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和歌山県橋本市が地元出身のDeNA筒香兄弟とともに目指すジュニア指導改革

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
スポーツ推進アドバイザーとして指導者研修会で挨拶する筒香嘉智選手(筆者撮影)

 和歌山県橋本市は20日、地元出身のDeNA・筒香嘉智選手を同市のスポーツ推進アドバイザーに任命し、同選手出席の下、指導者研修会と小学生を集めてミニ運動会を実施した。今後橋本市は筒香選手の助力を得ながら、スポーツ振興に取り組んでいくことになる。

 スポーツ推進アドバイザーは筒香選手のために初めて設置された役職で、この日就任式も実施された。任期は2021年3月31日までで、今後は(1)市民等へのスポーツに関する講演や講義、(2)スポーツ推進のための普及啓発、(3)その他のスポーツ推進──の業務に取り組んでいくことになる。橋本市としては筒香選手の招聘に合わせ、年度内にスポーツ推進計画の見直しを図り、市内の児童・生徒の体力向上を目指すための施策を具体化していく方針を明らかにしている。

 今回筒香選手がスポーツ推進アドバイザーに就任するにあたり、筒香選手の兄・裕史(ひろし)氏が重要な役割を果たしている。神奈川県で教員をしていた裕史氏は教員生活にピリオドを打ち、橋本市に帰郷。現在は同市で熱心なスポーツ振興活動に取り組んでいる。橋本市からは以前から地元出身の筒香選手に協力して欲しいという打診を受けており、筒香選手の日頃の活動にも繋がるスポーツ振興という観点から裕史氏が橋渡し役を務めたことで、こうして実現させることができた。

 筒香選手といえばジュニア野球選手の指導現場に疑問を呈し、様々な問題提起を行ってきた。自身も中学時代の出身チーム『堺ビッグボーイズ』に小学部が開設されたのを機にスーパーバイザーに就任し指導現場の見直しに取り組むなど、常に野球界に一石を投じ続けている。今回スポーツ推進アドバイザーに就任したことで、野球界の枠を超えスポーツ界全体の指導者の意識改革に取り組んでいきたいと話す。

 「お話を頂いた時に、堺ビッグボーイズもやらせてもらっていますが、やはり子供たちの未来が一番なので、そう考えた時に地元ですし、何かお役に立つことができたらいいなと思って引き受けさせて頂きました。

 自分としては誰かが動かないと変わっていかないと思うので、橋本市の市長をはじめ教育委員会の方やいろいろな人に協力して頂きながら、子供たちのためになる環境というのを1つでも多くつくっていきたいと思います。

 大人が変わらないと子供が同じ被害に遭ってしまうので、大人の方が変われるようなことをしていきたいと思っています」

ミニ運動会で子供たちを見守る筒香選手(筆者撮影)
ミニ運動会で子供たちを見守る筒香選手(筆者撮影)

 早速この日実施された指導者研修会では、教員や野球指導者を相手に「選手寿命が短くなるのは大人の責任」「大人が変わって子供たちを守っていくしかない」「(指導の)常識は変わってきている」など、熱心に呼びかけた。また指導者から事前に集めていた質問にも丁寧に答えながら、筒香選手が考える指導のあり方を説明していった。

 就任式で自ら認定書を手渡した平木哲朗(ひらき・てつろう)市長も講習会に参加し、今回の取り組みに意欲を覗かせている。

 「子供たちの将来を考えて、野球をしなくてもどんなスポーツでも一緒だと思うんですけど、社会に出て自分で考える能力がないと階段を上っていかれないのかなという思いもあって、今回是非ともお願いしたいということで…。まあ(実現まで)2年間かかりましたけどね。

 裕史くんが橋本市に戻ってきてくれたので、お父さん、裕史くんと筒香選手も一緒になって協力して頂けるかたちがとれるので、これから子供たちのために何かできないか、伝えていくことができないかと考えていきたいと思っているところです。難しい部分をクリアしてもらって協力してもらえるというのは橋本市にとっても大きなことですし、それを子供にどう伝えていくかだと思います」

 平木市長によると、現時点で具体的な活動は決まっていないが、来年はもっと大きな規模で指導者研修会を実施したい意向だ。またスポーツ推進計画の見直しに関しては裕史氏も参画してもらうことになっており、その中で今後の活動についても具体化していく予定だという。つまり橋本市としては筒香選手を“顔”に、裕史氏を“推進役”として兄弟を中心にした新たなスポーツ推進計画を実行しようとしているのだ。

 指導者研修会後に実施された小学4、5年生70名を集めたミニ運動会では、早速裕史氏が中心になった。運動会で実施された競技メニューは裕史氏が考案、監修したもので、子供たちが楽しみながら基礎体力、基礎運動能力を向上させるものばかりだった。

 子供たちが元気に運動する姿を笑顔で見守り続けた筒香選手だったが、ブリッジや前転、後転などの基本運動ができない子供たちも少なくない実情に「自分たちの頃よりできない子が多いですね」と子供たちの運動能力や体力の低下を危惧する場面もあった。これも橋本市にとって取り組むべき課題の1つだ。

 果たして筒香兄弟は地元橋本市の指導者たち、子供たちにどんな影響をもたらすのか。今後の官民一体の取り組みに注目してみたい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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