イッテQ騒動から学ぶべき、炎上初動における防御反応のワナ
日本テレビのバラエティ番組「世界の果てまでイッテQ!」のお祭り企画のデッチ上げ騒動が、波紋を拡げているようです。
当初、11月8日発売の週刊文春によるラオスの橋祭りのデッチ上げ報道に対しては、日テレ側が明確にやらせを否定したことで、騒動は収束するかと思われましたが。
週刊文春側は、11月14日の週刊文春ウェブ版で、タイの祭りに関する新たな疑惑を糾弾。
日本テレビ側も明確に非を認め、15日の夕方には日本テレビの大久保社長が定例会見で謝罪をし、当面お祭り企画は休止すると発表するまでに話が広がってきています。
さらには並行して女性セブンの記事で、116回のお祭り企画の中で、11個が存在を確認できないという話も出てきており、まさに情報が錯綜している状況です。
参考:『イッテQ!』の全祭りを検証、11個が存在を確認できず
この件に関する私のスタンスを明確にしておきますと。
我が家は毎週のように家族全員でイッテQを観ている、典型的なイッテQファンの家庭です。
特に、お祭り企画は大の好物でして、問題になっている橋祭りも、カリフラワー祭りも、観たことがあります。
特に橋祭りについては、いかにも日本のバラエティ番組でやりそうなお祭りの内容に、ラオスも日本に似てるんだなぁとか勝手に思いこんでた記憶があります。
そういう意味で、今回のヤラセ疑惑報道に関して、我が家の家族は一貫してイッテQ擁護派で、妻からすると「テレビ番組なんてどうせ全部演出なんだから、家族が楽しく観れてるならそれで良いじゃない」ぐらいのスタンスの模様。
私自身も、お祭りが本物で無かったのは残念だなと思うものの、お祭り企画自体は継続して欲しいと心の底から願っている1視聴者です。
■初動での否定が「ウソつき」という印象に
ただ、その視点で見ると、やはり今回の騒動における対応で心底残念なのは、日テレ側が、週刊文春のデッチ上げ指摘に対して、明確に初動で否定してしまった点です。
先週の時点では、日本テレビ側の明確な否定に、芸能界からも擁護の声や週刊文春批判の声が多数聞かれましたが。
結果的には、この否定が、後から振り返ると一般人からは、明確に「ウソつき」という印象につながってしまうことになります。
「炎上対策の基本は初動」というのは、炎上関係の記事に必ずと言って良いほど明記される項目です。
初動対応で遅れを取ったり、この初動でウソをつく、少なくとも周囲からウソに見える発言をすると、その後の対応が一気に苦境に追い込まれることになってしまうのです。
奇しくも、イッテQの出演者であったベッキーさんが2年前の春に不倫疑惑で炎上した際も、週刊文春報道の機先を制して実施した釈明会見で、ベッキーさんが友人関係を強調したことが、その後の週刊文春の二の矢の報道で、「ウソつき」のレッテルを貼られる結果となりました。
今回のイッテQも、一の矢の報道に対する日テレの初動における否定を、週刊文春が二の矢で見事に崩してしまったという意味では、ベッキー騒動の際と全く同じ構造です。
ある意味、日テレは2年前のベッキー騒動から何も学んでなかったのか、と悲しくなるイッテQファンの方は少なくないでしょう。
■炎上対応の初動を、なぜ人は間違えるのか
ただ、私たちが改めて今回の騒動から学ぶべきは、炎上対応の初動において、なぜ人間はこうした対応をしがちなのか、という点です。
正直、こうした炎上の分析は、私のように第三者が、あとづけで他人事として指摘するから簡単に言えるという話ではあります。
実際の炎上の渦中にいる方々からすると、この初動での間違いが起こる構造的な問題があります。
それが、組織の「防御反応」です。
今回の週刊文春の橋祭りデッチ上げ疑惑報道を否定する文書を主導したのが、日テレのどの部署なのかは外部からは分かりませんが。
通常、それが広報にしても担当部署にしても、こうした問題指摘を外部からの「攻撃」と受け止めがちです。
「文春砲が撃たれるらしい、どうやって会社を守ろう?どうやって組織を守ろう?」
どんな部署にいても、人間としてこう本能的に反応するのは、組織に所属している人間であれば当然と言えます。
自分に銃を向けられたら、誰しもが本能的によけようとするでしょうし、自分も銃を持っていたら相手にも銃を向けるでしょう。
ただ、本来ここで企業に向けられているのは銃ではなく、ペンでありマイクです。
そのペンやマイクに対して銃を向けてしまうと、実は企業はその先にいる視聴者や読者に銃を向けてしまう結果になるわけです。
当然、それがさらなる炎上の引き金になります。
■炎上の度に繰り返される様々な防御反応
雪印の集団食中毒事件でも、多くの人を敵に回したのは社長による「私は寝てないんだ」発言でした。
ペヤングの異物混入騒動でも騒動が拡大した要因となったのは、初期の考えられないという否定や写真削除依頼でした。
オリンピックエンブレム騒動でも、騒動を拡大する一つの要因になったのは、記者会見における弁解発言が、視聴者に攻撃的に受け止められた点にありました。
参考:五輪エンブレム騒動に私たちが学ぶべき炎上対応4つの基本
また、日本大学のアメフト部における騒動が、世紀の大犯罪者のように連日報道されるようになってしまった背景を思い出して頂ければ、炎上中に、組織に所属する人間が組織を守ろうとする行為が、外から見ると逆効果であることは記憶に新しいのではないかと思います。
全てはある意味人間として、組織としての当然の「防御反応」が引き起こしている反応です。
ただ、これこそが炎上の初動を誤らせ、本来の不祥事の罪の重さよりもはるかに大きな社会的バッシングを引き出してしまう最大の要素であると言えるのです。
今回のイッテQ騒動における日本テレビの初動の対応も、おそらくは週刊文春の攻撃に対する反射的な組織防御反応が反映されたものだと想像できます。
他のメディアが、これだけ調べて次々におかしい点が見つかっているわけですから、最初に指摘された際に、少しでも冷静に第三者の視点から問題を調査していれば、少なくともあれだけ強気に報道を否定することはできなかったはずです。
これは完全に推測ですが、おそらくは広報部側も防御反応として組織を守ることを優先し、内部の関係者の説明をそのまま鵜呑みにして防御反応そのままに文書を作成してしまったのではないかと思われます。
■騒動がここで終わるかどうかの分岐点
本来、外部から社内の問題について指摘されたときにまずやらなければいけないのは、組織を守ろうと防御反応を優先することではなく、顧客や視聴者、関係者などの視点から、本当に問題があるのかどうか確認することです。
今回の騒動においても、初動で問題を明確に認識し、視聴者からするとやらせと指摘されても仕方が無い行為をしていたということが確認できていたら、週刊文春による二の矢の問題提起も違った形で受け止められていたでしょう。
当然、これは今第三者の視点で振り返っているから言える話です。
ただ、今回のイッテQ騒動が、今日の社長の謝罪で幕切れとなるのか、さらなる火種が出てきて拡大してしまうのかは、これからの日本テレビの方々の対応の仕方にかかっていると思います。
残念ながら、普通に考えると、今回は炎上騒動の初動でウソをついたとみられて騒動が拡大してしまったため、炎上を鎮火するためには当初よりも大きな消火のエネルギーが必要になっている局面と言えます。
大袈裟に考えると、今後の対応を間違えると、番組作りの姿勢に対する問題意識がお祭り企画だけでなく、イッテQ全体、日本テレビ全体に飛び火してしまう可能性も否定できないでしょう。
すでに18日の放送に向けて司会の内村さんが謝罪をしたというニュースもありましたが、おそらくは18日の放送回における対応がポイントになると思われます。
参考:内村光良が「イッテQ」“やらせ疑惑”謝罪 日テレはやらせ否定も「責任ある」
■炎上対応次第ではファンとの絆が強くなる例も
ただ、過去の炎上対応から学べば、この炎上対応の仕方次第で、ファンがより強く応援してくれるようになるケースがあることも事実です。
ペヤング騒動においては、確かに初動は間違ったことで、騒動の拡大を招いてしまいましたが、その後にまるか食品は、全工場での生産自粛と販売休止を発表。10億円以上の投資を実施して生産ラインを作り替え、周囲がやり過ぎだと思うぐらいの見事な対応を実施しました。
その結果、販売を復活したときには、待ちわびたファンによる買い占めで品切れになったほど。
参考:不祥事に「神対応」できた企業、できずに破綻した企業の違い
不倫ネタで炎上した日清食品のおバカ大学のテレビCMにおいても、日清食品は一作目の「不倫や虚偽を擁護」という批判に対しては、CM中止と謝罪文を公開するという形で真摯に対応しつつも、あえておバカ大学の「いまだ!バカやろう!」というメッセージはそのまま維持してテレビCMのシリーズは継続しました。
結果的にカップヌードルファンから、さすが日清食品と称賛の声を集める結果となりました。日清食品が、自分たちの顧客からの批判と応援の両方の声に、ちゃんと耳を傾けていた証拠であると言えるでしょう。
炎上対応における初動の誤りは確かに深刻ではありますが、絶対に挽回不可能な状態というわけではありません。
是非、日本テレビの方々には、防御反応のワナにこれ以上はまらずに、今回の問題を根本的に解決していただきたいと思いますし。
我が家の週末の平和のためにも、是非イッテQには引き続き面白い番組を作って頂きたいと期待していますし。
願わくば、問題を解消した上で、宮川大輔さんによるお祭り企画が、ペヤングのように待ちわびたファンの拍手喝采の中、復活する日が来ることを楽しみにしたいと思います。