方をアドバイスしてきた経験から言えば、会見におけるトップの伝え方としては、合格点だと感じる。

 素早く謝罪し、原因の徹底究明を約束し、再発防止を誓う。

 窮地に陥った時にも、人は堂々としていれば良い、そんな勇気を与えると言えそうなほど、力強い。これほど立場のない境遇にあっても前向きでいる清々しさに、逆に、感心する人もいたかもしれない。

しかしそれは、もしこれが「初めての謝罪会見なら」あるいは、「少し離れた立場から見れば」という条件がつく。近ければ近いほど、影響を受けている人ほど、冷めた見方、ネガティブな反応になるだろう。

ネット上の反応を見れば、「的はずれなやりとり」「うちの方がまだマシ」「信じられない」「なぜこれだけ問題を繰り返してこの自信」など、問題を身近に感じる人ほど呆れた声が飛び交っている状況だ。

 実際のところ、ポジティブすぎる姿勢は、「会見を乗り切る」「批判の声を煙に巻く」上ではプラスに働くかもしれないが、具体的な問題を掘り下げて見ていくには、明らかにマイナスである。

経営トップだけが前に出る弊害

 多くの場合、技術にそれほど明るくない経営トップは、システム障害について自分で説明することは少ない。会見では、技術的な質問と、経営的な質問が別々に出て、それぞれを担当する登壇者が答えることになる。

ところが、みずほのように経営トップがほとんどの質問について答えると、たとえば技術的な質問も「経営者の考え方」に答えがまとめられてしまう。

 たとえば20日の会見では、原因はハードウェアの問題だとされた。「たいへん複雑な問題が起きた」と言う。記者から「故障したハードウェアのメーカーはどこか?」という質問が出ると、「自分たちの責任なのでこの場では回答を控えたい」と答える。

「原因の究明」が、「現在分かっていること」を具体的にするのではなく、「今後精査していく話」にまとめられてしまうのだ。

 その結果、具体的で専門的な情報のやりとりは限られてしまい、「謝罪した」という以外のニュースがほぼ出なくなる。

「なぜ、みずほばかりがトラブルを繰り返すのか?」と問われている時に、「なぜ」に関する情報がほとんど得られない会見になってしまっているのだ。 

 ほかにも、何度も問題が起きている。その責任をどう取るのかと問われると、坂井社長は、「短期間に5回ということで、今回の事象も極めて重く受け止めている。6月15日に発表した再発防止策にのっとって鋭意改善を進めてきているが、より強固な再発防止策にしていく必要があると考えている。それをやっていくことが私の責任のあり方」などと答えて終わる。

 さらに、6回目はないと言えるのかと問われた時には、「当然起こさないというスタンスで臨みたいと思っている万々一、起きた場合にも、お客様への影響を極小化する」(坂井社長)という表現を使っている。原因も分かっていない段階なのに、である。

 ここまで来ると、もはや事実ではなく意気込みを聞かされている状態だ。

   

   

現場感に乏しく問題解決に遠い印象を生んだ

   

 トップがポジティブに説明をしている様子は、リーダーとしての頼もしさを感じさせる一方で、逆に組織内の役割分担や専門部隊がきちんと機能しているのかをわかりにくくさせる。

最も大きな問題は、説明に現場感が出ないことだ。せっかくの会見にも関わらず、何が起きたのか実態把握が困難で、重要な情報が隠れてしまう可能性が高くなる。

会見は乗り越えたかもしれないが、問題解決は遠そうという印象を生んだ。経営陣も問題解決は難しそうと分かっているから「さっさと」会見を済ませたのかもしれない。

謝罪会見はポジティブさのアピールの場ではない。繰り返される問題についての説明を問われる今回のような場では、なおのことだ。

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

鶴野充茂の最近の記事