日本選手権連覇を達成したロコ・ソラーレ。さらなる天下獲りを支えるイケオジとイケメンの幸福な関係
北見市常呂町で開催された全農日本カーリング選手権大会2023で、ロコ・ソラーレは決勝でSC軽井沢クラブに勝利し、チーム史上初となる連覇を達成した。
氷上で勝利のハグを交わす藤澤五月らを横目に眺めながら、コーチボックスでは小野寺亮二コーチ、“JD”ことジェームス・ダグラス・リンドコーチ、フィフスの石崎琴美が、相手ベンチと握手でお互いの健闘を称えた後、3人でスクラムを組むような形でお互いの肩を叩き合って喜びを共有した。
ロコ・ソラーレは今季、コーチ陣に若干の変更があった。昨季までJDコーチはナショナルコーチ、つまりロコ・ソラーレだけでなく日本代表に決定したチーム、世界選手権やパシフィックアジア(現パンチコンチネンタル)選手権などの日の丸をつけて戦う試合を中心に日本代表の強化を担っていた。日本のカーリングは基本的に日本選手権の優勝チームがそのまま日本代表に選出されるため、これまでの日本選手権ではJDコーチはあくまで中立の立場であり、どこか特定のチームのコーチボックスに座ることはなかった。
それが今季途中からナショナルの肩書きが外れ、ロコ・ソラーレと専属契約を結んだことで日本選手権にコーチとして初参加。日本選手権ではフィフスを含め各チーム3名までコーチ席が与えられているため、フィフス石崎、JD、さらにチーム結成当初からロコ・ソラーレを指導している小野寺コーチが、今回のベンチの陣容だった。
興味深いのはJDコーチと小野寺コーチの役割分担だ。ミーティングなどはJDコーチがイニシアチブを持ち、アイスの状況、相手チームのデータなどを共有することになる。試合中のタイムアウトもJDコーチがアイスに降り、選手と議論をする。
「じゃあ、亮二さんは何やってるの? と、時々、聞かれるけれど、実はあんまり何もしてないんだよ」
小野寺コーチはそう笑い飛ばす。遠征中でも「洗濯を手伝うこともあるし、何もやらないでリビングで寝てしまうこともある」だそうだ。
それでもチームに欠かせない存在であることは間違いない。吉田夕梨花、鈴木夕湖、吉田知那美や、実娘の小野寺佳歩が中学校時代に組んでいた「ROBINS」のコーチ時代から保護者同然の付き合いを続けてきた。
本業はじゃがいもなどを生産する農家で、チームがカナダ遠征に出発する秋の初めは繁忙期に当たる。一足遅れてカナダへ合流するのが例年のスケジュールだが、その際にロストバゲージに遭ったり、移動経路と爆弾低気圧の経路が奇跡的に一致したりと、何かと“持っている”キャラクターがチームの清涼剤のような役割を果たしている。
「何もしてない」というのも一種の方便だ。前述のような戦術的な指揮や支援はJDコーチが担っている中で、小野寺コーチ自身の決め事は「立場や役割を明確にする」と「踏み込まない」だ。戦術的技術的なコーチングをJDコーチに一本化して自身はどちらかといえばメンターのポジショニングを保っている。
例えば、クレバーでスマートなイメージの強いJDコーチでも、シーズンに一度か二度、怒ることがあるという。吉田知は「絶対に声を荒らげたりはしないけれど、チームで助け合わなかった試合や場面があると怒られる。すごく怖いし、反省します」と教えてくれたことがある。
そんな時に小野寺コーチは安易なフォローをせずに静観することが多いと言う。
「JDが怒るのは必ず理由がある。例えば長期遠征の中盤でなんとなくダレてきたな、というところでカミナリが落ちる。ひょっとしていいタイミングを狙っているのかもしれないけれど、どっちにしてもチームに考えさせることが必要だと思っています」
小野寺コーチは、JDコーチを「憧れの存在」と公言している。「カーリングの知識や技術は当然として、データを分析して試合に活かす能力は本当にすごい。あとは何よりも、クセの強いあいつら(ロコ・ソラーレ)の心を掴んでいる」と語る。
逆にJDコーチは小野寺コーチを「リョージサン」と呼び、「尊敬できる人物」と慕っている。「何歳になっても様々なことに好奇心を持ってトライしていること。英語などの努力を止めないところ」を尊敬できるポイントを挙げ、「リョージサンがいるとチームはいつも楽しそう」とメンターに救われていることを明かしてくれた。
常呂のジローラモと呼ばれたこともあるらしい小野寺コーチと、イタリアにルーツを持つアルバータの伊達男。戦術支援とメンターというお互いの役割を理解して、信頼しているからこそ成り立つ分業がロコ・ソラーレの進撃を支えてきたのだろう。
日本選手権を制したチームは日本代表として、スウェーデン・サンドビーケンで3月18日に開幕する世界選手権に挑む。
13か国が参加し最大15試合を戦う長丁場で、アイスの曲がり方や石のクセを早めに掌握したチームがファイナルの舞台に近づく。
そのために毎晩の「ナイトプラクティス」は欠かせない。そこでのストーンのチェックを担うのが2人のコーチと、フィフスの石崎琴美だ。1年前の北京五輪でもこの3人の献身がチームのハイパフォーマンスを生んだ。
「まあ、夜は遅くなっちゃうけれど、北京(五輪)のナイト(プラクティス)はけっこう楽しかったんだよね。琴美とJDといろいろと話したのも面白かったし、選手村に戻ってからJDと1本だけ缶ビールで毎日、乾杯するのが楽しみだった」(小野寺コーチ)
日本の世界選手権最高位はロコ・ソラーレが前回、出場した2016年大会(カナダ・スウィフトカレント)の準優勝だ。北京五輪銀メダル、グランドスラム制覇と大きな結果を出したチームに期待されるのはやはり金メダルなのだろうが、常にマイペースで頼れるリョージサンとJDの名コンビが、プレッシャーを分割、軽減してくれるだろう。氷上同様にコーチボックスにも注目したい。
小野寺亮二(おのでら・りょうじ)
1960年12月13日、北海道北見市常呂町出身。吉田知那美、夕梨花、鈴木夕湖らを常呂中学生時代から指導していた縁もあり、2010年のロコ・ソラーレ結成時からコーチを務める。平昌五輪ではハーフタイムの補食であるいちごを買い出しに行っていた“もぐもぐタイム”の立役者のひとり。カーリング歴は40年を超え、今も常呂の古豪であり伝説的チーム「ブルーゲイル」のメンバーとしてリーグ戦に出場している。趣味はゴルフ、温泉巡り、ご当地ラーメン食べ歩き。
James Douglas Lind(ジェームス・ダグラス・リンド)
1985年2月19日、カナダアルバータ州カルガリー出身。選手としてジュニアのカテゴリーで活躍した後、そのチームがカナダチャンピオンになることがきっかけで指導者としてのキャリアを歩みはじめる。2013年夏に「北海道女子カーリングアカデミー」のヘッドコーチとして初来日。並行してナショナルコーチにも就くと、2014年ソチ五輪5位、2018年平昌五輪銅メダル、2022年北京五輪銀メダルと結果を残し続けている。今季からロコ・ソラーレの専任コーチとなる一方で、選手としても復帰している。趣味はゴルフ。好きな食べ物は味噌ラーメン。
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