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格下相手の試合が続くなかで森保ジャパンのチーム戦術が劣化し始めている【タジキスタン戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

鎌田を1トップでテスト起用

 2022年W杯アジア2次予選で、連勝スタートを切った森保ジャパンの3戦目の相手は、最新のFIFAランキングで115位のタジキスタン。アウェー戦とはいえ、日本にとっては明らかな格下であり、3-0で日本が勝利を収めた。勝ち点を9に積み上げた日本は、グループFの首位をキープした。

 この試合で注目されたのは、森保一監督がセレクトするスタメンだった。モンゴル戦のスタメンから大幅に変更されるか否かに注目が集まったなか、蓋を開けてみると変更は4枚。これまで通り、公式戦は常にベストメンバーによってベストを尽くすという森保監督のポリシーに沿った編成となった。

 システムはいつもの4-2-3-1。負傷によりチームを離脱したCB冨安健洋に代わって植田直通を起用したほか、ボランチ1枚を遠藤航から橋本拳人に、右ウイングを伊東純也から堂安律に、1トップを永井謙佑から鎌田大地に変更した。

 橋本と堂安は、先月行なわれたW杯予選のミャンマー戦のスタメンを飾っているレギュラー組のため、植田が冨安の代役であることを踏まえれば、この試合でテスト的に起用されたのは鎌田だけということになる。これまでどおり、公式戦は常にベストメンバーで臨む森保監督のポリシーに沿った編成となった。

 今回招集されたFWは、永井、鎌田、浅野拓磨の3人。所属のフランクフルトではトップ下でプレーしている鎌田は、3人のなかでもっとも”非1トップ的”なタイプの選手だ。それを知りながら、敢えて1トップでスタメンに抜てきした森保監督の狙いはどこにあるのか?

 大迫不在時の攻撃オプションを模索する現在、そこはこの試合における注目ポイントのひとつとなった。

序盤に目立った中島のボールロスト

 試合は、予想外の展開で幕を開けた。

 序盤から攻勢を仕掛けたのは、ホームのタジキスタン。4-1-4-1のシステムで、日本に対して中盤から激しくプレッシャーをかけたことで、日本はリズムをつかむきっかけを失った。そればかりか、精度の低いキックやトラップミスが目立ち、試合を落ち着かせることができないまま時計の針が進んだ。

 そのなかで目立っていたのが、左ウイングの中島翔哉のボールロストだった。

 立ち上がりからボールをキープできない日本は、中盤に下がってくる中島に一旦ボールを預けて相手のプレッシャーを回避しようと試みたわけだが、苦し紛れのパスを受けた中島の次のパスコースは塞がれていた。

 そのため、中島は得意のドリブルで相手をはがして局面打開を試みるも、狙われていたかのように2、3人に囲まれてボールロストを繰り返した。

 立ち上がり10分間で、中島がボールを失った回数は6回。これまでの試合で、これほど集中的に中島がボールを失ったケースは見当たらない。これがタジキスタンの狙いだったとすれば、日本はまんまとその罠にはまったことになる。試合序盤の日本が、主導権を握れなかった要因のひとつと言える。

 しかし、その現象は長くは続かなかった。日本が解決策を意外と早く見つけたからだ。

 前半9分、セットプレーの準備の間に森保監督が長友佑都を呼んで会話をかわすと、伝令を受けた長友が柴崎岳の下へ駆け寄って何かを伝えたシーンがあった。もちろんその伝令がどのような内容だったのかは分からないが、少なくともその後の日本の戦い方に変化が見られたことは確かだった。

 そのひとつが、ダブルボランチの配置だ。

 キックオフ直後は左に柴崎、右に橋本という並びだったが、その後は左右が入れ替わり、左に橋本、右に柴崎へと変化した。これまでの試合でも、流動的にダブルボランチが左右で入れ替わることはよくあったが、その後、日本の攻撃が中島とは反対の右サイドに集中したことからすると、森保監督は、中島が狙われていたためにボールロストを繰り返していたことを長友に伝えた可能性は高い。

 それが奏功したのか、日本が右サイドから攻撃を続けたことで、タジキスタンの最終ライン4人と中盤5人は左サイドに寄らざるをえなくなり、その段階で中島のボールロスト問題はほぼ解決している。

極端に右サイドに偏った攻撃

 しかし、それによってその後の日本の攻撃が極端に右サイドに偏ってしまった点が問題だった。タジキスタンにしてみれば、左右にスライドを繰り返すより、当然ワンサイドだけに集中して守る方が対応しやすいからだ。

 たとえば、この試合で日本が入れたクロスボールは、前半7本、後半8本の計15本。前半の左右の内訳は、右が5本で左が2本だった。

 しかも左からのクロス2本は、前半終了間際の45分に中島が入れた1本(ゴール前で南野拓実がフリーでヘディングシュート)と、前半のアディショナルタイム2分に鎌田が入れた1本(相手DFがブロックしてコーナーキック)のみ。後半も右6本、左2本と、左右のバランスが改善されることはなかった。とくに左SB長友が1本もクロスを入れられなかったことが象徴的だった。

 この試合の5日前に埼玉スタジアムで行なわれたモンゴル戦では、前後半合わせてクロスが計45本と過去最高を記録していたことを考えると、そもそもこの試合の日本はクロスボール攻撃が少なすぎたともいえる。

 相手の力量と守り方が異なるため単純には比較できないが、それでもサイドから攻撃することが最も効率のよいゴールへの近道であることはモンゴル戦を見れば明らかで、それはサッカーの定石でもある。

 森保ジャパンの攻撃の基本コンセプトは、左右の幅をしっかりとったうえで、中央への縦パスとサイドからのクロスボールをバランスよく織り交ぜることだったはず。

 しかし自らの形を見失っていたために、この試合の日本はクロスが減少。左右のバランスも崩れていた。格下相手に日本が主導権を握れなかった原因でもある。

 では、なぜ中島のボールロストが解消されたにもかかわらず、左右の攻撃バランスが改善されなかったのか? そこで浮上してくるのが、全体の選手の並び、つまり4-2-3-1の布陣が乱れていたことである。

2バック状態で戦う弊害

 森保ジャパンの4-2-3-1は、守備時は4-4-2、攻撃時は3-4-2-1的になるのが本来の姿。マイボール時にビルドアップを開始する際、ボランチ1枚がCBの間に落ちて3バックを形成するか、もしくは右の酒井が高いポジションをとって長友が右にスライドし、3バックを形成するパターンだ。とりわけ2列目に中島、南野、堂安が並んだときは、両ウイングが内に入って中間ポジションをとるため、その傾向が顕著になる。

 ところが、最近は3-4-2-1に可変する形はほとんど見られなくなっている。とくにここ数試合は格下相手の対戦が多いため、2バックのままでゲームを支配できてしまっていることが、オフェンスシステムの機能に悪影響を及ぼしていると考えられる。

 3バックを形成せずに、両SBが高い位置をとってボールを保持し、左右からクロスの雨を降らせたモンゴル戦がその典型だ。

 しかしこの試合のタジキスタンのように、相手にアグレッシブにプレッシャーをかけられると、問題が一気に露呈する。4-2-3-1にも3-4-2-1にも見えない、左右非対称な布陣で戦ったことが、最終ラインからのビルドアップに悪影響を与えた。

 CBからビルドアップを開始するとき、相手のプレスを回避するための「ボールの出口」をいち早く確保することが、試合を落ち着かせるための条件になる。

 ところがこの試合の日本は「ボールの出口」を見つけられず、相手のプレッシャーを回避するためのロングボールを蹴って簡単に相手にボールを渡したり、無理なパスを入れて引っかけてしまったりするシーンが続いた。

 たとえば、ボランチ1枚がCBの間に落ちる方法も「ボールの出口」を見つけるひとつになるはず。実際、試合終盤に近づくにつれ、柴崎か橋本が両CBの間に落ちてビルドアップを開始するシーンが増えると、攻撃における左右のバランスも改善された。

 左右のバランスがよくなれば、自ずと縦パスから始まる中央攻撃も効果を示す。

 81分、柴崎の縦パスを受けた堂安が南野とダイレクトでパス交換を行ない、最後にボックス内でフリーになった浅野が決定的シーンを迎えたのが、その典型だ。酒井のアーリークロスを浅野がヘッドで沈めたのは、その効果的な中央攻撃の直後のことだった。

 サイド攻撃と中央攻撃をバランスよく織り交ぜた、森保ジャパンらしい攻撃を見せたシーンだ。

劣化傾向にあるチーム戦術

 ただ、もし後半の早い時間帯で南野の連続ゴールが生まれていなかったら、タジキスタンの勢いが止まることなく、日本にとっては最後まで苦戦が続いた可能性は否定できない。相手がタジキスタンではなく、アジア最終予選もしくはW杯本大会に出場するレベルのチームが相手なら、「ボールの出口」を見つけられないことが致命傷となる可能性は高い。アジアカップ決勝のカタール戦が、そうだった。

 そもそも、格下相手の戦いが続くアジア2次予選で、森保監督がベストメンバーを編成して戦い続けることの意味は、「積み上げ」によるチーム強化であるはず。そこにチーム戦術のブラッシュアップや新しいオプションの発見がなければ、ベストメンバーで戦い続けることの意味も薄れてしまう。

 しかし、チーム戦術はブラッシュアップされるどころか、劣化し始めていることがこのタジキスタンで露呈した。

 1トップでテストした鎌田も、主導権が握れずに終わった前半はゲームから消えてしまい、後半からトップ下でプレーすることで息を吹き返している。つまり、大迫不在時の攻撃オプションについても、この試合で発見することができずに終わったわけだ。

 結局、10月の2連戦でも勝ち点6を積み上げたこと以外に収穫を得られなかった森保ジャパン。チームとしての積み上げがないのであれば、少なくとも吉田麻也、酒井、長友といった計算のできる戦力を、敢えてアジア2次予選で使い続ける意味はないだろう。わざわざ多くの選手にヨーロッパからの長距離移動を強いて得た収穫としては、アジア2次予選で勝ち点6を得ただけでは乏しすぎる。

 11月のインターナショナルマッチウィークで、指揮官はどの選手を招集するのか。今回以上に、次回の日本代表メンバー発表には注目が集まりそうだ。

(集英社 Web Sportiva 10月20日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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