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こども大綱がこども・当時者を傷つける!? #こども家庭庁 #こどもの貧困 #上から目線 #選別主義

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
こども大綱案、このままでは、こども・当時者が傷つくものに・・・

こども大綱、こども・若者や子育て当事者のために「こども施策を総合的に推進するため」の基本方針です。

今後5年程度のこども政策の基本方針となるきわめて重要な大綱です。

こども家庭庁、こども家庭審議会において現在検討が進められているのですが、私も委員をつとめるこどもの貧困・ひとり親対策部会で「こども、当時者が傷つく」表現が多発していることが指摘されたのです。

すでに教育新聞の速報記事において「中間整理案のこどもの貧困関連 当時者が傷つく表現と指摘」(有料記事)という報道がされています。

1.こどもの貧困を重大問題と位置付けていない、 #上から目線

実は関係者の間で心配されていた通り、こども大綱案(今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針と重要事項等~こども大綱の策定に向けて~(中間整理)(案))では、こどもの貧困対策・ひとり親対策について、内容がかなり不足しているのです。

内閣府時代からこどもの貧困対策に10年間関わってきた私がショックを受けたのは以下のような点です(末冨意見書原案こども家庭庁こどもの貧困・ひとり親部会の委員意見も併せてご参照ください)。

・格差の方が改善を優先されるべき課題であるかのように書かれており、こどもの貧困についての記述が大きく不足していること

・内閣府からこども家庭庁に申し送られたはずの若者の貧困対策についても、記述が全くされていなかったこと

・SDGsについては他人事であるかのような記述しか行われておらず、第一目標「貧困をなくそう」について、わが国こそこどもの貧困解消に取り組まなければならない趣旨の記述はゼロであったこと。

残念ながら、こどもの貧困はSDGsの第一目標にも掲げられるほどの、重大なこどもの権利侵害であるという認識も、政府をあげて取り組むという記述も大綱案にはありません。

こどもの貧困は #人間の尊厳 をこども・若者から奪う究極の #人権侵害 なのですが。

当事者団体からも以下の指摘がありました。

・ひとり親対策についても「いつも見ている記述」に過ぎず、こども家庭庁で、ひとり親貧困の改善に取り組むという真摯な姿勢があるのだろうか。

・貧困の連鎖を断ち切るというが、問題が先送りされているだけではないか。いまこの瞬間、貧困の状況にあるこどもたちに食べ物や安心できる住環境を保障し、貧困を解消し、いまの幸せを実現する視点が必要なのではないか。

なぜ、こども大綱案が、こどもの貧困・ひとり親対策部会の委員から、多くの改善点の指摘を受けるのか。

私は、貧困のこどもたち親たちの深刻な状況を知らない、理解できない政府の上から目線が潜んでいるからだと、とらえています。

政治家も官僚も、世の中で言えば上級国民のような成育環境であった方も少なくないので、理解できなくても仕方ないとは思います。

しかし衣食住やライフラインにすら事欠く「絶対的貧困」の子ども若者が、日本には何万人といるのです。

こどもの貧困の解消なしに、こどもの権利と最善の利益を高らかにうたいあげることこそが、上から目線であり、当事者を傷つけることではないか、ということすら想像できないのであれば、「全体の奉仕者」たる議員・官僚としてふさわしくないとも言えます。

他の各部会でも、こども大綱案については、こどもの貧困対策に関する記述を拡充すべき、学びの保障に関する記述が不足している、こどもの権利擁護の仕組みについては時期や方針をもっと具体的に書くべき、文科省との連携体制に関してもっと明確に書くべき、社会的養護の子どもたちがしばしば里親家庭とのミスマッチで苦しんでいる実態をふまえた記述が行われるべきなど、改善すべき点が指摘されています。

もちろん、こども家庭庁のご尽力で、これらの個別の記述については改善されていくことを期待しています。

しかし、より大きな問題は、こども大綱案全体にひそむ、選別主義の発想だったのです。

2.こども、子育て当事者への #選別主義

こども大綱案が子ども若者や、子育てする当時者、貧困当事者を傷つけるのではないか、という指摘は、ひとり親当事者委員や子ども若者の貧困の現場で活動してきた団体、研究者からの指摘だったのです。

9月22日に開催された第2回こどもの貧困・ひとり親支援部会では以下のような指摘がありました。

議事録公開前なのであくまで私の記憶とメモの範囲であることをご了承ください。

・少子化だからこどもを大事にする、と受け取れる記述があり、悲しい。少子化かどうかにかかわらず、こどもたちを応援してほしい。

・意欲がある子、能力がある子、夢がある子なら応援する、という表現にショックを受けた。貧困によって、そもそも意欲も、能力を育む機会も、夢も奪われているのに。

このような○○の条件を満たす人は助けてあげる、□□だから助けてあげる、という発想を、選別主義といいます。

わが国のこどもの貧困対策、スクールソーシャルワークの第一人者である山野則子教授(大阪公立大学)は、こども大綱案に潜む選別主義に対し、以下のような指摘をされました。

・意欲や夢を持たないとダメという発想は選別主義、選別をしないという視点から見直すと、こども大綱案のいろいろなところに子ども若者や貧困当事者が読めば傷つく表現があると感じた。

無意識にそのような表現になっている可能性もあるので、選別主義の表現がないかもう一度全体を見直した方がいい。

3.こども家庭庁の #人材不足 が原因?

高い期待が関係者からも寄せられているこども大綱ですが、なぜ案の段階でこのようなことになってしまったのでしょう。

私自身は、こども家庭庁の人材不足が原因だと考えています。

これには2つの意味があります、人手不足という意味と、幹部の人材不足という2つの意味です。

こども家庭庁は政策に関わる職員が350人しかいません。

少ない人員にもかかわらず、周産期・乳幼児期から若者期に至るまでのこども政策全般に懸命に取り組んでくださっています。

日本版DBS、こども誰でも通園制度、非常に重要な制度の構築にも取り組んでおられます。

そうした中で、短い期間で、こども大綱をまとめあげることに、十分な時間と人員が割けない実態もあります。

#こどもまんなか を掲げる岸田政権には、こども家庭庁の定員増、審議会運営の外部委託費増など、こども家庭庁の人手不足をすぐにでも改善いただきたいです。

幹部の人材不足については、私も人事異動の中で、懸念していた課題です。

こども家庭庁は発足後まだ半年に満たない官庁であり、こども家庭庁に専属の官僚はいません。

内閣府、厚労省、文科省などの省庁からの出向者によって成り立っています。

確かに、昨年度までの設立段階では、各省のエース級の幹部が、局長級・審議官級などで手腕を発揮していました。

しかし人事異動により、そうした方々がこども家庭庁から去られた状況があります。

この状況下で、こども大綱案は「基本政策部会だけで審議します、他の部会では議論しません」と幹部が説明する状況が一時あったのです。

こどもの貧困・ひとり親支援だけでなく、社会的養護、虐待、乳幼児期の保育・教育など、錚々たる委員により構成される、専門性の高い、こども家庭審議会各部会の存在を無視するかのような方針に、基本政策部会の委員からの意見もあり、各部会でも大綱案をともに検討しようということになったのです。

こどもたちのために、オールこども家庭審議会で、良いこども大綱をつくりませんか?

私自身も、同じ提案をこども家庭庁側に、お願いしてきました。

しかし、ごくあたりまえの提案すら、すんなりとは実現しない状況が、こども家庭庁にあります。

こども大綱以上に、具体のこども政策を進めるために重要な「こどもまんなか計画」についても同様の課題が懸念されています。

もちろん渡辺長官はじめ、こどもの権利を重視する意欲ある幹部もおられるのです。

しかし、はじめて対面で会った審議会委員に挨拶もせず逃げるように立ち去る幹部、何度お目にかかってものらりくらりと名刺交換に応じてくれない幹部、私自身がこのような目に遭うと、こども家庭庁の幹部人材が、せめて社会人として当たり前の礼節をもっている方であってほしいと願わずにはいられません。

こどもの権利を尊重し、こどもまんなかの日本を実現する官僚は、目の前の一人一人の人を尊重できる官僚ではないでしょうか。

もちろん、このような官僚もこども家庭庁にはたくさんいるのですが、いっそうの幹部人材の充実をはかっていただきたいものです。

政治主導のもとで、こども家庭庁の幹部も、官邸の人事権により改善可能です。

本気の「こどもまんなか」を実現するためにも、幹部人材の質を上げていただくことにもお取組みいただけると、こども家庭庁は少数精鋭型組織としての実力をますます発揮できるようになるでしょう。

おわりに. こども・当事者の目線で、こども大綱の完成を!

こども大綱、今後5年間のこども政策を支える基本指針としてとても重要です。

この記事を読んで、本当に良いこども大綱になるのか、子ども若者や子育て当事者が幸せになるこども政策が実現されるのか、心配を共有くださったみなさんも多いと存じます。

これまで、こども置き去りであった日本が、こどもまんなかに変わることはとても大変なのです。

だからこそ、私はこども家庭庁に期待します。

こども家庭審議会は、各部会が若者委員や当事者委員、専門性の高い団体・研究者の委員で成り立つ素晴らしいチームになっています。

どうか各部会の力を発揮しながらオールこども家庭審議会で、より良いこども大綱、そしてこどもまんなか計画も推進できる、参画の仕組みをしっかりと整えてください。

そして、10月には、こども大綱に向け、子ども若者の意見表明の場や、パブリックコメントも実施予定です。

こども家庭庁は、これらの手続きで寄せられた意見も、反映されるよう最大限努力される方針です。

上から目線、選別主義などは、こども・当事者の目線で、徹底的に見直しされることを期待しています。

こども・当事者を傷つけるこども大綱が閣議決定されるような事態は、あってはなりません。

そうではなく、子ども若者、貧困当事者も子育て当事者も、勇気づけられるこども大綱が完成することを願っています。

みなさんも応援してくださるとうれしく存じます。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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