テニスもビッグデータの時代!? IBM社のイノベーション(2):人工知能が編集するハイライト映像
チャレンジ(ビデオ判定)システムや、リアルタイムでのスタッツ表示、そしてそれら膨大な情報を用いてのコーチング――。
今やテニスの世界も、ビッグデータを収集・解析し、多方面で活用する時代。
そのテニス界の新時代を牽引するのが、多国籍インフォメーション・テクノロジー社として名高い、IBM社である。
同社は、最高権威を誇る四大大会でのデータ収集・解析を行うほか、全米テニス協会(USTA)とは30年に及ぶパートナーシップを提携しており、米国人選手を多角的に支援している。
先月末から9月上旬にかけてニューヨークで開催されたUSオープンでは、IBMが誇るテクノロジーを用いた、テレビ視聴者や観客を楽しませる種々の情報提供等が行われていた。
そんなIBMのイノベーティブな活動を紹介するコーナーの、第2回目。今回は同社が開発した人工知能“ワトソン”が作成する、“AIハイライト”を紹介する。
■試合後僅か3分以内! ビジュアルとサウンドをもとに編集されるハイライト映像■
“ワトソン”とは、その名をIBMの初代CEOであるトーマス・J・ワトソンにちなんだ、人工知能である。彼の存在が広く知られたのは、2011年。アメリカの人気クイズ番組『ジェパディ!』に回答者として出演し、同番組の伝説的チャンピオンを倒し優勝した時である。
そのワトソンが、テニスの世界にも関わりだしたのが2017年。約3年掛けて、文字通り世界のテニス事情を学んだワトソンは、今年のUSオープンで、満を持して表舞台に乗り出してきた。
それが、“AIハイライト”である。
昨今のテニス大会では、1試合の見どころを1~5分にまとめたダイジェスト映像が、公式サイト等にアップされる。ただグランドスラムともなると、まとめるべき試合数は膨大だ。なにしろ、1日に男女(場合によってはジュニアや車椅子など)をあわせ、50~70の試合が行われるうえに、試合時間もまちまち。男子の5セットマッチともなれば、4時間以上に及ぶことも珍しくない。それらの映像を確認し、ターニングポイントやスーパーショットを選定し編集するのは、とてつもない時間と労力を要する作用である。
そこで出現したのが、ワトソンだ。
ワトソンは、試合映像をチェックしながらリアルタイムで、最も盛り上がったシーンや選手が興奮した場面をチェックしていく。主な判断材料となるのは、“選手の表情やガッツポ―ズによる感情表現”、“観客の声援やため息などの音”、そして実況や解説がついている放送の場合は、“アナウンサーの声のトーン”。
さらに今年は音声分析が一層細分化され、“サーブやストロークのインパクト音”と、観客の声援の関連性も計算に入っているという。
また、飛び抜けて人気のある選手や、パフォーマンスの大仰な選手などの情報も、ワトソンにはインプット済み。これらのデータは、バイアス(偏向/先入観)排除に活用される。
そうしてワトソンが選定したハイライト動画が、USTA映像部のもとに届くまでに要する時間は、3分以内。その後、人間の目と頭脳によるチェックが入り、公の場へと姿を現す運びだ。
このように、ワトソンは種々の情報を自らの“頭脳”で判断しながら、映像を編集していく。もちろん、そのような判断が可能になったのは、人間がワトソンに、テニス事情を“教育”してきたからだ。
テニスのルール等をはじめ、モーションキャプチャーや顔認識機能を使い、喜怒哀楽の感情表出を教え込む。さらには前述したように、選手のパーソナルな情報やプレーの特性などもワトソンは知ることが必要だ。それらの情報は同じ選手でも年々変化していくし、年が変われば新しい選手も出現する。そのような情報のアップデートのため、USオープン開幕の3ヶ月前から、集中的な教育が行われるという。
かくして編集されるハイライト映像は、現在はかなりの精度を誇り、大会期間中にも多くのファンや視聴者を引き込んできた。
技術の進化は凄まじい――!
そう驚かされ感嘆すると同時に、いずれは原稿を書くという仕事もAIに取って代わられてしまうのではないかと、そんな不安も脳裏をかすめた取材でもありました。
※次回は、AI“ワトソン”が試合を解析し、選手に適切なアドバイスを送る新システム、“コーチ・アドバイザー”についてお伝えします