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ゴルフ界の伝統が踏みにじられる!?ライダーカップ欧州キャプテンがキャプテン業を放り出してリブゴルフへ

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
2018年ライダーカップの際はステンソンは勝利の立役者の一人だった(写真:ロイター/アフロ)

 2023年ライダーカップの欧州キャプテン、ヘンリック・ステンソンが、その重要な責務を放り出す形で新ツアー「リブゴルフ」へ移ることが正式に明かされ、米欧ゴルフ界が「ブレイキングニュース」扱いで報じた。

 ステンソンは46歳のスウェーデン出身選手。2016年全英オープンを制覇するなど世界25勝を挙げてきた強者だが、近年は成績がすっかり低迷しており、現在の世界ランキングは171位。しかし、豊富な経験を見込まれ、ライダーカップ欧州キャプテンに選出されていた。

 ステンソンがリブゴルフへ移籍するという噂は今年6月ごろから浮上していたが、「まさか、あのライダーカップのキャプテンを投げ出すことは、さすがにできないだろう」という見方もされていた。

 しかし、その「まさか」が現実になり、米欧ゴルフ界の関係者、とりわけ欧州ゴルフ界は、すぐにでも次なるキャプテン候補を探さなければと大慌てしている。

 日本では、まだまだ馴染みは薄いかもしれないが、ライダーカップは米国と欧州が国と大陸の名誉をかけて戦う2年に1度の伝統的なチーム戦だ。

 代表選手としてチーム入りし、ユニフォームを着て戦うことは、米欧のトッププレーヤーたちが「そのために僕はプロゴルファーになった」と言うほどの栄誉とされている。

 ましてや、そのキャプテンに選出され、采配を振るうことは「プロゴルファーとして、この上ない喜びだ」と過去のキャプテンたちの誰もが口を揃えてきた。

 ステンソンも例外ではなく、今年3月にキャプテンに就任した際は「長年の夢がついに叶った。感無量だ」と語っていた。

 しかし、それから3か月ほどすると、ステンソンがリブゴルフと接触しているという噂が出回り始め、米欧メディアはステンソンの言動に注視していた。

 ステンソン自身、悩んでいたからこそリブゴルフの初戦にも第2戦にも出ずに検討していたのかもしれないが、ついに移籍を決意したことが、7月20日にDPワールドツアー(欧州ツアー)が発信したリリースによって正式に発表された。

 DPワールドツアーのリリースは、ステンソンがリブゴルフへ移ることを伝えるものではなく、「ステンソンは個人的事情によって、ライダーカップの欧州キャプテンを務めることができなくなった」と記されていた。

 その数時間後、ステンソン自身が声明を発表。「リブゴルフへ行くと決意した結果、欧州ライダーカップ(組織委)は私がキャプテンを務めることはできないという結論を出した。それが残念でならない。私は各ツアーがみな協力し合うようになることを願っており、私が再びライダーカップのキャプテンを務めることができる日が到来してほしいと思っている」と記し、自身はキャプテンを務めたかったことを強調。

 だが、リブゴルフを選んだことは「商業的な意味もあるが、優れたフォーマットや内容に感銘を受けたからだ」とも綴っていた。

 欧州ライダーカップは、これから大急ぎでステンソンに代わるキャプテンを選出すると見られているが、本来なら候補になりうるメジャー・チャンプのグレーム・マクダウエルやセルジオ・ガルシア、あるいはベテラン選手のリー・ウエストウッド、イアン・ポールターらも、すでにリブゴルフへ移籍している。

 とはいえ、キャプテン候補がいないわけではもちろんなく、現実的な有力候補としては、パドレイグ・ハリントンやローリー・マキロイ、ジャスティン・ローズ、トーマス・ビヨーン、ミゲル・アンヘル・ヒメネスらの名前が上がっている。

 ステンソンに代わるキャプテンを選ぶこと自体は、物理的に可能ゆえ、大問題ではない。

 それ以上に問題なのは、これまで米欧の選手たちが「何より大切」「自分が優勝することより、ライダーカップで優勝して母国の人々を沸かせることのほうが大事」と口を揃え、夢にまで見てきたライダーカップの重みが「軽んじられた」、少なくとも「そういう印象を与えた」という点だ。

 PGAツアーやDPワールドツアーの選手たちがリブゴルフへ移籍すること自体は、止めることはできないが、ゴルフ界の伝統や多くの先人たちが必死に築き上げてきたゴルフ界の財産がリブゴルフに絡む騒動によって踏みにじられることは、あまりにも悲しく、口惜しい。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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