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扇風機は、熱中症予防に有効?無効?

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

夏も盛りになってきました。

嬉しくないですが、『過去最高気温』と聞いても驚かなくなってきましたよね。

過去100年間の東京の気候の変化を見ると、1920年から2020年に、平均気温がおおむね2度、上がっているようです[1]。

東京管区気象台 https://www.jma-net.go.jp/tokyo/shosai/chiiki/kikouhenka/html/tokyo.html
東京管区気象台 https://www.jma-net.go.jp/tokyo/shosai/chiiki/kikouhenka/html/tokyo.html

過去100年で2度の平均気温の変化は、少なくないですよね。

このように夏の暑さが厳しくなってきているなか、エアコンの使用が熱中症予防のために推奨されていますし、重要な対策です。

暑さから逃れることは熱中症予防の最も有効な方法なのです。

しかし、電気代が高騰している現在、エアコン以外の方法も気になりますよね。

様々な暑さ対策として、2021年のシドニー大学の研究チームからの報告があります。

そのなかでは今後、都市の緑化や建物の設計変更、個人の対応策など、多角的なアプローチが必要とされています[2]。

個々人の対策として、水を霧のようにして体に吹きかける、足を水に浸す、皮膚に水をつけるなどの方法が提案されており、扇風機もその対策の一つとして挙げられています

扇風機はエアコンに比べて電力消費が非常に少なく、その利点を活用するべきだとされているのです。

では実際に、扇風機は熱中症予防に有効なのでしょうか。

扇風機による暑さ対策は、若者と高齢者で異なる結果になっている

写真:アフロ

扇風機による暑さ対策に関しての研究は、若者と高齢者で異なる結果が出ています。

2015年、オタワ大学で8人の健康な若い男性を対象に扇風機の効果が検討されました[3]。

気温を36度から42度、湿度を25%から95%に変えて、心拍数や体温の変化を観察したのです。

日本で42度という気温を聞くことはないかもしれませんが、気温は1.5メートルで測定されていることを考慮すると、地表近くではもっと高い温度になる可能性があります。したがって、42度は十分に経験する可能性のある温度とも言えるでしょう。

参加者には、短パンとTシャツを着てもらい、扇風機を使用するグループと使用しないグループの2つに分けて実験が行われました。

気温が36度の場合、扇風機を使用すると湿度の限界値が83パーセント、使用しない場合は62パーセントとなりました。また、気温が42度の場合、扇風機を使用すると湿度の限界値が47パーセント、使用しない場合は38パーセントでした。

さらに、扇風機を使用すると体温の上昇が遅れ、汗の分泌も増加することが確認されました。

温度だけでなく、湿度が高くなると気温に対する限界値が下がってくることがわかりますね。

すなわち、扇風機を使う方が熱中症予防に有利である可能性があるということです。

高齢者に対する扇風機の効果は?

写真:イメージマート

では、高齢者に対する扇風機の効果はどうでしょうか。

2016年に、テキサス大学で高齢者を対象とした同様の検討が行われました。

すると、若者とは逆の結果になりました。

高齢者において、扇風機による体温の上昇を遅らせる効果はなく、むしろ扇風機を使用すると心拍数や体温が上昇する傾向が見られたのです[4]。

まとめると、若い人は暑さ対策として扇風機を活用しやすいけれども、高齢者は活用しづらい、そのような結果といえましょう。

扇風機を、エアコンなどと併用して活用していくことも今後重要となってくるでしょう

写真:イメージマート

CDC(米国疾病予防管理センター)のホームページでは、扇風機に対する否定的な意見が記載されています。おそらく、これらの検討からシンプルな情報として、暑さ対策としての扇風機のリスクを強調しているだろうと、個人的には考えています[5]。

多くの地域で平均気温が上昇しています。

エアコンの使用は熱中症予防に非常に重要であると考えられます。しかし、持続可能な夏の過ごし方を考えると、エアコンだけでなく、水の活用や、電力消費が少ない扇風機の併用も考慮する時期に来ているのかもしれません。

そして最近、シドニー大学の研究が発表されました。

すると扇風機の使用は、若者では暑い日の 96.6%に、高齢者でも94.9%に有効だったとされています[6]。

扇風機の効果は、気温や湿度が上がってくると効果が低くなる、そして高齢者では害になる可能性があるということです。一方で、エアコンと併用しながら、状況や体調に応じて適切な活用が望まれる、ということです。

まだまだ暑い季節が続きます。

この記事が、暑い夏を乗り越えるなにかの助けになればいいなと願っています。

【参考文献】

[1]東京都の気候変化(東京管区気象台)

 2023年8月7日アクセス

[2]Lancet 2021; 398:709-24.

[3]Jama 2015; 313:724-5.

[4]Jama 2016; 316:989-91.

[5]Frequently Asked Questions (FAQ) About Extreme Heat(CDC)

 2023年8月7日アクセス

[6]Lancet Planetary Health 2021; 5:e368-e77.

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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