新築時価格から1.5倍に上昇する例も なぜ高速道路脇の中古マンションが人気に?
20世紀の間、高速道路に面したマンションは買うべきではないとされた。交通量が多い高速道路脇に建設されるマンションは環境の面で問題が多かったからだ。まず、車の音がうるさい。排ガスもひどかった。そのため、空気がよどみ、洗濯物も干せない。そして、建物の外壁は排ガスで黒く汚れていた。みるからに、劣悪環境のマンションになったので、「買うべきではない」とされたわけだ。
新築時価格から1.5倍に上昇する例も
ところが、21世紀になって20年近く経とうとする現在、高速道路脇のマンションに対する評価が変わってきた感がある。というのも、東京の都心部では高速道路脇に建つ、中古での人気マンションがいくつもあるからだ。
その代表例となるのが「東京ツインパークス」だろう。新橋駅に近い汐留エリアに建つ2棟の超高層マンションで構成される「東京ツインパークス」は、建物の南側に首都高速の都心環状線がある。それだけではない。建物の北側には東海道新幹線とJR山手線をはじめとした複数路線の線路がある。浜離宮が近いなど眺望はよいのだが、騒音を問題にすれば、これ以上ないほど残念な場所となりそうだ。
にもかかわらず、「東京ツインパークス」は中古市場で高値を維持している。2000年から01年にかけて新規分譲された価格は、約41平米〜131平米のワンルーム〜3LDKが4280万円〜1億9500万円だった。
「東京ツインパークス」は2002年に完成。以後、中古市場で絶大な人気を誇り、17年経った今も新築時価格の1.5倍以上の売り出し価格を維持している。
同様に、高速道路沿いに建つ人気マンションの例が湾岸エリアの台場にある。
首都高速湾岸線を走っていると、お台場でフジテレビジョン本社のそば、頂上が王冠のようになっている超高層マンションが見える。目立つ建物なので、わかりやすい。それが、「ザ・タワーズ台場」だ。06年の新規分譲時、私の資料では約30平米〜177平米のワンルーム〜4LDKが1990万円〜2億1000万円。こちらも、現在の中古市場で1.5倍程度まで値上がりしている住戸が多い。
品川駅から徒歩13分でも、倍に値上がり
もっと大きく値上がりしているマンションが、首都高速神奈川1号横羽線沿いにある。
品川エリアに建つ「ワールドシティタワーズ」だ。横羽線で都心から横浜方向に向かう車線を車で走ると、部屋の内部が見えそうなくらい近い。が、このマンションは値上がり幅が大きい。
同マンションは総戸数が2000戸を超える規模で、10年ほどをかけて販売された。そのため、分譲時期によって価格が異なるのだが、建物の完成が近づいた06年当時で、約41平米〜134平米の2LDK〜3LDKが2630万円〜1億7900万円だった。
現在の中古価格は、1.5倍以上。新築時3000万円前後だった住戸ならば、2倍の6000万円以上になっている。
「ワールドシティタワーズ」は、駅に近いマンションとはいえない。東京モノレールの天王洲アイル駅から徒歩4分だが、JRの品川駅からは徒歩13分、東京りんかい線天王洲アイル駅から徒歩8分となる。JRの駅から離れ、高速道路に近いのに、中古価格が高止まりしているわけだ。
ほかに、高速道路に近い人気マンションを探すと、板橋区で、首都高速5号線に近い「サンシティ」という大規模マンションがあるし、千代田区内で、首都高速都心環状線近くに都心高級マンションの代表格「ザ・パークハウスグラン千鳥ヶ淵」がある。
首都高速3号線では、大橋ジャンクション上に建つ「クロスエアタワー」という超高層マンションがある。「クロスエアタワー」は、高速道路のジャンクション(複数の道路を連絡路によって立体的に接続する施設)上に建っているため、これ以上高速道路に近いマンションはなさそうだ。
それら、高速道路に近いマンションは軒並み中古市場での人気が高く、値上がりもしている。
多くの人の目に触れることが、人気の理由か
高層道路の脇や、高速道路に近いマンションで人気物件が続出している。なぜ、そんなことが起きているのか。
理由のひとつとして、高速道路脇の環境が以前より改善されていることが挙げられる。首都圏の一都三県では、03年以降、旧型式のディーゼルトラック・バスの乗り入れを禁止。ガソリン車に対する騒音や排ガスの規制も強まって、車全般がクリーンで静かになった。
おかげで、今は、高速道路の脇でも外壁が黒く汚れているマンションは見かけなくなった。20世紀まで、都心でも真っ黒な排ガスを出して走るトラックをよく見かけたものだが、それがなくなっただけでも、高速道路脇のマンションは汚れなくなったのだろう。
黒く煤けたマンションを見かけなくなると、高速道路から見えるマンションのイメージが変わってきた。夕暮れ時、高速道路を走る車から、いくつか明かりの付いたマンションの窓が見えると、「こんな都心部に住んでいるのは、うらやましい」と思ってしまう。
夜遅くに都心から車で帰るときなどは、「もう、すっかりくつろいでいるだろう」とおぼしき家庭の明かりがさらにうらやましくなる。高速道路からよく見えるマンションは、21世紀に入ってから、憧れの目で眺められることが生じるようになったわけだ。
マンションは目立つ物件ほど、「あんなところに住んでみたい」と思う人が増える。憧れる人が多ければ多いほど、中古価格が上がるし、賃貸に出したときの家賃も上がる。つまり、資産価値が上がる。
高速道路脇のマンションは人の目に触れる機会が多く、その姿が薄汚れることがなくなったので、以前とは異なる評価を受けるようになったのである。