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人権法学者クリストフ・ヘインズ氏逝去:人間の判断を介さないで人間を殺傷するキラーロボット禁止も訴え

佐藤仁学術研究員・著述家
クリストフ・ヘインズ氏(中央)(写真:ロイター/アフロ)

南アフリカのプレトリア大学の教授で、国連人権員会のメンバーで国連特別報告者も務めていたクリストフ・ヘインズ氏が3月28日に62歳の若さで亡くなられた。ご冥福をお祈り申し上げます。

クリストフ・ヘインズ氏は人権法学者として様々な人権活動を行ってきて抑圧されている人たちの保護なども訴えてきていた。最近では国連特別報告者として自律型殺傷兵器の開発と使用の禁止も訴えていた。自律型殺傷兵器はキラーロボットととも称され、AI技術を搭載した兵器が人間の判断を介さないで標的の人間を攻撃し殺傷する。人間でなくAIのアルゴリズムが標的とされる人間の生死を決定することが非倫理的であり、標的とされる人間の人権を無視しているという主張である。このような自律型殺傷兵器が紛争やテロリスト集団との戦いで使用され、標的の人間がAI兵器の判断で殺害されることに対して人権法学者の立場から反対を唱えていた。

国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏も自律型殺傷兵器やキラーロボットの開発と使用は強く反対しており、安全保障理事会でも訴えているがアメリカ、ロシアなどの大国には響いていない。AI技術の発展によって、軍事分野でも活用されるようになってきている。人間の判断が入らないでAI技術が標的を判別して、攻撃を行い標的の人間を殺傷することが非倫理的、非道徳的であるということから国際NGO団体や世界の30か国が自律型殺傷兵器の開発や使用には反対している。だがアメリカやロシアなどは反対していない。中国は使用には反対しているが、開発には反対していない(つまり開発は推進しているが、アメリカやロシアなど敵国や周辺諸国が自律型殺傷兵器の使用をすることに反対を主張している)。AI技術を活用した軍事開発の競争は既に始まっている。

新しい科学技術の発展が軍事に応用されるのは歴史の常でありRMA(軍事における革命:Revolution in Military Affairs)は繰り返されてきた。AI技術が軍事で利用されることもRMAの一つであり、実際に既にAI技術は軍事分野でも活用されてきている。特に3D業務(Dirty:汚い、Dangerous:危険な、Dull:退屈)は人間の軍人よりもAI技術を搭載したロボットの方が最適である。またクリストフ・ヘインズ氏のような人権学者やAI技術者、国際NGOや一部の国は人間の判断を介さないで、AI技術が標的を判定して攻撃を行うことが非倫理的であるという主張で自律型殺傷兵器の開発や使用の禁止を訴えている。だが、人間の方がAIよりも残虐で理性に欠けていることも多い。また人間の軍人が自身の判断で攻撃を行い敵を殺傷することによって心理的なトラウマなどで社会復帰ができないといったコストもあり、自律型殺傷兵器の使用は攻撃を行う軍人の人間の安全保障の観点からは良いかもしれない。

▼自律型殺傷兵器開発の禁止を訴えるクリストフ・ヘインズ氏

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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