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昔のゲーム振り返る難しさ ゲーム「キン肉マン」の記事が指摘する課題

河村鳴紘サブカル専門ライター
「信長の野望」のゲーム画面

 先日、「なぜ『キン肉マン マッスルタッグマッチ』は対戦ゲームにおける極めて重大なマイルストーンなのか?」という記事をニュースサイトの「ねとらぼ」が配信しました。対戦ゲームにおけるキャラクターの性能差の発祥は、ゲーム「キン肉マン」かもしれない?と投げかける内容でした。深いゲーム愛が読み手にも感じられる記事で、大変興味深く拝見させていただきました。

 この後、個人オーサーの鴫原盛之さんから、同時期に出たアーケード用アクションゲーム「ギャラクティックウォーリアーズ」にも、キャラクターの性能差があると指摘がありました。記事の問いかけに答えがすぐあるのがネットの良さです。とはいえゲーム「キン肉マン」が当時は人気を博してキャラクターゲームの魅力を知らしめ、マイルストーン的な役割を果たしたことは間違いありません。

 私も気になって「対戦可能でキャラクターの性能差があるゲーム」がそれより昔にあるかを調べてみました。すると「信長の野望」(シリーズ第1作、1983年発売)のことを思い出し、コーエーテクモゲームスにも問い合わせたところ、織田信長と武田信玄で同時2プレーができ、能力差(と国力差)もあったことが確認できました。ただ、同作の性質上、対戦ゲームというのは微妙ですね。ちなみに同社にさらに「能力差のある対戦ゲームですが、他社を含めるともっと昔にありました?」と聞いたところ、「簡単なシミュレーションゲームならあったかも…」と恐ろしい回答が戻ってきました。

 何せ、ファミコン以前にもゲームは存在しているので、ゲームの歴史は奥が深いのです。ねとらぼの記事で「キン肉マン」より以前に、キャラクターに性能差のある対戦ゲームがあったかを、執筆者が条件付きにしたのも仕方ないでしょう。メディア視点の厳しい見方をすれば、事実確認のツメが甘いのでは……ともいえるのですが、記事を見る限り、やれる事実確認をしつつ、それを承知で問いかけているわけです。そして「キン肉マン」の記事の見事さは、読めば分かる通りです。編集部内でも議論はあったと思いますが、公開した編集部の判断は見事だと思います。また「対戦ゲームにおけるキャラクターの性能差」を歴史からひもとく着目点があろうとは、考えもしませんでした。

 ただ、そこまでしても、現状では「対戦ゲームにおけるキャラクターの性能差のある」初のゲームを確定させられない……という問題は残ります。

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 今回指摘したいのは、こうしたゲームの歴史を振り返る分析記事で必須と言える、ゲームの基礎情報などを網羅したアーカイブデータが存在せず、取り組もうにも難度が高いという事実です。もちろん、文化庁のアーカイブ事業「メディア芸術データベース」などの取り組みはあるのですが、何せタイトル数が膨大でデータもそろわず、業界に影響を与えた同人ゲームを含めようとすればもう不可能でしょう。おまけに書籍と違ってゲームは、ゲーム機とソフトの双方が問題なく動いて初めて価値を持つ商品です。日ごろのメンテナンスをして動ける状況をキープしようとすると、お手上げ状態です。

 そして昔のゲームの事実確認のため、企業に問い合わせることができるのは幸運な方で、既に存在しない企業のソフトになると行き詰まります。要するに、古くなり修理も怪しくなる精密機械とソフト、当時熱狂的に遊んだゲーマーたちの記憶が、“頼みの綱”という不安なものなのです。中古ゲーム市場があるとはいえ、現物の入手は相応に手間で、ゲームを実際にプレーして確認するのも一苦労でしょう。さらにゲーム会社に問い合わせても、とっくに生産終了になった商品についてのピンポイントな質問に返答できるかは微妙です。他の取材でも20年前になると、記憶や資料もはっきりせず「分からない」となることも珍しくありません。

 一筋の光が見えるとすれば、各メーカーが昔のゲームの資産活用も兼ねて、実際に現行のゲーム機で遊べるようにする流れにあることです。「昔のゲーム機で遊ばないと意味はない!」という意見も一理あるのですが、壁は高いのも事実。ゲーム文化の継承という視点で見れば、まず昔のゲームを今のゲーム機で遊べるようにするだけでも、大きな進歩と思うのです。

 そして、今回の「キン肉マン」のような、斬新な視点でゲーム史を振り返る記事に出会えることも楽しみにしています。

(C)コーエーテクモゲームス All rights reserved.

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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