WEリーグ最強の矛と盾が激突。「個で奪い切る」神戸の守備が促すリーグ基準の変化
【今季最初の大一番】
ボールを刈り取るようなタックル、力強いボディコンタクト、打点の高い空中戦――。WEリーグの“基準”の変化を感じる試合だった。
9月22日に浦和駒場スタジアムで行われた第2節、浦和対INAC神戸の一戦だ。2021年のWEリーグ開幕以来、常に優勝争いを繰り広げてきた両者は、浦和が3季連続最多得点、神戸は3季連続最少失点と強みが明確で、リーグ最強の"盾と矛”の戦いでもある。
この試合は浦和のホーム開幕戦で、スタジアムには3500人を超えるサポーターが集まり、メインスタンドは鮮やかな赤で染められた。
だが、キックオフの笛が鳴ると、時間とともにスタンドは落ち着かない雰囲気に包まれていった。神戸の激しい守備に浦和のパスワークは分断され、ファウルで試合がたびたび止まる。際どいコンタクトプレーで浦和の選手が傷(いた)むシーンが続くと、サポーターからは怒りの声やブーイングが飛んだ。
だが、神戸のスタンスは一貫していた。今季スペインのラ・リーガから加入したパオラ・ソルデヴィラ、カルロタ・スアレス、千葉から加入したヴィアン・サンプソンら新外国人選手を中心に、容赦なく球際でバトルし続けた。完全アウェーの雰囲気で、たとえヒール役になろうと、自分たちの戦い方を貫いた。
両者ともに決定機は少なかったが、39分に神戸がワンチャンスをものにした。右サイドをオーバーラップした守屋都弥に、成宮唯から絶妙のパスが通る。守屋のクロスに、中央で髙瀬愛実が飛び込んで浦和の守備陣を引きつけ、その背後から走り込んできた水野蕗奈が頭で合わせた。
「2年間、苦しい時間を過ごしてきたので、今日、自分に(ご褒美が)返ってきたように感じるゴールでした」
2度の前十字靭帯のケガを乗り越えた水野が、自身のWEリーグ初ゴールで拮抗したゲームを動かした。
1点をリードされた浦和は後半、攻撃のギアを上げたものの、圧力を増した神戸の守備は堅く、文字通り盾と矛の激しい攻防が繰り広げられた。
浦和の決定機につながった伊藤美紀のダイレクトボレーと藤﨑智子のループシュートは、いずれもGK船田麻友がゴールに立ちはだかり、0-1で試合終了。
リーグ戦で、浦和が無失点に抑えられたのは実に19試合ぶりだ。
【当事者の視点】
90分間を通じて神戸が犯したファウル数は「18」、出されたイエローカードは2枚だった(浦和のファウル数は「7」で、カードはなし)。神戸はアフター気味に見える危険なファウルもいくつかあったが、それ以上にフェアに奪い切るシーンもあった印象だ。
試合後、神戸のジョルディ・フェロン監督の言葉には、取り組みの成果が実った充実感が滲んでいた。
「去年のチームを分析する中で、浦和に対して(自分たちに)足りなかったのはフィジカル面です。今シーズンは、その点で負けないことを強く指導してきました。今日は気持ちが前にいきすぎてファウルも多く犯してしまったと思いますが、去年と同じ過ちを犯さない、というところでは非常に良かったと思います」
一方、敗れた浦和側はどう感じているのか。楠瀬直木監督の見解は明白だった。
「サッカーなので、それぐらいの激しさは当然です。(神戸は)負けたくないという気持ちを表してきたし、(それに対して主審に)カードを出してもらえなかった。フェロン監督は、去年からメラメラと奇を衒(てら)うことなくやってきた印象を受けます。うちは主要メンバーが(ケガで)いないのはあるけれど、今のメンバーでなんとか勝ちたかった。その点ではすごく悔しさが残りました。負けに不思議の負けはない。気持ちの面で、もっとやらなければいけない。この経験を活かして今季はACL(のタイトル)を取り、また次に向かいたいです」
【神戸の守備の進化】
神戸は今季、攻撃の軸としてチームを支えてきた田中美南、守護神の山下杏也加の二本柱が海外挑戦のため退団。また加入1年目でブレイクし、代表定着から海外挑戦へと激動のシーズンを駆け抜けた北川ひかるもチームを離れ、代表選手3人が一気にチームを離れた。
一方、補強では前述したスペイン人の2人とサンプソンの他に、同じくラ・リーガからカルラ・モレラ、韓国からイ・スビンを獲得。国内組では、千葉からGK大熊茜が加入した。補強リストを見ればわかるように、サイズとパワーを兼ね備えた選手が増え、各ポジションに海外リーグ並の“激しさ”がもたらされた。
開幕から2試合、ゴールを守ってきたGK船田は言う。
「ヴィー(ヴィアン・サンプソンの愛称)もそうだし、パオラも、(球際で)やりきってくれるのは大きいです。ファウルはハラハラしますが(苦笑)。中途半端なシーンが減って、わかりやすく(守れるように)なりました」
主軸の顔ぶれが変わったなかで連係を築き上げ直さなければならないが、守備はフェロン監督の下で積み上げている要素も多い。司令塔の成宮はその積み上げに手応えを感じ、強度が加わることを歓迎している。
「個々に特徴を持った選手が入って、デュエルの強さは日本人にないものを持っているので、私自身はセカンドボールを意識して、ファーストコンタクトよりセカンドコンタクトで負けないこと、やることが明確になりました。きれいなサッカーでは勝てないし、(優勝するために)これをやり続けないといけないと感じています」
WEリーグの守備の強度は年々上がっているが、今季の神戸のように、「個で奪い切る」守備をするチーム(選手)はまだ少ない。海外リーグではそのような激しい守備は日常茶飯事で、攻撃側も判断スピードを上げなければやられてしまう。
神戸の守備によって「基準が上がる」というポジティブな面に期待しているが、ケガ人が増えることは避けたい。危険なファウルに対してはカードも含め、強度の向上に合わせてジャッジの基準も整えていくことは急務だろう(限られた予算で戦っているWEリーグのクラブにとって、長期離脱者を出すことは死活問題になりかねない)。
それらがうまく噛み合った時、WEリーグは世界基準にまた一歩、近づくことができるのではないだろうか。その意味でも、今季の浦和の攻撃と神戸の守備の進化に着目しつつ、両者の再戦を楽しみにしたい。