コロナワクチン健康被害の申請1万件超に 20代以下の認定も1千件以上
予防接種の健康被害救済制度に基づき、新型コロナワクチン接種後の健康被害の救済申請を受理した件数が、今年1月末までに1万件を超えたことがわかった。6千件以上が接種による健康被害と認定され、約3千件が審査中となっている。
死亡事案もこれまでに453人が認定されたが、600件以上の審査が終わっていない。
厚生労働省が審査結果をまとめた資料で明らかにした。
1回以上の接種人口は約1億人なので、接種した1万人あたり1人が健康被害の申請を行っていることになる。コロナ禍の前まで毎年数千万人がインフルエンザワクチン等を接種していたが、健康被害の審査件数は年100件前後で推移していた。
1月15日には、初めて10代未満の認定例(6歳と9歳)が公表された。
筆者の集計により、コロナの重症化リスクが極めて低い20代以下の認定件数が1000件を超えたこともわかった(死亡・後遺障害の認定は20件)。20代以下の接種人口でみると、100万人あたり50人超が健康被害の認定を受けていることになる(※1)。
従来、ワクチンによる健康被害リスクの許容限度は100万回あたり数回という指摘がなされていた。
政府は、今年3月をもってコロナワクチンの特例臨時接種を終了し、4月から原則として65歳以上の定期接種に変更する方針を決定。カテゴリーも「B類」になり、健康被害の給付額が少なくなる。定期接種の対象者以外は自己負担の接種となり、厚労省の健康被害救済制度の対象から外れる(※2)。
(※1)政府の発表によると、20代以下の1回以上接種者は1745万7404人(1月30日公表時点)。厚労省「疾病・障害認定審査会」の公開資料に基づく筆者作成のデータベースで集計すると、健康被害認定事案のうち20代以下は1047件(1月31日現在)。
(※2)定期接種の対象者以外の人が自己負担で接種し、健康被害が生じた場合は、医薬品副作用被害救済制度により給付を受けられる場合がある。ただし給付額は定期接種B類よりさらに少なくなる。
心筋心膜炎による健康被害認定の75%以上が30代以下の男性に集中
医学的見地から二重の審査 後遺障害の認定率は4割
厚労省のサイトでは「予防接種と健康被害との因果関係が認定された方を迅速に救済するもの」と明確に説明している。
にもかかわらず、救済制度の認定状況に対しては、医学的な因果関係が認められたわけではないとか、政治的な理由で幅広く救済されているにすぎないといった指摘が、一部医師らインフルエンサーやX(旧Twitter)のコミュニティノートで広がり、軽視される傾向にある。
だが、厚労省は、申請資料に基づき個々の事例ごとに「症状の発生が医学的な合理性を有すること」「時間的密接性があること」「他の原因によるものと考える合理性がないこと」等について、医学的見地等から慎重な検討が行われていると説明している(資料3ページ)。
「厳密な因果関係までは必要としない」と説明されているが、これは「因果関係を厳密に証明することは通常不可能」(同資料)だからで、因果関係が強く疑われる事案もすべて泣き寝入りとならないよう、そこまでは要求しないという趣旨だ。
こうした因果関係の認定方法は、裁判所の判断基準と似ており、厚労省も「判例等と同様に、一般人をして疑問を挟まない程度の蓋然性を要する」と説明している(資料5ページ)。
申請するにはカルテ等の医療資料を自分で揃える必要があり、医師の協力も必要なため、ハードルは決して低くない(患者の会のサイト参照)。軽微な副反応は対象外となっており、審査の対象は少なくとも一定期間の入通院治療を受けて医療費負担が生じた場合に限られる。
制度が十分周知されているとは言えず、知っても申請を断念するケースも少なくないとされる(患者の会の調査)。特に、死亡一時金は生計を同じくする遺族以外には給付対象とならない(たとえば独立して生計を営む独身者が亡くなった場合は対象外)という制度上の壁もあり、申請を断念する遺族も一定数いるとみられる。
申請の受付は自治体が担い、医師などで構成される「予防接種健康被害調査委員会」が医学的な見地から審査を行っている(例えば、大阪市の委員会の構成はこちら)。それを踏まえて厚労省に進達し、ふたたび主に医師で構成される「疾病・障害認定審査会」で審査し、認定・否認の結論を出している。つまり、自治体と国とで医学的見地による二重の審査が行われているといえる(ただし、アナフィラキシーは自治体での審査を省略できる)。
厚労省の審査では、他の原因が疑われる場合など「予防接種と疾病との因果関係について否定する論拠がある」等により否認されるしくみとなっており、現時点で審査案件の約15%が否認されている。当初はアナフィラキシーの認定が多かったが、最近はアナフィラキシー以外の事案が増え、否認率が高まる傾向にある。筆者の集計では「後遺障害」事案(*)は認定39件、否認59件となっており、6割が否認されていることがわかった。
審査の詳細は公表されておらず、厚労省もわかりやすく説明しているとは言い難い。だが、「厳密な証明」は不可能にせよ、個別の事案ごとに医学的見地に基づいて因果関係の認定・否認の慎重な判断がなされていることはほぼ間違いない。
「厳密な証明は不要」という説明をとらえて「救済認定は医学的な因果関係とは関係ない」といった言説は、被害の実態を過小評価するだけでなく、認定を受けた被害者・遺族への誤解や風評を招く恐れもある。
(*) 所定の後遺障害を前提に「障害年金」「障害児養育年金」を申請している事案のこと。
膨らみ続ける死亡事案の審査 報道は極めて少ない現状
厚労省は、死亡事案の審査を先送りにしてきた。
2022年11月には418件の死亡事案が、自治体の審査を終え厚労省に進達されていたにもかかわらず、3%弱の11件しか審査を終えていなかったことが判明している(山岡淳一郎『ルポ 副反応疑い死』)。
昨年から審査体制が強化され、新型コロナの位置付けが「5類」に移行してからは積み残された多くの死亡事案が審査されることになった。
一方で、新規の受理も増え続けているため、600件以上の案件を抱えていることが、筆者の調べでわかった。
コロナワクチンの審査件数は、体制を大幅に拡充しても追いつかないほど、過去に類例をみない規模になっている。昨年暮れには、審査件数が膨らんでいる問題について朝日新聞と読売新聞が報じており、メディアも状況を知らないわけではない。
だが、一部地方局を除き、主要メディアは、毎月4回の審査会が認定結果を公表している状況についてほとんど報道していない。
NHKの場合、昨年8月に死亡事案の認定件数が156人になったと伝えたのを最後に、報道しなくなっている。
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(*) 報道回数のグラフに誤りがあり、修正しました(NHKの回数が1減)。(2024/2/6)