好調AbemaTV「ネット上も含めて、世間で大きな話題になる仕掛けができる音楽番組を作る」
AbemaTVといえば5月7日に配信した「AbemaTV1周年記念企画『亀田興毅に勝ったら1000万円』」の視聴数が約1500万に達し、一時サーバがダウンし話題になったり、歴史的な連勝記録更新で、今や将棋ブームまで引き起こしている藤井聡太四段のオリジナル対局番組『藤井聡太四段 炎の七番勝負~new generation story~』など 次々と注目企画を仕掛け、視聴者数、アプリのダウンロード数を伸ばし、開局1年ながらその存在感、注目度はさらに大きくなっている。
そんなAbemaTVが様々なジャンルの中でも力を入れている一つが、音楽だ。話題の「フリースタイルダンジョン」、ONE OK ROCKのライヴ映像を3日連続オンエアしたり、人気アーティストからもその存在、スタンスへの理解と認知が進んでいる。音楽ファン注目のAbemaTVの音楽コンテンツの編成戦略を担う、編成戦略室マネージャー・水野信之助氏と、宣伝本部マネージャー・梅宮光司氏に、AbemaTVがこれから音楽、アーティストとどう関わっていき、どのようなコンテンツを生み出そうとしているのかを聞いた。
開局から1年、AbemaTV自体の認知、コンテンツ内容、ユーザーの楽しみ方がアーティスト、プロダクション、レコード会社に広がり、理解が進む
5月20、21日、晴天に恵まれた新木場・若洲公園では『TOKYO METROPOLITAN ROCK FESTIVAL2017』(「メトロック2017」)が行われていた。レキシ、[Alexandros]、Ken Yokoyama、KANA-BOON、SHISHAMO、サカナクション、Suchmos、WANIMA、関ジャニ∞他人気アーティストの競演にチケットは即完売、2日間で3万人超える動員になった。もちろんAbemaTVは5月19(前週の13・14日に開催された大阪公演を放送)・20・21日の3日間にわたり、大阪公演の独占放送と東京公演の独占生中継を含め、全45アーティストのライヴステージや、バックステージのトークなどを計26時間にわたって放送し、総視聴数は550万を突破。さらに「メトロック東京2017 独占生中継!DAY2」は1日で視聴数300万を突破し、これまでAbemaTVで放送した音楽コンテンツの中で、史上最高の視聴数を記録した。「昨年も「メトロック2016」を中継させていただきましたが、AbemaTVの企画に賛同いただき、コンテンツを出していただけるアーティストが、今年はかなり増えました。AbemaTVは去年の4月11日に開局して、その直後に「メトロック2016」の生中継をしましたが、音楽の生中継は初めてで、フェスのような長時間の尺で、複数のアーティストの生中継という取り組みも初めてでした。去年もライヴのコンテンツを出していただける方は多かったのですが、今年は出演者ほぼ全組に提供していただけました。完全生中継の場合はどうしても限られてしまいますが、AbemaTVにコンテンツを出していただく事自体は、ほぼ皆さんに賛同していただけるようになりました。一年間を通して、参加されているアーティストのみなさまからのAbemaTVの認知や、AbemaTVでライヴコンテンツがどのように表現され、それを見ているユーザーがどう楽しんでいるかという部分の理解が進んでいるという手応えはありました」(梅宮氏)。
音楽コンテンツの充実で、若い人達から支持を集める。「「メトロック」の中継は、18歳以下の女性の視聴者が多かった」(梅宮氏)
AbemaTVの音楽プログラム、アーティストとの関わりなど、開局当時は“様子見”という感じの強かったプロダクション、レコード会社、そしてアーティスト本人に、「AbemaTVが面白い事をやっている」という認知が広がっていった。そしてコンテンツの供給量が急激に増えていった。それによって、当初は視聴者の中心は比較的高い年齢層だったが、それに加え10代、20代の若い層の視聴者を取り込むことに成功した。もちろん人気タレントによるオリジナルのバラエティ番組や、アニメ、ドラマ、野球、サッカー、サーフィンなどのスポーツ番組などが多い事も若い視聴者に人気の理由のひとつだが、やはりフェスの中継をはじめ、音楽コンテンツの充実の影響は大きい。「フェス全体で見ると、1年間様々な音楽番組を放送してきて、より多くの若い人達が観てくれるようになった実感があります。特にフェスの中継や放送とAbemaTVは相性がいいというか、ユーザーにとってドンピシャなコンテンツだなと感じています。その中でも「メトロック」は相性がいいと思っていて、視聴者の割合も女性の方が多かったです。パンクロック系のコンテンツを放送すると、20、30代の男性がマジョリティーだったりしますが、「メトロック」は18歳以下の女子の視聴者が多く、若い女性への認知の手応えも感じています」(梅宮氏)。
去年に続き、今年も地方フェスを配信予定。「独自企画や地域性が感じられる、ビジョンが明確な地方フェスを配信したい」(梅宮氏)
梅宮氏は昨年夏、地方で行われるフェスをほぼ毎週観て回ったという。最近はフェスの数が増え、それぞれの地方で、それぞれの特色を出し、出演アーティストのラインナップも、やや被っている事は否めないが、豪華になってきていて、参加できないファンは当然観たくなる。しかし地方フェスは滅多に中継されない。AbemaTVではそんな視聴者からのリクエストに応えるべく、今後もいくつかの地方フェスの中継を検討しているという。「先ほども出ましたが、AbemaTVとフェスの相性の良さもあり、それが視聴者の方にも好評なので、昨年は地方フェスを多数放送しました。まずは体験しなければわからないという事で、去年の夏は北から南まで、毎週地方フェスにお邪魔し、肌で感じる事ができました。今年はその中でもそのアーティストの地元で行われるものや、独自企画や地域性が感じられ、ビジョンが明確なフェスなど、いくつか厳選して、皆さんにお届けしたいと考えています」(梅宮氏)。
配信の交渉や、番組の宣伝を担当している梅宮氏は、AbemaTVで放送する地方フェスの視聴に向けた盛り上げには事前に、中心となるアーティストが、そのフェスへの思い入れや、意義、出演アーティストとのつながりなど“背景にあるストーリー”も、しっかりと“語る”事が大切だと言う。「主催の方や地域とアーティストの繋がりや、バンドが主催のフェスであれば、バンド同士の横の世代との関係値など、そういう背景まで見えるフェスは、ファンにとって、遠くても観に行ってみたいという大きな動機になると思います。我々もそういうフェス、イベントを中継して、一人でも多くの人にフェスの魅力を伝えていきたいです」(梅宮氏)。そこにしっかりとストーリーが存在する、説得力のある、良質なフェスを届けたいと考えている。「単純にたくさん中継すればいいという事ではなく、そのフェスでしか見られないバンド同士のコラボや、そのフェスだけで演奏する曲、そこでしか語らない内容など、視聴者はフェス限定のような付加価値の部分を求めていると思うので、トレンド感も考えながら中継するフェスを選定していきたい」(梅宮氏)。
「若い視聴者に向け、アーティスト一緒にオリジナルコンテンツを作っていく」(水野氏)
ネットTVの武器は、やはり地上波ではなかなかできないもの、ファンの好奇心をくすぐるものを具現化するところだ。AbemaTVは、様々なオリジナル番組の制作には、資本関係のあるテレビ朝日の制作陣が参加していて、ネットの自由な発想と地上波の技術が合体した強力なコンテンツを、作り続けている。「番組作りにおいて、地上波も意識しているひとつのメディアのひとつではありますが、それよりもAbemaTVでしか作れない、オリジナルなのものを提供していくメディアでありたいという意志が強いです。ユーザーファーストで、視聴者に喜んでもらえるものは何かという考えがまずあって、その対象は若い人が中心ですが、その人達に向けて、いかにアーティストのみなさんと一緒にオリジナルなものを作っていけるかという事に尽きると思います」(水野氏)
自分達の音楽がどう届いているのか、演奏している最中の、ユーザーのリアルな反応を文字で目の当たりするアーティスト
テレビの音楽番組で、その力を100%視聴者に届ける事ができるアーティストもいれば、音楽バラエティ番組で音楽と共にキャラクターを伝え、認知を広げるアーティストもいる。しかし番組内で与えられた時間的な制限の中ではやはり伝えきれない事も多く、アーティストのカラー、特色によってそれを伝える手段が、十人十色であるのは当たり前だ。地上波の画一的なフォーマットではなく、アーティストと制作サイドが練り、作り上げたネット番組の方が、ファンとの距離がより近くなり、アーティストの魅力をストレートに伝える事ができる。そしてリアルタイムコメントを通してアーティストとファン、ファン同士がつながる事ができるのも魅力だ。年始にONE OK ROCKのライヴを放送した際は、ファン同士の盛り上がりに制作側も驚いたという。「ONE OK ROCKさんのコンテンツを通じて、ユーザー同士が集まって楽しめるれる場の一つとして、AbemaTVを提供できたことはすごく良かったと思います。ONE OK ROCKさんからコメントもいただけ、ファンの皆さんにも喜んでいただけたと思います」(梅宮氏)。アーティストサイドにとっては、ファンの声をリアルタイムで聞けるというのは嬉しさと同時に怖さのようなものがあるが、自分達の音楽が実際にどう届いているのかという事を知る、いい機会になる。「ライヴ中はコールアンドレスポンスで盛り上がっていますが、実際演奏している最中のユーザー一人ひとりの反応を、文字で目の当たりにする機会ってほとんどないと思います。だからAbemaTVで番組を流す際、メンバーで集まって色々な話をしながら、一緒に観て下さっているアーティストの方々もいらっしゃるようです」(梅宮氏)。
アーティストがブランディングしていく中で、その自由度の高さとファンとの親和性という部分で、ネット番組は欠かせない存在になっている。「AbemaTVをそう考えてくださると嬉しいです。テレビに出ないことがクールだという考えを持っているアーティストの方々もいると思うので、そのようなアーティストの方とご一緒させていただき、AbemaTVのひとつの付加価値にしていけるようなトライをしていきたいです」(梅宮氏)。「我々のマーケティングは、ソーシャルを主戦場にしており、AbemaTVのメディアとしてのプロモーション力も買っていただいている部分はあると思っていて。なのでアーティスト側のプロモーションタイミングに合わせて、我々とプロダクション、レコード会社、双方から色々な企画が生まれる事が多いです。例えば世の中的にノイズが上がるタイミングで、ご一緒する場合や、そのアーティストの特長、特性を活かしたタイミングで相談させていただいています。パフォーマンスや演奏をしている映像を中心に、いかにAbemaTVだけのオリジナルな要素を加えて、番組としてユーザーに楽しんでもらえるかという企画のオリジナリティが、我々の競争力だと思っています。あるアーティストの最新のミュージックビデオの初出しをAbemaTVで実施させていただいたのですが、そのミュージックビデオをアーティストと一緒に生放送で観るという番組を放送しました。リアルタイムで寄せられるユーザーからのコメントに対して、アーティストのリアルな反応も観る事ができ、それが付加価値になって視聴者の方に喜んでいただけるという事例も出てきています」(水野氏)。
「ネット上も含めて、世間で大きな話題になるような仕掛けができる音楽番組を作っていきたい」(水野氏)
アーティスト目線、ユーザー目線、それをうまく融合させた“押しつけがましくない”、自由度の高いコンテンツを作る事ができるのがネットTVだ。もちろんそこに制作サイドの意思ははっきり存在させなければいけないが、これからAbemaTVはどんな音楽コンテンツ作りに力を注力していくのだろうか?「EXILE、EXILE THE SECONDのメンバーの黒木啓司さんが紹介したいアーティストを招いて、スペシャルパフォーマンスやトークなどをお届けする『BPM』も好評です。音楽のオーディション番組も放送しました。今後は『フリースタイルダンジョン』のように、HIP-HOPという文化そのものがものすごく盛り上がるような、モンスター番組を作りたいです。『フリー~』のようなバトルものなど、ネット上も含め世間で大きな話題になるような仕掛けができる音楽番組を作っていきたいな思います。また、テレビではあまり見ることができないアーティストを中心に構成された音楽番組にもチャレンジしたいです。アイディアはたくさんあるのですが、それをいかに亀田興毅さんの番組のように実現までに持っていき、アーティストや音楽に興味がない人にも、「あの番組AbemaTVでやってたね」と認知されるような音楽番組を作りたい」(水野氏)。
さらに「センスとバランス」が大切だと水野氏は言う。大物アーティストをブッキングできたからといって、それで終わりでなく視聴者を魅了するような番組に仕上げなくてはいけない。「目新しさと驚き、企画性はしっかり用意できているかという目線を大事にしています。AbemaTVの利用頻度や、AbemaTVの名前は知っているけど、接触したことがないというユーザーに対しては、ビッグアーティストの方に出ていただける事が、切り口としてはわかりやすいのかもしれません。それももちろん必要ですが、やはり音楽ファンの方は時流も含めたセンスのあるブッキングを求めていると思いますので、バランスは重要視しています」(水野氏)。
「放送前に期待感を煽り、本放送で満足してもらい、事後コンテンツで更に盛り上げる事で、世間に広く伝えていく」(水野氏)
先述した『亀田興毅に勝ったら1000万円』というコンテンツが、AbemaTV全体に与えた影響は大きいようだ。それは音楽、バラエティ、ドラマなどジャンルは関係なく、認知される事、“お茶の間感”の大切さを、スタッフ全員が肌で感じた。「亀田さんの番組で学んだのは、事前の盛り上げで視聴者の期待を膨らませ、本番の面白さはいわずもがな、放送後も楽しめるコンテンツを用意し余韻を楽しんでもらい、それが話題になっていく。ただ、広く届くまではある程度時間がかかるという事です。音楽ではAbemaビデオの方で事前に楽しんでいただけるコンテンツがあったり、事後に楽しんでもらえるコンテンツもあります。その時差を活かして、事前にコンテンツを観て期待を膨らませ、本放送を楽しむ。まだ物足りない、もうちょっと観たい人という人に向けた事後コンテンツを用意し、それを元に熱狂度の高い人たちが話題にしたことでその周辺の興味を持ってきてくれた人たちが、そのタイミングで観る事ができるものを用意する。亀田さんではその一連の流れがとてもうまくハマって、世間で色々な年代の方々に話題にしていただきました。番組放送後、電車に乗っていると、電車の中でもみんな亀田さんの話をしているのを聞いて、その重要性を実感しました」(水野氏)
「音楽シーンの未来は明るい」(水野氏)
これから音楽コンテンツに注力していくというAbemaTVだが、音楽業界を俯瞰で見て、これからシーンはどのようになっていくと分析していくのだろうか?「未来は明るいと思っています。「メトロック」に行ったら、仲間で来たり、カップルがデートで来たりと若い男女がたくさんいて、すごいなと思いました。僕の時代にはフェスがそこまで身近でなく、そういうノリはあまりなかった気がするので、そういう意味では、フェスでそれまで知らなかった色々なアーティストのライヴを観て、好きなアーティストが増えていくといういい循環があるのだと思います。僕らはそういう勢いと一緒に、ムーブメントを作っていきたいと思っています」(水野氏)。
ライヴも含め、音楽に対する欲求はますます高くなってきている。そんな中、アーティストに寄り添う、ファンの気持ちに応えるAbemaTVのコンテンツは、音楽ファンの満足度を高めてくれると共に、グレーゾーンの開拓にも大きく貢献してくれそうだ。7月8に『【完全版】ももクロ試練の七番勝負2017 ライブ&限定裏トークも!』(14時~)、9日には『神戸からの恩返しチャリティーフェス カミングコウベ2017』(20時~)を放送予定で、他にも強力コンテンツがスタンバイしており、音楽シーンを盛り上げる。