原油価格の下落を生かす工夫も
原油価格の推移を見る際の指標として使われるのがWTIである。これは債券の動きをみるのに都合が良い債券先物と同様に、流動性の高さなどから原油価格の上げ下げを見る指標として都合が良いため、指標として使われている。
WTIとは「West Texas Intermediate」の略称で、アメリカ合衆国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称であり、硫黄分が少なくガソリンを多く取り出せる高品質な原油であり、そのWTIの先物がニューヨークマーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されている。
WTIが上場したのが1983年であり、すでに1973年と1978年の二度のオイルショック後となる。上場後は30ドル近辺での推移であったのが、1985年のプラザ合意前後に原油価格の大幅な低下が進み、WTIは20ドルを大きく割り込む。しかし、その後切り返し、1987年のイランイラク戦争時に40ドル近辺をつけることがあったが、2000年あたりまで20ドル近辺での動きが続いた。
その様相が変化したのが、2004年あたりからである。2008年7月11日に最高値147.27ドルを記録した。この原油価格上昇の要因は、中国などを中心とした新興国の需要増加であることは確かである。ただし、2008年の140ドル台はややバブルの様相を示し投機的な動きもあったとみられる。その後、リーマン・ショックもあり40ドル近辺にまで低下した。
しかし、欧州の信用不安による日米欧の金融緩和などもあり、これも新興国経済には下支えとなったとみられ、2011年あたりからWTIは再び100ドル台を回復した。ところが、2014年7月あたりから原油価格は急落する。2015年8月には40ドルを割り込む場面があった。現在も45ドル近辺となっており、再び40ドルを割り込むとの見方も出ている。
今回の原油先物の下落の影響としては、米国のシェールオイル増産も当然絡んではいようが、WTIの32年間のチャートをみると、2004年あたりからの大相場が終焉しつつあるようにしかみえない。そうであれば、中国を中心とした新興国経済の急成長の反動、つまりその落ち込みが顕著になったことが影響しているといえる。
日本もそうであったように高度成長は永遠に続くものではない。中国も高成長から安定成長の時代を迎えつつあると思われる。これにより、原油価格のバブルも終焉した。これはオイルマネーなどにも影響を与えているとみられ、一時の株安の一因ともされている。
WTIのチャートからみると、もしバブル前の原点に戻るとすれば、1バレル30ドルあたりまで下落してもおかしくはない。これは物価に対しては上昇抑制要因となる。しかし、原油価格の下落そのものは日本経済にとっては決してマイナスではない。エネルギー価格の下落をうまく生かす政策も必要になってくるのではなかろうか。