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ゴールデン・グローブ賞でW受賞の快挙!!「ROMA/ローマ」が来るオスカーに及ぼす影響は?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
「ROMA/ローマ」は「万引き家族」と同じく家族がテーマ

 第76回ゴールデン・グローブ賞で「ROMA/ローマ」が外国語映画賞と監督賞をW受賞した。この結果を受けて、来る第91回アカデミー賞(R)の行方が益々気になる。最大の注目点は、やはり外国語映画賞ではないだろうか。「ゼロ・グラビティ」(13)ではLEDライトを駆使した宇宙映像で映画ファンの度肝を抜いたアルフォンソ・キュアロン監督が、一転、自らの幼少期に思いを馳せつつ描いた自伝的なメキシコ映画「ROMA/ローマ」が、果たして、アカデミー賞でも外国語映画賞で候補に挙がるのか、作品賞候補に入るのか、または両方なのかによって、他作品に少なからず影響が出るからだ。他作品とは、作品賞のライバルと目されている「アリー/スター誕生」や「グリーンブック」であり、また、外国語映画賞の候補入りが濃厚な「万引き家族」であることは言うまでもない。

 すでに発表されている全米の映画賞の結果も割れている。「ROMA/ローマ」を作品賞に選んでいるのは、ロサンゼルス、ニューヨーク、デトロイト等の各批評家協会賞で、外国語映画賞を授与しているのが、ゴールデン・グローブ賞を始め、アトランタ、ダラス-フォートワース等の批評家協会賞。また、サンフランシスコ、ワシントンD.C.、シカゴ等の各批評家協会賞では、「ROMA/ローマ」は作品賞と外国語映画賞をダブル受賞している。

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 では、オスカーはどうなるか。作品自体の勢い、審査する映画芸術アカデミーの投票行動、製作側の戦略、等々によって結果は変わるだろうが、過去の例を挙げると以下のようになる。例えば、イタリア映画「ライフ・イズ・ビューティフル」(97)の場合は、第71回アカデミー賞で作品賞と外国語映画賞で候補に上がり、外国語映画賞のみ受賞。また、フランス映画「愛、アムール」(12)の場合も、同じく第85回アカデミー賞で作品賞と外国語映画賞の両方で候補になり、外国語映画賞のみ受賞。一方、同じフランス映画「アーティスト」(11)の場合は、第84回アカデミー賞で外国語映画賞を除く全10部門で候補になり、結果、作品賞を含めて5部門を制覇している。そもそも、映画自体がサイレントの技法を使っているから、国籍や言語にこだわる意味がなかったのかも知れないのだが。因みに、過去90年の歴史を紐解くと、意外にも外国語映画賞と作品賞を同時に受賞した作品はまだない。

 要するに、アカデミー会員が「ROMA/ローマ」を外国語映画賞に止まらず、2018年度のベストピクチャーに強く推薦するかどうかで、結果は大きく変わりそうだ。映画を観る限り、完成度は非常に高いし、観た後、しばらく余韻を引き摺るような不思議な魅力を湛えている。

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 さて、改めて「ROMA/ローマ」の魅力とは何かを考えてみたい。舞台は1970年代。メキシコシティの高級住宅街、ローマの一角に瀟洒な邸宅を構える一家に、家政婦として仕える女性、クレオの目を通して物語は進んでいく。家主の夫婦や4人の子供たちにとって、クレオはまるで家族のような存在だ。でも、時折、夫人が冷徹な言葉で家事を指示してきたりして、両者の関係は決して平等ではないことを感じさせる。平等でないのは男女の関係も同じだ。夫人は夫の不貞に傷つき、一方、クレオも恋人に冷たくあしらわれて惨めな思いを強いられる。時代は、同じ中南米の隣国がクーデターや軍事政権によって混乱を来していた1970年代。そんな中、1968年のメキシコ・オリンピック以降、唯一、経済的発展を遂げることが出来たメキシコにも、それ故に貧富の差が生まれていく。物語は、繁栄の時代が徐々に過ぎ去り、再び混迷の度合いを強めていくメキシコに住む、やがて廃れゆく中産階級にフォーカスすることで、移りゆく人の世のはかなさを画面に溢れさせる。誰の胸にもある家族への思い、遠い記憶を呼び覚ますのだ。特に、残された家族がクレオを囲み、泣きながら抱き合う波打ち際のシーンは、涙なくしては見られない感動の名場面になっている。

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 アルフォンソ・キュアロンが故郷のメキシコで共に暮らした人々へのオマージュとして製作した本作は、ALEXA65という65ミリフィルムカメラで撮影されている点も話題だ。2014年頃解禁になったこのカメラは、「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」(16)や、来る「スター・ウォーズ エピソード9」(19年12月公開)でも使用されている最新型で、画面に奥行きをもたせる利点がある。カメラ撮影のイノベーターであるキュアロンは、物語の舞台になる広大な邸宅の遠近感等を演出するために、このカメラを導入。結果、モノクロの画面が終始微妙な陰影に富み、見たこともないようなグラデーションを堪能することが出来る。

 しかし、この種のある意味壮大なプライベートフィルムにハリウッド・メジャーが出資するわけはなく、「ROMA/ローマ」はNetfixオリジナル作品として昨年末からすでに配信が始まっている。それは何を意味するのか?各国の映画祭で議論を呼んだ「公開の形式によって映画を区別すべきかどうか」という問題が、候補になるカテゴリーの分類と共に、来るオスカー・ノミネーション(来年1月22日)を機に再び浮上するかも知れない。もし、「ROMA/ローマ」が作品賞候補に入り、さらに賞を制するようなことがあれば、ハリウッドの映画製作が大きく転換する可能性もあるのだ。

Netfixオリジナル映画『ROMA/ローマ』独占配信中

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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