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「メジャー最高のプレーヤー トラウト放出も?」大谷翔平獲得はエンジェルスに何をもたらすか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
エンジェルスと言えば、トラウト&プーホルスだが・・・(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

太平洋を股にかけた熱狂の果てに、大谷翔平はエンジェルスと契約した。大谷に同球団は向いているようにも思える。気候が温暖で日本にも近い西海岸に本拠を置き、DH制のア・リーグ所属で二刀流継続に適している(一般論としてはということだ。ぼくはナ・リーグ球団で登板の際に打力を発揮する方が良いと思うが)。さらには、先発投手に人材を欠いている。逆に、エンジェルスに大谷は向いているのだろうか。

多くの日本のファンとって、エンジェルスと聞いて思い浮かぶ選手と言えば、マイク・トラウトとアルバート・プーホルスだろう。彼らをバックに大谷が投げる(プーホルスはいまや専らDHだが)、または彼らと大谷が打線に並ぶ様は想像するだけで胸が踊るというものだ。しかし、必ずしもそうならないかもしれない。

エンジェルスという球団は、イメージの点では伝統あるドジャースに対するチャレンジャー的存在と捉えられることが多く、若々しくこれから伸びていく球団と見られがちだ。しかし、実態は必ずしもそうではない。ベテラン選手との高額の長期契約が足かせになり、チームの若返りに支障をきたしている更年期障害のチームなのだ。その象徴的存在がプーホルスで、彼は間違いなくメジャーの歴史に名を残すスラッガーだが、近年は衰えが著しい。今季も23本塁打こそ放っているが、出塁率は3割を切る(.286)という悲劇的状況で、守備や走塁での貢献も絶望的なため、WAR(セイバーサイトのFanGraphs版)は-2.0でメジャー最下位だ。しかも、年2700〜3000万ドルの高額契約(毎年100万ドル上昇する)が、40歳を超える2021年まで残っている。エンジェルスが彼をウェイバーに掛けたとしても(そうしたことがある可能性は極めて高い)、おそらく引き取り手はいないはずだ。言い換えれば、残契約ごと引き取ってくれるなら交換相手はなしでも結構としても、それに応じる球団はないだろうということだ。

実は彼だけではない。プーホルスのような不良債権ではないが、アンドレトン・シモンズとの契約も年々アップし1500万ドルになる2020年まで続く。彼はメジャー有数の名遊撃手でまだ28歳だが、ミドルフィルダーの守備力は他のポジションに比べて、早く衰えるのが定説だ。そして、球界ナンバーワンプレーヤーのトラウトにしても、今季は1925万ドルの年俸が来季は3325万ドルまで跳ね上がる。それが、2020年まで続くのだ。はっきり言って、2年連続で負け越しており再建の必要性が叫ばれる同球団に、トラウトは宝の持ち腐れだ。彼を放出してトップクラスの若手有望株を複数獲得するとともに、その高額年俸の負担からも解放された方が、再建はスムーズに進むはずという考え方は結構根強い。

エンジェルスの問題点は踏ん切りの悪さにある。資金力に乏しい他の球団なら、それこそ5〜6年前のアストロズのように徹底的に解体した上での立て直しを図るべき段階にあるのだが、LAという大マーケットを抱えているだけにそれに踏み切れず、このオフも30歳のジャスティン・アップトンと5年総額1億6000万ドルの契約を結んだりしている。その結果、現時点ですでに2020年はプーホルス、シモンズ、トラウト、アップトンのたった4人に総額1億ドルに達さんとする年俸(9825万ドル)をすでにコミットしているのだ。この金額は中小規模球団の年俸総額に匹敵しており、編成上の大きな制約になっている。

そんな問題だらけ?のエンジェルスに大谷が加わった。これは、同球団にとってまちがいなくプラスだ。これが4年前の田中将大なら「やめとけ」だ。数年後をターゲットに再建を図るべき球団が、マネーゲームに参入するのは愚の骨頂だからだ。しかし、大谷の契約は総額231万ドルとそのポテンシャルからするとタダ同然だ(ちなみに田中は1億5500万ドルだった)。しかも、23歳と若くかつ今後6年間も拘束できる。大谷の即戦力性に賭けるのではなく、その若さと長い契約期間を利して、契約の後半3年間にターゲットを絞り、再建に取り組むというのは大いに検討の価値があるシナリオだ。

そうなると、それこそトラウト放出も現実味を帯びて来る。5年後に大谷を中心とするチームを編成しワールドシリーズを狙うためにトラウトを放出し、予算の流動性と将来の中心選手となるトッププロスペクトを獲得するのだ。

いや、大谷との契約によりこんな超ウルトラCも考えられる。

それは、大谷とプーホルスをセットで放出するというものだ。若くて有望で低コストの大谷を手に入れることができるなら、パッケージでプーホルスを引き取っても良いという球団は必ずあるはずだ。プーホルスの残年俸分が大谷の維持費と考えれば決して高くない(その場合、プーホルスは史上最も割高な代打要員だろうか)。

ここまでお読みになって、「何と荒唐無稽な」と思われた方もいるだろうが、それがあり得るのがメジャーだ。現実に大谷がプーホルスとトレードされる可能性高しと予想しているのではない。しかし、エンジェルス首脳は少なくとも真剣に検討はすべきことであり、そうしていると思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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