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東海道新幹線「運休」で考える「迂回ルート」の現実性 新幹線に代わりはあるのか?

小林拓矢フリーライター
日本の大動脈・東海道新幹線(写真:イメージマート)

 7月22日、東海道新幹線で保守用車同士が衝突し、その撤去に時間がかかり、終日運休となった。浜松~名古屋間で運休となった影響で、「こだま」を中心とした停車駅が多いタイプの列車が折り返し運転となり、東京・名古屋・大阪間を直結する「のぞみ」は運行されなかった。

 こういった場合、その日の移動はあきらめて翌日にするのがもっともいいのだが、そうはいかない場合もあり、当日中に移動しようとする人が多い。

 そこで、ほかのルートを利用して移動する、ということになる。

 どんなルートが、利用されたのだろうか?

北陸新幹線経由以外にも……

 今回の終日運休が発生した段階で、羽田~伊丹間の航空路線に、臨時便が出た。この臨時便に乗った人も多い。ただ、稼働していない飛行機がそう多くあるわけでもないので、臨時便の本数自体は少なかった。

 鉄道で行けるルートはほかにないものか、ということで注目されたのが、北陸新幹線経由である。臨時の「はくたか」が運行されたほか、定期列車にも多くの人が押し寄せた。「かがやき」「はくたか」と(場合によっては「つるぎ」を介して)「サンダーバード」に乗り継ぐというルートを利用した人も多かった。

北陸新幹線も迂回ルートの役割を果たした
北陸新幹線も迂回ルートの役割を果たした写真:松尾/アフロ

 また、「あさま」とJR東海の在来線特急「しなの」を使用する人や、名阪間では近鉄特急を利用する人も見られた。名阪甲特急「ひのとり」には多くの人が乗車し、名阪乙特急「アーバンライナー」の臨時も出たという。

 高速バスなどを使用する人も見られた。

 日本テレビは「迂回ルート」を紹介し、大きな反響を呼んだ。

気合と根性で在来線に

 いっぽう、東京~浜松間と、名古屋~新大阪間は、新幹線は少ないながらも運行した。それゆえに、この両区間は新幹線で移動し、動いている在来線で浜松~名古屋間を移動しようとした人もいる。

 豊橋~名古屋間は長編成の普通・快速列車の本数が多いものの、浜松~豊橋間は短編成の列車もあり、駅では積み残しなどが発生した。それにより、浜松~豊橋間では臨時の普通列車を運行した。

代替輸送にはJR東海の普通列車も活躍した
代替輸送にはJR東海の普通列車も活躍した写真:イメージマート

 JR東海は、当日の移動をやめるように鉄道利用者に呼びかけていた。それ自体は正しい。だが、その日に移動しなければならない人のために、細かな対応を求められた。利用者が編成の短い列車に殺到したため、臨時列車を運行しなければならなくなった。

 当然ながら車内は人でぎっしりだ。乗客は気合と根性で乗るしかない。つらいものがある。

 さまざまな迂回ルートを利用する人は多かったものの、どのルートにももともとそれなりに利用する人がおり、そこに東名阪エリアのメインの交通手段である東海道新幹線の利用者が押し寄せたのだから、大混乱になってしまった。

 鉄道・航空・バスの各事業者は、膨大な利用者を誇る東海道新幹線ユーザーを引き受けなければならないために、大きな負担がかかっている。

 東海道新幹線に代わりはないのか?

日本最大の輸送力を誇る東海道新幹線

 東海道新幹線は、全列車16両編成で、定員が1,323名と固定されており、日本の列車では最大級の輸送力を誇る車両を使用している。平日昼間では、「のぞみ」が最大1時間に12本、「ひかり」が1時間に2本、「こだま」が1時間に2本、合計16本走行が可能だ。東名阪間の移動需要は大きく、「のぞみ」に乗る人が圧倒的に多い。日によるが、1時間に「のぞみ」だけで1万人は運べる。「のぞみ」フル稼働だと1時間に15,876人を輸送できる。

 正直なところ、都市部の通勤電車並みの高頻度で、通勤電車並みの人数を運び続けているのが、東海道新幹線である。

 この輸送力の代替手段として、「北陸経由」や「中央本線経由」、あるいは「羽田~伊丹便」では、カバーできないものがある。東名阪の移動では、ほとんどの人が東海道新幹線に乗り、いつ乗っても混雑している状況が続いているからだ。

飛行機の輸送力は意外と小さい
飛行機の輸送力は意外と小さい写真:アフロ

「リニア中央新幹線があれば……」ということを言う人もいるが、できるのは10年以上先のことである。最近では年に1回から2回は東海道新幹線が止まることがあり、そのたびに大きな混乱が起こる。

 いまのところ、東海道新幹線に何かあったときの代わりはない。年末年始やお盆休みに何かあった場合の混乱は、近年よく見られる。

 今回は保守車両の事故のため、ほかの路線が動いていたことは幸いだった。しかし地震や風水害などの場合、ほかの路線も動かないことがある。

 東海道新幹線が動かない場合、ほかのどの路線でも補完しようがないことが今回の「迂回ルート」の議論でわかった。いっぽうほかの交通機関も、車両も人員もギリギリのところで回しており、臨時で増発や増結ということができるとは限らないのである。

 たとえリニア中央新幹線ができたとしても、東名阪間の移動に余裕ができるということはない。北陸新幹線が新大阪まで直結してもだ。その分、新たな移動需要が増える。

 鉄道に何かあった際に対応できるようにするだけの余裕は、いまは作れるのか? 少なくとも、東海道新幹線には代わりはない。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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