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チームが勝てば勝つほど大谷翔平の起用法を見直さなければならない背景

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
すでにエンゼルスにとって必要不可欠な存在になった大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今や米国ですっかり二刀流が認知され、エンゼルスにとって必要不可欠な存在になった大谷翔平選手。開幕からみせた投打にわたる想像を超える活躍に触発されるように、チームも好調と維持し、昨年のワールドシリーズ覇者であるアストロズとア・リーグ西地区で首位争いを演じている。

 だがチームが好調であればあるほど、今後シーズン終盤に向けて大谷選手の起用法を見直さなければならなくなるのだ。普通に考えれば、大谷選手が投打で活躍し、チームも勝っている現在の状態を継続していくのが理想的なのかもしれない。それでも最近になってマイク・ソーシア監督が「中5日登板」や「DH解除」などについて言及しているように、大谷選手の起用法を現状のまま続けていくことは決して得策とは言い切れないのだ。

 現時点での大谷選手は、あくまでMLBに初昇格した新人選手と同じように扱われている。MLBという舞台に順応し、マイナー(大谷選手の場合はNPB)と同様のプレーができているのかをしっかりモニタリングされている。特に大谷選手の場合は二刀流という特殊なケースであり、より繊細に見極める必要があった。ここまで日本ハム時代の起用法に合わせてきたのも、そのためだ。

 しかしMLBとNPBではやはり取り巻く環境が違う。必然的に日本ハム時代の起用法を続けていけば、どこかで齟齬が生じてくる。その最たるものがポストシーズンだ。エンゼルスが現在のような戦いを続けていけば4年ぶりのポストシーズン進出が見えてくるわけだが、これまでの大谷選手の起用法ではポストシーズンで理想的な戦い方ができなくなってくるのだ。

 NPBの場合、ポストシーズンはCSや日本シリーズの間に十分な準備期間が用意されているが、MLBでは公式戦終了と同時にポストシーズンに突入し、ほぼ休み無しに地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズ、ワールドシリーズが組まれている。先発ローテーションの組み替えなど不可能だ。だからポストシーズンに進出したチームは目の前の1勝を勝ち取るため、中3日でエースを先発させたり、クローザーを早いイニングから投入するなどの“常識破り”の起用に走ったりするのだ。

 もし仮にエンゼルスがポストシーズンに進出し、大谷選手の起用法が現在のまま続けたとしたならば、登板前後の試合には出場できないし、中6日の登板間隔を空けなければならない。これでは短期決戦にもかかわらず、大谷選手を起用できる試合数が制限されてしまうのだ。場合によってはシリーズを通して一度も登板できないケースも想定される。繰り返しになるが、すでに大谷選手はエンゼルスにとって必要不可欠な戦力だ。ポストシーズンに進出すれば彼の能力を最大限に活用できる方策を考えていかねばならない。それが「中5日登板」「DH解除」「登板前後の代打」などの起用法になってくる。

 もちろん新人選手に無理をさせたくないという基本的な姿勢は変わらない。だがポストシーズンでぶっつけ本番で起用法を変えることの方がリスクが高い。やはりポストシーズンに進出する可能性が高まれば、どうしても大谷選手の反応を見極めるためにも、試験的に様々な起用法を試していくしかないわけだ。

 さらにエンゼルスは、別の意味でも決断を迫られるケースがある。公式戦162試合という長丁場が初体験の大谷選手が仮にシーズン終盤で明らかに疲労が蓄積しているような状態に陥った場合に、彼をどう扱うかだ(もちろんそれを踏まえた上で、現在もしっかりモニタリングしているのだが…)。普通の場合ならどのチームにおいても間違いなく残りシーズンの休養(いわゆる「シャットダウン」)を与えることになるだろうが、ポストシーズン進出を争うチームの主力選手となれば事情は大きく違ってくる。その中でエンゼルスがどう判断を下すのか、気になるところではある。

 また新人先発投手に関してチームは投球イニング数をかなり注意深く観察しており、できる限り過去の投球イニング数から大幅に逸脱しないように起用していくものだ。大谷選手の最多イニング数は2015年の160.2で、やはりこれを大幅に上回るイニング数を投げさせるのは回避したいところだろう。現状のペースではその可能性は低いが、起用法が変わり登板数が増えることになれば注意が必要になってくるだろう。

 いずれにせよチームが好調であればあるほど、ポストシーズン進出の可能性が高まれば高まるほど、大谷選手の起用法はますます脚光を集めることになる。日本ハムがそうであったように、とてつもない才能を持った二刀流選手の可能性をどこまで引き出せるかは、チームに突きつけられた永遠の至上命題だ。これからも大谷選手を引き受けたエンゼルスの宿命になっていくのだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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