北朝鮮国内で金正恩への「抗議」頻発か…大規模な監視組織を立ち上げ
「82連合連合指揮部」は、韓流の視聴と流通、そして麻薬や宗教や占いなど、反社会主義・非社会主義行為を取り締まる北朝鮮の組織だ。
その一方、「3課連合指揮部」というものがあることもわかった。これは、体制への不満分子を摘発するために立ち上げられた新しい組織だ。
韓国の情報機関・国家情報院は、先月17日に開かれた国会情報委員会の非公開会議で、金正恩総書記が自身に対する不満や抗議が表面化していることを受け、その摘発にあたる組織として、朝鮮労働党中央委員会(中央党)組織指導部党生活指導課の下に、新しいタスクフォースとして3課連合指揮部を立ち上げたと報告している。
摘発されれば、厳罰に処されるのは言うまでもない。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
その概要について、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
慈江道(チャガンド)の情報筋は、この3課連合指導部について次のように説明している。
「組織指導部党生活指導課3課は地方担当で、一般的に『地方指導課』と呼ばれている。3課連合指揮部は、反社会主義・非社会主義撲滅のための『82連合指揮部』の機能の中で、金正恩氏と関連した内容だけを特別に扱うために昨年4月に新設された」
82連合指揮部は各道に1つずつ設置されているが、支部は存在しない。一方で、3課連合指揮部は、朝鮮労働党の各道委員会に本部を置き、市や郡の党委員会にも支部がある。機能面では82連合指揮部の方がはるかに多様だが、組織の規模そのものは、3課連合指揮部が比べ物にならないほど大きいというのが、情報筋の説明だ。
具体的な活動内容だが、金正恩氏に対する誹謗中傷、肖像画や銅像管理といった極めてシンプルながらも、政治的に重要とされることに関するものだ。北朝鮮でよく行われている金日成・金正日バッジの売買なども、活動の対象だろう。
ちなみに慈江道の東隣の両江道(リャンガンド)には、2つの市、11の郡のすべてに支部が置かれている。その責任者は、中央党組織指導部党生活指導課から派遣された指導員で、それ以外に安全部(警察署)、保衛部(秘密警察)、社会主義愛国青年同盟、朝鮮社会主義女性同盟から派遣された幹部が在籍している。
両江道の情報筋は、この新しい組織の存在について、一般住民にはまだ知られていないとして、幹部ですら「3課連合指揮部」の正しい名称を知らないと述べた。
この3課連合指揮部だが、2020年3月に復活した「五戸担当制」(隣組)の担当所長、宣伝員、市や郡の保衛部の秘密要員に住民の動向をリアルタイムで把握させ、情報を収集している。
市や郡の党委員会、農村経営委員会の農村担当幹部、各地域の担当安全員(警察官)、保衛員(秘密警察要員)も週に1回、3課連合指揮部に住民動向報告書を提出することになっている。今年2月までは毎日報告書を提出させていたが、3月からは週1回となった。その理由はわかっていない。
2020年1月からのコロナ鎖国が3年半以上続き、経済的苦境と食糧難に苦しめられた北朝鮮国民の間では、政権に対する不満が相当高まっていると見られている。このような状況が生じたときには、「アメ」を分け与えるよりも、「ムチ」を振るうのが北朝鮮の一般的な傾向だ。思想教育や取り締まりを強化して、不満を抑え込む。
北朝鮮でどれほどの数の抗議活動、金正恩氏の神格化に関するアイテムの毀損行為が起きているのかは不明だが、それらを取り締まる別組織を、それもかなりの規模で立ち上げたということは、相当に深刻な度合いになっていることが考えられる。
金日成氏、金正日氏の時代なら、大規模な抗議活動を軍を動員して徹底的に弾圧することも可能だったが、各国の衛星が北朝鮮の状況を逐一モニタリングしている今では、それも難しい。そんな状況になる前に、芽を摘んでおこうというのだろう。