凄い無料朝食のビジネスホテルがひっそりと閉館
ビジネスホテル朝食の逆転現象
近年のビジネスホテルを見てみると、まさにビジネスホテルというような低廉型とコンセプトなどを持たせた付加価値型に大別される。ところが朝食に限っていうと、低廉型では宿泊者全員に無料提供する“無料朝食”が多々みられ、付加価値型で無料はほとんどみられない。
宿泊料金の安い低廉型が無料で宿泊料金も高い付加価値型が有料というある種の「逆転現象」が見られてきたといえる。無料とはいえ宿泊料金に転嫁されているのはいうまでもないが、宿泊料金にブレイクダウンされるがゆえに宿泊料金の高いホテルが有料で安いホテルが無料という傾向がまた面白い。
無料とはいえ、パンや珈琲だけの軽食ではなくブッフェスタイルを導入し、ご飯、パン、煮物焼き物等の各種おかずを提供しているのを見かける。最大手といわれる某チェーンでは、おにぎりや味噌汁の他にパンもあり、店舗によってはカレーや炊き込みご飯、ちらし寿司なども日替わりで提供しているシーンにも出会った。
また、他のチェーンでは「健康朝食」をテーマに、煮物や焼き魚などといったメニューが用意され好評だ。煮物焼き物に加え、揚げ物やソーセージにスクランブルエッグなどラインナップが豊富な全国チェーンもあり、時にこれが本当に無料!?と唸ってしまうこともある。
独立系・小規模チェーンの充実感
先例は、無料朝食を展開する大手全国チェーンのビジネスホテルであるが、それらに対抗すべく、小規模というスケールを生かし、更に充実した無料朝食を提供するビジネスホテルチェーンや独立系ホテルも散見されるようになった。
ところで、筆者が個人的に凄いと感じてきた無料朝食を提供してきたビジネスホテルが過日クローズした。場所が上野ということでコロナ禍でインバウンド活況から一転という状況は理解出来る。
そのホテルは不忍池を見渡す立地の「ホテル ココ・グラン上野不忍」。JR上野駅や京成上野駅、地下鉄千代田線湯島駅にも近い。客室はバラエティーに富んだパターンがあり、都心に立地するホテルにしては大浴場やサウナなど備えるなど、施設も充実していた。
クローズする日の朝もいつもと同じ
そんなホテル ココ・グラン上野不忍のもうひとつの人気が無料朝食だった。宿泊者全員を対象に地下1階のシックなゲストラウンジで提供されていた。驚くのは、煮物・揚げ物・焼き物といったバラエティーとメニューの豊富さだ。揚げ物ひとつでもイカフライにメンチカツも並ぶ。さらに、卵料理、ソーセージ、焼き魚という無料朝食ではもはや定番となったメニューはもちろんのこと、ローストビーフ、鰻などコストと手の掛けた料理が多く驚く。
さらには充実した内容のサラダバーまであり豚しゃぶサラダまで。これが本当に無料なのか? と驚かされる。ここまでそろっていれば当たり前とも言えるが、生卵や納豆はもちろん、パンは食パンにクロワッサンや菓子パンも並ぶ。普段はパン派でも「今日はご飯派にしようかな」と思うくらい、おかずのレパートリーが充実している。
他方、稲庭うどんなども見られ主食のセレクトすら迷うが、何より感心したのはその「見せ方」である。照明使いも秀逸だが、さもすれば雑然とした雰囲気で料理が並び、チープな印象が当たり前のビジネスホテルの無料朝食にあって、ここでは高級感すら漂っている。また、使いやすいトレーや食器など徹底した利用者目線が貫かれていた。
ところでこちらのホテル経営会社は、コンビニなどにも置かれているスイーツで有名な製菓メーカーでもある。ホテルの1階には同社の人気スイーツアウトレットショップも併設されていて買い求める客でにぎわっていたが、ホテルの朝食でもそんな人気スイーツが個数限定で楽しめた。もちろん無料。
クローズする最後の日の朝食へ出向いた。最後の日だから特別なメニューでもあるのか?と少し期待して行ったが、普段と変わらず“特別な無料朝食”であった。チェックアウトシーンもいつもと変わらない光景が広がっていた。