「朝鮮人の恥だ」北朝鮮の汚物風船、国民に芽生える“逆効果”
北朝鮮が、汚物風船を飛ばし続けている。
韓国軍当局は、北朝鮮が9日夜から10日朝にかけて汚物の入った風船310個を飛ばしたと明らかにした。中身は古紙やビニール、家畜の糞尿、ガラスのかけらなどのゴミで、ほかに「危険な物質」は入っていなかったとも明らかにした。これは、韓国側が6年ぶりに、北朝鮮に向けた拡声器放送を再開したことへの報復とみられている。
だが、北朝鮮当局のこうした行為は、韓国からの風船に対する国民の関心を高めてしまうという逆効果を生んでいる。北朝鮮国民が意識的に風船からまかれた政治宣伝ビラを拾ったり、隠したりすれば公開処刑もあり得るのだが、そうした状況が「怖いもの見たさ」を煽っている部分もある。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
汚物風船は先月28日、29日に260個、今月1日、2日に720個、8日、9日に330個と、合計で1620個が発見されている。人的被害はなかったものの、ソウルの西隣の富川(プチョン)市で2日午前8時過ぎ、落下物の直撃を受けた車が一部炎上する騒ぎとなるなど、8件の被害が報告されている。
また東亜日報系のチャンネルAは、大統領執務室からわずか600メートルのところにある国立中央博物館の北側駐車場の入り口付近に9日午前4時ごろ、汚物風船が落下し、警察や消防が処理に当たったと報じた。さらに2個の風船が、地下鉄の梨泰院(イテウォン)駅周辺に落下したとも報じた。
デイリーNKは、自国が汚物風船を飛ばすという攻撃を行っていることを知った北朝鮮国民の「恥ずかしい」「国のイメージが悪くなる」という反応を伝えたが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)も、新たにインタビューを行っている。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の住民は、地元で汚物風船の話が広がりつつあると述べた。それを聞いた市民の反応は、一様に否定的だ。
「最近、わが国(北朝鮮)が韓国に汚物風船を飛ばしたことが広く知られるようになり、国民は大きなショックを受けている。国が風船に煙草の吸殻、古紙、糞尿などを入れて飛ばしたこととは信じられないという空気だ」
「もしわが国が汚物風船を飛ばしたのならば、朝鮮人として恥ずかしい」
(咸鏡北道の住民)
同様に汚物風船の話が出回りつつあると伝えた両江道(リャンガンド)の住民は、「呆れる」「低劣な振る舞いだ」との声が市民から上がっていると伝えた。一方でこんな話もしている。
「外国の真実(に関する情報)を保存したUSBが入った風船を韓国から飛ばしたからと、それに対抗して汚物風船を飛ばす作戦に出た当局のやり口は、恥ずかしくて顔から火が出そうだ」(両江道の住民)
一方、汚物風船は前述したとおり、皮肉なことに韓国からの風船の中身に対する関心を高めるという逆効果を生んでいる。
「政権維持にリスクとなる致命的な事実が入っていなければ、汚物を集めて韓国に飛ばす理由にはならないだろう」(住民)
韓国から距離が遠く、風船が中々届かない両江道だからこそ、好奇心がより高まるのだろう。
なお、脱北者団体のキョレオル統一連帯は、ハンギョレ新聞とのインタビューで、7日夜にビラ20万枚を入れた風船10個を北朝鮮に向けて飛ばしたと明らかにした。また、自由北韓運動連合も6日、トロット(演歌)とドラマ「冬のソナタ」のファイルが保存されたUSBメモリや、1ドル紙幣、金正恩総書記を批判するビラ20万枚を風船10個に入れて飛ばしたと明らかにした。