「ウマ娘」の非実在型炎上をデータから見る
「ウマ娘 プリティーダービー」というゲームが流行っているようです.Wikipedia(2021年3月10日 (水) 20:58 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』によると,
だそうです.
実在の馬を擬人化しているものもあるらしく,113連敗したことで有名なハルウララを擬人化したキャラクターが有馬記念に勝つという動画なんてのもありました.擬人化したダビスタって感じなんでしょうか.
そんなウマ娘が女性蔑視だと批判が続出したというニュースがミドルメディアに掲載されました.
そこで,どの程度「ウマ娘は女性蔑視だ」と指摘するツイートがあったかを確認してみましょう.「ウマ娘 AND 女性蔑視」で2月28日以降のツイートを調べると,1時間ごとのツイート数はこんな感じになりました.
これを見ると,3月7日9時くらいから急激に数が増えていることが分かります.
実は,先ほどのミドルメディアの記事の配信部が2021/03/07 9:46です.したがってこの記事よりも前に「ウマ娘が女性蔑視だ」というツイートが大きく拡散していたという事実はありません.2021年3月7日9時までの「ウマ娘 女性蔑視」を含むツイートは,トータルで71件,リツイートを除くと41件でした.ちなみに,「ウマ娘」だけだと1,433,617ツイートありましたので,全体に占める割合は0.002%ですね.しかも71件中すべてが女性蔑視だと指摘するツイートというわけでもありませんでしたので,その数は少なかったといってよさそうです.
もちろん少ないからと言って意見がないという事ではありませんし,その意見を否定するべきではありませんが,「批判続出」と表現するには相応しくないかと思われます.
次に「ウマ娘」関連ツイートについて,リツイート数上位500ツイートについて,リツイートしたユーザの類似性に基づくクラスタリングを行いました.
その結果が以下の図の通りです.
ネットワークのノードがツイートに,リンクはツイート同士が類似していることを示しています.これを見ると,ウマ娘関連のツイートは大きく3つに分割されていることが分かります.
このうち,グループAはウマ娘をゲームとして楽しんでいるアカウントによるツイート群,グループBは実況系アカウントのツイート群でした.ここから,ウマ娘はゲームとして楽しむ人々と実況を楽しむ人々に大きく分かれていることが分かります.
そして,グループCはウマ娘炎上関係クラスタになります.ただし,炎上クラスタといっても,ウマ娘を批判しているのではなく,ウマ娘の批判を批判しているわけでもなく,ウマ娘炎上していると書いてあるけど炎上していないよね?と言っているクラスタになります.実はデータを調べるまでもなく,結構な数の方がウマ娘の炎上に懐疑的だったことが分かりました.
皆気づいているんだったら,今回の分析意味がなかった・・・
なお,クラスタAをリツイートしているアカウントは192,857,クラスタBをリツイートしているアカウントは8,629,クラスタCをリツイートしているアカウントは11,061でした.というわけで,ウマ娘に関しては純粋にゲームを楽しんでいる人々が多いようで,批判についても存在に懐疑的な人たちが多かったようです.
そもそも存在しない対象が炎上することを非実在型炎上と呼びますが,今回の件は非実在型炎上にもならずに鎮火しているといって良いのではないでしょうか.
さて,このような実際には炎上していないにもかかわらず炎上しているかのような記事をミドルメディアやマスメディアが掲載しているのをよく見かけます.
これは,多くのメディアが広告収入に頼って経営を行っていることが原因の一つです.クリックされて読まれる率が高ければ高いほど収入が増えるため,経済的に価値がある記事と判断されるわけです.そのため,できるだけ多くの人の興味を引くような記事を書くことが重要となり,真実性が置いてけぼりになってしまうことがあります.「注意(アテンション)を引くことこそに価値がある」ことはアテンションエコノミーと呼ばれており,現在ネット社会における基本経済原理の一つになっているといえるかと思います.しかしながら,これを事実を伝えるべきニュースメディアが導入してしまうと,よりセンセーショナルな情報が大げさに伝えられてしまうような可能性が出てきてしまいます.
ただし,非実在型炎上が生じる要因はメディア側だけにあるわけではありません.我々自身も自分たちに快楽をもたらす情報,すなわちソーシャルポルノを求める情報消費行動を行いがちです.アテンションエコノミーによって情報発信が行われている要因の一つは我々自身の情報消費行動だったりするわけで,アテンションを求めるサイトを批判すればよいというものではないというのが問題を難しくしているところでもあります.広告収入に頼らずに放送を行っているNHKはそれはそれで受信料に関して文句を言われていますしね.
しかし,アテンションエコノミーの行きつく先はフェイクニュースの氾濫だったりするわけで,一筋縄ではいかない問題です.
今回のウマ娘の件は比較的早い段階で,これが非実在型炎上であることに気づいた方が多かったようですが,昨年発生したトイレットペーパー不足も「トイレットペーパーが無くなるというデマが拡散している」という非実在型炎上が要因の一つだったことも忘れてはいけません.
「~がツイッターで炎上!」系の記事は,どのくらいのツイートが存在したのか,それ以外のツイートはどのくらいだったのか,正確な数字が書いていない記事は話半分で読むくらいにしておいた方が良いのかもしれません.