幼い命が消えた八街児童5人死傷事故 「眠れる警察官」は危険運転を阻止できるか
先月28日、千葉県八街市で、下校中の小学生の列にトラックが突っ込み、児童5人が死傷した。千葉県警は、現行犯逮捕したトラック運転手を、危険運転致死傷容疑で千葉地検に送検した。事故を受けて、菅首相は、通学路の総点検を行い、緊急対策を実行するよう指示した。
お金がなくても知恵は出せる
報道によると、今回の現場については、PTAからガードレール設置の要望を再三受けていたにもかかわらず、八街市は、「ガードレール設置には道路拡幅のための用地買収が必要なので、多額の費用がかかり、要望に応えるのは難しい」として、先送りしていたという。
確かに、地方自治体の予算は無尽蔵ではない。しかし、だからといって、「お金がないからできない」と切り捨てるのは情けない。お金がないなら知恵を出せばいい。むしろ、そこにこそ、公務員のやりがいがあるのではないだろうか。
例えば、「ハンプ」は、設置費用が安く、工事期間も短い。
ハンプ(英語で「こぶ」の意)とは、車の減速を促す路面の凸部(盛り上がり)のことだ。バンプ(英語で「衝突」の意)ともいう。通過する車は嫌でもスピードを落とさざるを得ないので、「眠れる警察官」とも呼ばれる。
1960年代後半にオランダで生まれたボンエルフ(オランダ語で「暮らしの庭」の意)を起源とする。ハンプが道の途中にあると、車体が持ち上がりそして落ちる。そのため、恐る恐るゆっくり越えなければならない。さもなければ、車が跳ね上がり、天井に頭をぶつけてしまう。
交通安全と犯罪防止の一石二鳥
ハンプは、世界中の道路で見られる。
それは、ハンプが危険運転防止に有効と考えられているからだ。さらに、ハンプは、犯罪防止にも有効と考えられている。
防犯対策のグローバル・スタンダードである「犯罪機会論」(※注1)は、犯罪が起きやすい場所の特徴として、「入りやすく見えにくい場所」を挙げている。したがって、犯罪を起こりにくくするには、その場所を「入りにくく見えやすい場所」にすればいい。
このうち、「入りにくい場所」にするメニューの一つがハンプだ。
ハンプを設けておけば、ひったくり犯や誘拐犯が犯行後に全速力で逃げられなくなる(逃げにくい=出にくい=入りにくい)。
私は、世界各地のハンプを調査してきたが、巨石像モアイで知られるチリ領イースター島のハンプには本当に驚かされた。ハンプは、南太平洋に浮かぶ絶海の孤島にまで普及していたのだ。
イギリスでは、「DIYストリート」という草の根プロジェクトで、住民によるハンプ設置も認められている。
コスト、リスク、リターン
一方、日本では、2001年の道路構造令の改正によりハンプの設置が認められたにもかかわらず、普及は進んでいない。
もちろん、ハンプにもデメリットはある。しかし、政策の優先順位は、「コスト+リスク」と「リターン(ベネフィット)」を比較して決めるべきものだ。少なくとも、そうした発想を持っていただきたい。
注1:犯罪機会論とは、犯罪の機会を与えないことによって、犯罪を未然に防止しようとする犯罪学の立場である。そこでは、犯罪の動機を持った人がいても、その人の目の前に、犯罪が成功しそうな状況、つまり、犯罪の機会がなければ、犯罪は実行されないと考える。このアプローチが、防犯の国際標準である。しかし、日本では普及が進んでいない。