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今期ドラマの真打ち、「下町ロケット」の魅力とは?

碓井広義メディア文化評論家
筆者撮影

民放の10~12月期の連続ドラマが序盤から中盤へと移ろうとしている。恋愛物、医療物、企業物など多彩な企画が並んでいる中で、今期の真打ちと呼べるのは、やはり日曜劇場「下町ロケット」(TBS系)だろう。

原作は池井戸潤の直木賞受賞作。脚本・八津弘幸、音楽・服部隆之、プロデューサー・伊與田英徳、演出・福澤克雄という「チーム半沢(直樹)」が、期待通りの本格ドラマに仕上げている。

内容の良さに加えて、初回の平均視聴率16.1%に始まり、2回目17.8%、そして11月1日の第3回は18.6%を記録して、多くの視聴者の支持を集めていることも示した。

骨太な物語とそれを体現する役者たち

魅力の第一は、起伏に満ちた骨太なストーリーだ。ロケットエンジンの開発研究員だった佃(阿部寛)が、打ち上げ失敗の責任をとって辞職したのは7年前。今は父が遺した町工場の社長を務めている佃に、経営的危機が連続して襲いかかる。

突然、取引先から取引中止を言い渡され、またライバル企業からは特許侵害で90億円の訴訟を起これさ、さらに巨大メーカーが特許の売渡しを迫ってきた。しかも社内には、利益に直結しない研究開発費を投入し続ける2代目社長への不満もくすぶっている。佃はこの内憂外患をどう乗り切っていくのか。

次に、隅々にまで気を配った絶妙なキャスティングである。主演の阿部寛は、映画「テルマエ・ロマエ」での吹っ切れた演技が好評だったが、このドラマでも堂々の座長芝居を見せている。

身に覚えのない特許侵害で被告席に立たされた佃が怒りを込めて叫ぶ。「たとえこの裁判に負けたとしても、特許を奪われたとしても、屁でもありません。培ってきた技術力だけは決して奪えない。正義は我にありだ!」。

すぐれた技術力を持ちながら、中小企業であるがゆえに悔しい思いをしている町工場は多い。黙々と努力する技術者たち、モノを作る人たちの思いを代弁した名台詞だ。

脇役も一筋縄ではいかない面々がそろっている。佃製作所の経理部長は、昨年、日曜劇場「ルーズヴェルト・ゲーム」での“悪役”で注目された、落語家の立川談春。技術開発部長に、大泉洋と同じ演劇ユニット「TEAM NACS(チーム・ナックス)」のメンバーである安田顕。

ライバル企業の”ちょいワル”な顧問弁護士が池畑慎之介。そして佃側の”強力な助っ人”である弁護士は恵俊彰。また巨大メーカーの本部長に、「昼顔」(フジテレビ)で上戸彩の”ねちっこい夫”を好演した木下ほうか。敏腕部長はミュージシャンの吉川晃司。その部下の技術者が若手演技派の新井浩文だ。

それぞれが自分の役割をよく理解し、ドラマ全体に寄与しながら、自身の存在感も示している。加えて、聞き覚えのある声による朗々たるナレーションは、元NHKの松平定知アナウンサーだ。「半沢直樹」の山根基世アナもそうだったが、今回も物語に重厚感を与えている。

ドラマ作りの3本の矢

3番目に演出を挙げたい。この骨太な物語を、予算も手間もかけてきっちり映像化していることに拍手だ。種子島でのロケット打ち上げから、画面が社員で埋め尽くされた大企業のセレモニーまで、少しの手抜きもない。また、人物のアップと引き(広い画角)の映像の配分やバランスが見事で、緊張感が途切れることがない。視聴者に対して、「このシーンでは何を見せる(語る)べきか」を熟知した演出が為されているのだ。

ドラマで最も大切な要素である物語(脚本)。それを体現する優れた役者(演技)。そして全体を牽引していく緩急自在の演出。アベノミクスならぬ、ドラマ作りの3本の矢が、「いいドラマが見たい」という視聴者の気持ちの真ん中をしっかり射抜いたのである。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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