震災直後メーカーに欠品禁じた企業 1/3ルール緩和から10年 1/6課す企業も
*この記事は、2020年2月10日に配信した「震災直後メーカーに欠品禁じた企業 1/3ルールから7年 1/6課す企業も:SDGs世界レポ(3)」の連載と記事掲載が終了するにあたって、当時の内容を編集し、情報を改訂・追記したものです。
食品ロスの一因となっている、食品業界の3分の1ルール。これを緩和すべく、2012年7月、農林水産省・消費者庁・環境省・内閣府などが「食品ロス削減関係省庁等連絡会議」を設置した。その後、2012年9月、農林水産省、流通経済研究所と食品業界が「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」を立ち上げ、最初の会議が10月に開催された(1)(2)。
それから10年以上が経った。3分の1ルールどころか、もっと厳しい短い期間で納品を求める、「6分の1」ルールを課してくる小売がいると、ある食品メーカーが教えて下さり、取材を受けて下さった。
3分の1ルールとは
3分の1ルールとは、賞味期間全体を3分の1ずつ均等に区切り、最初の3分の1を納品期限とし、次の3分の1を販売期限とするものである。法律ではなく、1990年代に大手小売が設定した商慣習である。これにより、2012年ごろには年間1,200億円以上のロスが生じていた(流通経済研究所調べ)。2023年現在では、ロスの金額は400億円台まで減ったが、ゼロではない。
たとえば、6ヶ月間の賞味期間の食品があるとする。メーカーが小売などに納品する期限は次の通り。
日本:2ヶ月(3分の1)
米国:3ヶ月(2分の1)
イタリアなどヨーロッパ:4ヶ月(3分の2)
イギリス:4ヶ月半(4分の3)
このように、日本が最も短い。
仮に日本の製造業が「6分の1ルール」を小売から課されているとすると、納品期限はさらに短くなり、賞味期限6ヶ月の商品ですら、製造後1ヶ月以内に納品しないと返品・廃棄という流れになる。
食品メーカーの現役社員はルール緩和を小売に依頼できない
本来、食品を作る人(メーカー)と売る人(小売)は、対等な立場にあるはずだ。だが、多数のメーカーの商品の中から、自社で取り扱う商品を選択できる小売の方が強い立場にある。そのような優越的立場の濫用を、公正取引委員会は禁じている(3)が、現実には、小売が課すルールに従わなければ、メーカーは「取引していただけない」立場にある。
筆者は2011年9月まで食品メーカーの広報責任者を務めていた。食品メーカーを辞めて独立し、2011年9月から3年間、セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)というフードバンクの広報責任者を務めていた。
2011年秋、2HJは、農林水産省事業の「全国フードバンク調査」に取り組んでおり、筆者も、この調査に参加し、西日本の小売やフードバンク、福祉団体などを廻っていた。その際、ある小売(スーパー)の経営陣に対し、「賞味期限が短いものも長いものも一律3分の1というのはどうなのか」と伺ったところ、答えは「個別対応は難しい」というものだった。
2012年、「3分の1ルール」に転機が起こる
そこで筆者は、翌年2012年の4月13日に日本は数兆円分もの食糧を捨てている!小売業界の「3分の1ルール」という記事を書いた(4)。
また、2012年6月に出演したNHK『特報首都圏』という30分番組では、「食品業界の3分の1ルールが食品ロスを生み出している」と発言した。
2012年7月、農林水産省・消費者庁・環境省・内閣府などが「食品ロス削減関係省庁等連絡会議」を設置した。
2012年10月1日、筆者は「3分の1ルール」緩和へ ~食品ロス31万トンのドイツと500-900万トンの日本~という記事を書いた(5)。
その数日後、農林水産省、流通経済研究所と食品業界が「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」の会議を開催した。
当時、広報を担当していた2HJには、複数のテレビ局と新聞社が取材に押し寄せた。
このように、3分の1ルールについては、2012年が一つの転機となった。
2011年、東日本大震災の直後の物が足りない時ですらメーカーに欠品を禁じた小売とは?
取材に応じてくださったメーカーは、いまだに小売が「6分の1ルール」を課してくるという話をされた。
その話の前に、2011年の東日本大震災直後、欠品を禁じた企業についても教えてくださった。
食品メーカー:東日本大震災が起こって、世の中がめちゃくちゃの中でも「物を持ってこい!」と言われましたからね。もう何も手に入らないのに。それでも「欠品は許さない」と言われました。
ーそれはどこの会社ですか?
食品メーカー:それは・・・
食品メーカー:コンビニ最大手の会社です。(欠品したら)「出入り禁止!」と言われました。
ーいまだにそういう言葉を使うのですね。
3分の1ルールどころか「6分の1ルール」を課す小売
食品メーカーの方は、3分の1ルールどころか「6分の1ルール」を課してくる小売の商慣習についても教えて下さった。つまり、賞味期間が6ヶ月だったら、作ってから1ヶ月以内に納品しなければ返品・廃棄を課されることになる。海外で製造しているメーカーにとっては、非常に難しい選択を迫られる。飛行機で運べば早いが輸送コストがかさむ。船で運べばコストは抑えられるが、日数がかかる。
食品メーカー:現実問題、小売の店頭でうちの(商品)を売っているのを見ていて、賞味期限が3分の1切ったものを全部、彼らが廃棄して棚からどけるかというと、必ずしもそうじゃなくて。「おいおい、もう少ししか(期限が)残ってないものを、まだ置いているじゃないか!」みたいなこともあるわけですよ。見切り品コーナーにいっちゃっている場合もありますけどね。値段を下げて。
ーはい。
食品メーカー:小売の人たちが、そんなに厳密に「3分の1(ルール)」を厳守しているかといったら、そんなこともなくて。
ー根深いですね、これは。政府としては2012年の10月から、農水省と流通経済研究所と製配販ということで、業界団体の代表が集って、ルールの緩和のプロジェクトが始まっています。調味料や菓子などの業界団体のトップが集まって緩和していきましょうという話になってから・・・。
食品メーカー:全然進まないでしょう?
ーまだ「6分の1」とか言っている状況というのは(笑)。
食品メーカー:メーカーにしてみたら(ルールを)緩めてくれるほうがありがたいので、どこのメーカーにしても、頼みますよって感じだと思いますよ。でも基本的には小売側から、少しでも早い、新しい物をよこせって言われる。それで自分のところでロスを出さないようにする。問屋さんだって、早めに取ったのに、小売が取ってくれなかったら、ずっと倉庫に置いておいても倉庫代がかかっちゃうだけだから、入れた物はとっとと流したいわけで。それなりに動かしていっているんだと思うんですよね、あまり在庫せずに。
ー3分の2で販売期限が切れますよね。
食品メーカー:そうですよね。だから3分の1までに小売に入れるというのは、厳守しているんでしょうね。ただ、メーカー側には6分の1での納品を課される。
ーそうですね、たぶん……。
食品メーカー:全部じゃないですよ。
ーはい。全部じゃなくて。
食品メーカー:そういうケースも結構あるということですね、いまだに。
ーそうですね。私もそうだったように、現役のメーカーの社員というのは、言いたくても言えない立ち位置にいて、商売を、取引を続けるためには、彼らに従わざるを得ないというのがあって、でも本当にいろいろな、その3分の1もそうだし欠品は駄目というのもそうだし、日付の逆転ですよね。
食品メーカー:そうですね。
ーはい。食品ロスの要因になってしまう、いろいろな商慣習というのを変えていきたいです。
SDGsの精神は「誰一人取り残さない」
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の精神は「誰一人取り残さない」だ。
どんなに企業の公式サイトでSDGsへの取り組みを喧伝しても、取引先に対して非情な指示をしていたのでは、真のSDGsとは言えない。震災直後の、物がない時にすら欠品を許さないような、無理なことを強要する態度は、SDGsの精神にそむいている。「持続可能」とも言い難い。
SDGsに取り組む企業や大学などの組織は、まず、自らの組織のステークホルダー(利害関係者)との関わり方から見直し、取引先などに決して無理を強要することのないように、と願う。
参考情報
https://www.dei.or.jp/research/research08/research08_01.html
2)食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチームの取り組み報告 (石川友博、廃棄物資源循環学会誌、Vol.25, No.1, p43-54, 2014)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mcwmr/25/1/25_43/_pdf/-char/ja
https://www.jftc.go.jp/shitauke/kousyukai/gaiyou.html
4)日本は数兆円分もの食糧を捨てている!小売業界の「3分の1ルール」(井出留美、オンエアナビ、2012.4.13)
https://www.oanavi.com/column/ide/201204/85993.php
5)「3分の1ルール」緩和へ 食品ロス31万トンのドイツと500-900万トンの日本(井出留美、オンエアナビ、2012.10.1)
https://www.oanavi.com/column/ide/201210/86735.php