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レペゼン地球、きまぐれクック…なぜYouTuber事務所はトラブルが絶えない?「いる意味ない」裏事情

谷田彰吾放送作家
きまぐれクックのYouTubeより

 芸能人に続いて、YouTuberの間でも事務所独立ラッシュが起きている。いや、「独立」という言葉は正確ではないか。もはや事件と呼ぶのがふさわしいほど、「退所」をめぐる泥沼の騒動が、人気YouTuberの身に起きているのだ。

 6月22日、YouTuber事務所のKiiiが「当社の所属クリエイターの退所報告について」という声明を発表した。そこにはこう書かれている。

 「当社所属クリエイターが退所動画や退所コメントをYouTubeやその他SNS等に上げておりますが、いずれのクリエイターについても当社との契約の有効期間中であり、正式な契約終了の合意に至っておらず、現在、弁護士を通じて問題の解決に向けて協議しております。クリエイターによる一方的な発表への対応に追われ、ご報告が遅くなりましたことを重ねてお詫び申し上げます」

 これを読んだだけでも、大きなモメごとになっているのは想像がつくだろう。上記の通り、所属YouTuberが6月4日頃から次々と退所を報告する動画を公開した。チャンネル登録者数433万人の「きまぐれクック」、178万人の「チャンネルがーどまん」など、トップYouTuberの電撃的な退所報告にYouTube界には激震が走った。

 動画で語られた彼らの言葉は、騒動の渦中にあることを感じさせるものだった。「信頼していた事務所の社長が変な感じで変わった」「社長本人も何も知らないまま、いきなり弁護士が入ってきて辞めさせられた」「正直、円満退社ではない」「信用がゼロになった」 彼らの言葉ばかりを鵜呑みにするわけにはいかないが、のっぴきならない事情があったのは間違いなさそうだ。

 Kiiiは2017年に創業したYouTuber事務所で、チャンネル登録者数100万人を超えるYouTuberも多数所属する、業界では名の通った事務所だ。だが、YouTube界に身を置く者は皆、「今度はKiiiか…」という印象を抱いているだろう。それほど、似たような騒動が業界全体で何度も繰り返されているのである。

 最近起きた事例では、YouTuber事務所・VAZに所属していた「ねお」の騒動が記憶に新しい。昨年8月24日に公開したねおの母親のブログでは、「年間にして数千万円のYouTube収益が出てても、月に30万ほどしか報酬が渡されない月も存在しています」「未成年を騙し、許されない行為」と告白。金銭的な不当さなどを理由に、動画で退所を報告した。しかし、VAZは事実と違うと反論し、まだ契約期間内であることから、今も所属クリエイターとしてホームページにねおを掲載している。

 そして、極めつきは6月1日に明るみに出た「レペゼン地球株騒動」だ。YouTubeを拠点に活動していたアーティストの”元”レペゼン地球のメンバー・DJ社長が、所属事務所との株や金銭のトラブルによって、グループ解散&退所に至ったことを告白。自身が事務所の代表取締役であったにもかかわらず、筆頭株主ではなかったため、退所後にグループ名や音楽作品に関する権利を使用できなくなったという。(メンバーは現在「Repezen Foxx」として活動している) だが、こちらも告発された事務所サイドが事実ではないと反論し、弁護士を通して争っているという。

 これらはあくまでも一例にすぎず、人気YouTuberの退所のニュースは枚挙にいとまがない。日本一のYouTuber事務所で上場企業でもあるUUUMでも、トップYouTuberの退所ラッシュがあったほどだ。

 では、なぜこんなことが起きてしまうのか?ここ数年、芸能事務所でも独立が相次いでいるが、同じ「事務所」という名前でも事情は全く異なる。YouTuber事務所と芸能事務所を同じだと捉えてはいけない。その違いを掘り下げていくと、これからのタレントビジネスのあり方が見えてくる。

 YouTuber事務所の主な業務は、所属YouTuberのマネジメント、動画制作のサポート、タイアップ案件の営業、イベント制作、グッズ制作、経理などがあげられる。YouTuberの収入源は主に、広告、タイアップ、グッズ収益となるが、その一部を事務所に納める見返りとして、上記のようなサポートを受けるのだ。そのパーセンテージは各社様々だ。

 こうして見ると、芸能事務所と大差ないじゃないかと思われるかもしれない。だが、YouTuber事務所と芸能事務所では、タレントの「地位」がまるで違う。

 芸能事務所に所属する芸能人は、一般的には「出演者」として所属する。その最大のメリットは、テレビを中心としたメディアへの露出が増えることだ。メディアは基本的に、選ばれた人が立てる場所だ。その場所に辿り着くには、自分という商品を「流通」に乗せなければ難しい。そこで、メディアと太いパイプを持つ芸能事務所にサポートしてもらうわけだ。これは長い年月をかけて作りあげられた芸能事務所独自の武器である。そのため、タレントは事務所に頼らざるをえない。主従関係は「事務所>芸能人」となる。

 一方、YouTuberは違う。YouTuberの本質は出演者ではなく「クリエイター」。規模の大小や品質の議論はさておき、YouTuberは映画監督やアーティストと根っこの部分では同じなのだ。彼らは自分で作った動画によって生計を立てる。より良い制作環境を整えるために事務所に所属する。誤解を恐れずに言えば、事務所は「お世話係」だ。極論、いなくても成立する。主従関係は芸能人と逆で、「YouTuber>事務所」となる。

 だからトラブルが絶えない。マネジメントと言っても、事務所がやってあげられることがあまりにも少ないからだ。YouTuberにとって、一番手伝って欲しいことは何か?それはクリエイティブのサポートだ。毎日のように動画を投稿する彼らは、常に新しい企画を生み出したいと格闘している。私も一時期、放送作家としてYouTuberの企画の相談に乗っていたが、彼らの生みの苦しみは大変なものだ。まさに命を削って戦っている。そんな彼らのクリエイティブを支えるには、同等の能力が必要だ。人気YouTuberになればなるほど高いレベルが求められる。そんなことができるスタッフは一握りしかいない。

 となると、YouTuber側から見れば、「頑張って稼いだのに、こんなに持っていかれるのか。何を助けてもらったっけ?」となりがちだ。実際は経理や細かい雑務も含め、事務所が貢献していることもあるのだろうが、クリエイターは作品制作だけに意識が向いて視野が狭い傾向にある。パーセンテージに納得がいかず金銭トラブルが起きることもある。また、信頼できるスタッフがいれば、「その人だけいればいい」わけだ。今回のKiiiの件はまさにそれで、信頼していた社長がいなくなったから、「じゃあ事務所にいる意味がない」と退所に発展した。

 事務所側にも、もちろん言い分があるだろう。「面倒なことをやってあげたのに」と感じることも多いだろうし、緊急事態宣言下で大宴会を開いたニュースのように、頭を下げなければならないこともある。だが、それでも相手がクリエイターである以上、主導権をYouTuberに握られてしまう。しかも、話し合いの途中であっても、動画で一方的に暴露されてしまうこともあるので印象が悪い。ファンはどうしてもYouTuberの言い分を信じるため、事務所は悪者になってしまう。

 私はYouTuberと事務所、どちらが良いか悪いかという話をしたいわけではない。ただ、構造として難しい部分があることは否めない。そんな中、今後のYouTuber事務所や芸能事務所は、どんな方向に向かっていくのだろうか?

 これからは、個人に小さなクリエイティブチームが紐づく時代になる。特に芸能人は、メディア出演以外にやることが増えた。ブログやTwitter、Instagramまでは本人でもできたが、動画までやるとなると手が回らないし特殊な技術もいる。個人アカウントが増えたため、ブランディングがより大切になった。だから芸能人ごとにクリエイティブチームが付き、一緒にアウトプットをしていく。YouTuberも同様だ。クリエイティブの嗜好が合い、信頼できるチームを従えて活動していく。

 そしてもう一つ重要なのが、契約で縛らないことだ。芸能人もYouTuberも、自分で稼げるようになった。もう専属契約という形でマネジメントするのは難しい。それよりも、「プロデュース」という形で貢献する。どうすれば売れるか、企画戦略からアウトプットまで、外部のプロフェッショナルを巻き込みながら総合的に力になっていく。それが事務所の腕の見せ所になる。働いた分だけ、成果が出た分だけ報酬をシェアする形なら双方ともに納得がいく。

 YouTuberの退所騒動を対岸の火事と捉えない方がいい。これからは社会全体が「個人」で働く時代にシフトする。個人同士が協調しながら信頼関係をもって仕事をしていく時、今回のような騒動はある種の反面教師になるかもしれない。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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