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すき家の第三者委員会報告書雑感

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

今日、ゼンショーの「「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会」が調査報告書(以下「報告書」とします)を提出し、同社のホームページに掲載されました。

http://www.zensho.co.jp/jp/improve/

報告書にざっと目を通して気付いた雑感をいくつか。

1 管理監督者の範囲が適正か否か調査していない

報告書によると、すき家の営業部門・現場部門の正社員の職位には

トレイニー(大卒1年目の職位)

ストアマネージャー(店舗店長。現在、ほとんどいないとのこと)

エリア・マネージャー(3~7店舗を管理)

ブロック・マネージャー(10~20店舗を管理)

ディストリクト・マネージャー(80店舗を管理)

ゼネラル・マネージャー(450~550店舗を管理)

があり、スーパーバイザーというDM、GM級の役職もあります。

現在廃止されている職位としてゾーン・マネージャー(20~30店舗を管理。本年6月2日以降廃止。)、スーパーインデント(多店舗の店長を兼任。2013年4月廃止)があります。

また、1年契約の契約社員は

スウィング・マネージャー(1店舗を管理する店長)

シニアマネージャー(35歳以上の契約社員。現在はAMと同様の役割が多い)

ACE社員(複数の店舗を管理。SM又はAMに相当)

という職位があります。

報告書ではすき家の「管理監督者」ではない正社員・契約社員の残業時間を表にしています(報告書p11)。上記の区分のうち、ブロックマネージャー以上の正社員は「管理監督者」とされており、残業時間の表示がありません。従って、残業代を払っていない可能性が高いです。

しかし、ブロックマネージャーやディストリクト・マネージャー、ゼネラルマネージャーが労基法41条2号の管理監督者(労働時間規制の適用除外となる)に該当するかはかなり疑問です。具体的な権限や処遇、出退勤管理の状況等を詳細に検討しなければならないでしょう。第三者委員会がここを検討せずスルーしてゼンショーの言い分を鵜呑みにしているのは温情措置と言えるでしょう。

2 残業時間の集計方法が不完全

報告書では管理監督者ではない正社員・契約社員、アルバイト(クルー)の残業時間を示しています(p11、12)。正社員・契約社員に絞って検討すると、報告書自体が認めているように、15分未満の労働時間の切り捨てや、未申告残業が相当規模であるのに、その規模や実態の把握に踏み込まず、「給与データ」(p10)での残業時間の集計をしています。これでは実際の労働時間の実態を反映したものとはならず、過小でしょう。

また、アルバイトの所定労働時間については「一日8時間又は1週間について40時間以内を標準として個別に定められる」(p18)と記載があるのに、社員の所定労働時間は「1日8時間」(p17)としか表示していません。上記「給与データ」に労基法が定める週40時間超の残業時間が含まれているか疑問が残ります。この点でも、残業時間が実態より過小になっている可能性が否定出来ません。

また、一ヶ月の残業時間毎の人数の分布が0~60時間未満、60~100時間未満、100~120時間未満、120~160時間未満という刻みで把握されており、刻みが等間隔ではありません。そして「過労死ライン」とされる週80時間(下の囲み参照)を超えるか否かで区分をできないデータになっています(p11)。なぜ、第三者委員会がこのような区分方法を採らなければならないのでしょうか。

厚生労働省「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(抜粋)

[1]発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること

[2]発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること

3 それでも過労死ライン超えが多数にのぼる

筆者が報告書11ページの表を元に、月100時間超の残業をしている管理監督者ではない正社員・契約社員の割合を月ごとに算出してみました。すると、下表のように、いつ過労死してもおかしくない月100時間超の残業をしている正社員・契約社員が少ない月でも8%、多い月だと50%以上もいる異常な状態であることが分かりました(なお厚労省の過労死認定基準は週40時間労働制との関係で残業時間を把握するので若干誤差は出ます)。

上記のように、この割合の裏にさらに暗数がある可能性が高いのです。

月100時間超の残業をしている社員の割合
月100時間超の残業をしている社員の割合

4 労基法の罰則を適用すべきではないのか

また、ゼンショーは、すき家の労働実態について、労働基準監督署から、下図の様に多数の是正指導を受けていました。これらの労働基準法、労働安全衛生法の規定の多くには罰則があります。また、報告書で言及されている三六協定(残業時間の上限を定める労使協定書)を大幅に超過する残業が日常的に行われている可能性が高いです。違反が事実であり、起訴されれば、下表の分だけで法律上は最大3000万円程度の罰金(書き間違いではありません。罰金はすべて併合罪で刑法48条2項で合算処理されます。)や、最悪の場合、使用者が懲役に服さなければならない可能性もあります。報告書によると、ゼンショーの代表者も労基署による是正指導の実態を把握していたというのですから、態様は悪質です。

労基法の罰則の公訴時効の多くは3年です。まだ間に合うはずなので、是正指導をした各労基署は、上級官庁とも相談の上、まとめて刑事処罰を検討すべきではないでしょうか。見せしめに反対する意見も当然あるでしょうが、悪質な違反をしている企業を放置すると、悪貨が良貨を駆逐するの例え通り、労働者を大切にする企業が潰れたり、“ブラック企業”化せざるを得なくなるのです。

指摘された違反事項の概要・件数
指摘された違反事項の概要・件数
弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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