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<ガンバ大阪・定期便VOL.11>ガンバ大阪は、前に進む。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
限定ユニフォームで臨み、不敗記録を10に伸ばした。 写真提供/ガンバ大阪

「少なからずというか、小さくない衝撃が選手の中にもあった」

 コンサドーレ札幌戦の勝利後、宮本恒靖監督が振り返ったように今週はチーム、スタッフ、選手にとって、あるいはクラブにとって、重い時間が続いた。

「自分にとってはすごく大事な存在で、仲間であり友人でもある彼がいつものようにロッカーにいないということが急に起きてしまい、自分の中でも普段とは違う感覚でトレーニングに臨んだ1週間だった(FWパトリック)」

 前節・柏レイソル戦での劇的な逆転勝利から二日後、その立役者になったFWアデミウソンの道路交通法違反による任意捜査と謹慎処分ー。9戦負けなしと好調をきたすチームに起きた不祥事は、クラブ全体をも揺るがす衝撃だったと言っていい。それを受けて、札幌戦のウォーミングアップ前には、小野忠史代表取締役社長が挨拶に立ち今回の件を謝罪。スタンドに向かって深々と頭を下げるなど、どこかいつもの試合前とは違う空気が流れていた。それはおそらくチームも同じで、この1週間、選手の心のざわつきを察していたからこそ、試合前には宮本監督も改めて彼らに投げかけた。

「この事実を真摯に受け止めつつも、歩みを止めてはいけない。今回の件にまつわるいろんな衝撃、ショックによって生まれた傷を癒せるのは自分たちでしかない」

 札幌戦は、その思いを感じた90分だった。

 内容としては終始、理想とするサッカーができたわけではない。特に、前半は先制され、追いつくことはできたものの札幌に振り回され、耐える時間も長く続いた。後半は一転、前線からのプレスが効き始めて押し込む時間が増え、62分に山本悠樹によるフリーキックをヘディングで合わせて追加点を奪ったが、その後何度か生まれた決定機を決め切れずにいると、終盤は再び札幌の攻撃にさらされる展開に。それでも最後までGK東口順昭を中心に集中を切らさずに体を張り続け、耐え凌いだ。アディショナルタイムには右サイドからのクロスボールに反応したGK東口選手が相手選手と交錯。その膝が口元を直撃してヒヤリとさせられるシーンもあったが、最後までピッチから消えなかった執念は『勝利』として結実する。この戦いを迎えるまでの背景を思えばこそ、ガンバにとっては特別な白星だった。

「試合前には監督も『自分たちがやるべきことを見せなアカン』という話をしていた。入りは悪かったですが、サッカーは90分で結果が出るものなので、そういった苦しい時間を耐え、戦う姿勢を90分間見せ続けた結果、勝利を掴めた。今日の試合で終わることなく、僕たち選手と現場スタッフはこういう姿勢を見せ続けなければいけない。でなければ、応援してくれるサポーターの皆さんに申し訳ない。こういった状況を一丸になって乗り切ってこそ、いいチームになっていけると思っている(GK東口順昭)」

 試合後、チーム最年長の守護神が口にした言葉に、この10月にも似たような空気が漂っていたことを思い出す。長年、ガンバの絶対的支柱として存在感を示してきた遠藤保仁がジュビロ磐田に期限付き移籍をした時だ。もっとも、あの時と今回の件は全くもって中身が違う。ただ、いずれにおいてもガンバの歴史では前例がないほど特別な空気が漂っていたのは事実で、そこをクラブ、チームとしてどう乗り越えていくのかは、歴史を前に進めていく上でとても大きな意味を持っていたはずだ。

 かくして、ガンバは遠藤の期限付き移籍の発表があった直後のサガン鳥栖戦を2-1で勝利し、今回の札幌戦では逆転勝ちを飾って、17節から続く不敗記録を止めることはなかった。その事実に、東口が話した「こういった状況を一丸になって乗り切ってこそいいチームになっていける」という言葉の意味を、選手の胸にある覚悟を実感する。

 そして、忘れてはいけないのが、サポーターの存在だ。

 この日のホーム・パナソニックスタジアム吹田には、リモートマッチになってからは最多となる16183人が集い、大きな拍手でピッチの選手を励まし続けた。先に書いた小野社長の挨拶の後に届けられた拍手も特別なものだったと感じている。彼らもまた今回の一件に残念な気持ちを抱いたことは想像に難くないが、それと同時に選手と同じ覚悟を胸に宿していたのだろう。

「前に進んでいかなければいけない」

 その心強き仲間とともに、ガンバ大阪は3日、アウェイでの『大阪ダービー』に向かう。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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