プロ野球、球団数増でレベルは低下する?
ZOZOTOWNを運営する前澤友作氏のプロ野球参入希望の表明を機に、エクスパンション(球団数拡張)議論がNPB機構外で盛り上がっている。現行の12球団から16球団への移行を望む声が強い一方、懸念を示す専門家もいる。
Yahoo!に、野球評論家の権藤博氏の意見が掲載されていた。
氏は、エクスパンションによりプロ野球のレベルが低下することを懸念しているようだ。これは短期的には全くその通りなのだけれど、その背後には業界関係者特有の心理的警戒感もあるのではないか。
権藤氏は、4球団増で支配下選手が計280人増えることにより、ファンが許容できるレベルに満たない選手が多数誕生してしまうとしている。これは事実だ。少なくとも瞬間的にはレベルは低下する。
しかし、選手の需給バランスが「需要>供給」となれば選手にとってチャンスが広がるので、従来以上にプロ野球を志す若者が増えることが予想される。少々楽観的に述べるなら、中長期的にはアマチュア球界も含めて裾野が広がる効果が期待できるのではないか。
また、球団側はスカウティング網を海外も含め広げるようになるだろうし、海外の有望選手もより好条件を求めてNPBを目指すようになるだろう。そうなると、現状の外国人選手登録枠の在り方や、いわゆる「田澤ルール」の是非に関しても活発な議論が起こるのではないか。少なくともぼくは、「日本人のプレー」ではなく「一流選手のプレー」が観たいので、そうなることは大歓迎だ。
1960年までは16球団だったMLBは、現在30球団で近い将来32球団に移行することが確実視されている。しかし、球団数増により「メジャーのレベルが下がった」と頓珍漢なことを言っているのは張本勲氏くらいだ。球団数増(だけではないが)は、選手の供給ソースをアメリカ国内から中南米へ、日本をはじめとするアジアへ、そしてそれ以外へと広げる必然性をもたらした。世界のトップアスリートが目指すMLBは、より多くのファンの支持を得てビジネスとして拡大した。その結果(それだけではないが)、選手のサラリーもグングン上昇し、より多くの才能あふれる若者がMLBを目指す、というサイクルとなった。
その点、権藤氏の説は球団数のみが増え他の要素は変わらない(変えようとしない)前提に立っている。また、多くの良識派がエクスパンションを望むのは、それ自体が欲しいわけではなく、それがもたらす球界の閉そく感打開であり、将来的な発展だということを認識しているかどうかは疑問だ。その意味では、長期的視点が欠けていると思う。
ぼくは権藤氏に関しては、選手・指導者としてのフィールド上の功績以外は全く知らない。したがってあくまで「一般論としては」としておきたいが、どの業界でも内部に居る者、居た者は、大きな変化を望まないものだ。ご本人が自覚なさっていたかどうかは不明だが、その変化を望まぬ部分(生物学的にそういうものだ)が深層に潜んでいたと思う。金村義明氏が高校野球全国大会は「甲子園でなくては意味がない」と語ったのも同様だ。まず、現状維持が念頭にあるのだ。ぼくは、真剣に球児や観客の健康管理を考えるなら、現在の甲子園的様式が象徴する美学そのものを否定することが必要だと思う。改革を論じる時は、こういう抵抗感とも戦わねばならぬものだ。