NPB相手に圧巻の投球を続ける大卒2年目の苦労人・芦田丈飛 たくさんの恩人の支援受け夢舞台を目指す
4月20日に行われたルートインBC リーグ所属の埼玉武蔵ヒートベアーズとソフトバンク4軍の交流戦、芦田丈飛(あしだ・たけと)が最終回のマウンドに上がると、集まったNPB5球団のスカウトたちが一斉にスピードガンを構え、目の色を変えた。昨年までは無名に近い存在だったが、身長185センチ体重88キロの体格から最速150キロを超えるストレートとキレのある変化球で、ここのところ相手をねじ伏せる投球を度々見せているからだ。
故障に苦しんだ大学時代
最初に注目を集めたのは、4月1日の横浜DeNAベイスターズ2軍とのオープン戦。最速151キロのストレートなどで三者凡退に抑えた。好調は続き 4月9日のルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブス戦でも2三振を奪うなど三者凡退に抑えた。
そして迎えたこの日のソフトバンク4軍戦でも、芦田は1死から安打を許したものの、次打者を鋭いスライダーで併殺打に抑えて、この日も3人で抑えて試合を締めた。わずか6球で締めたことで「これでは評価がまだできないね」とあるスカウトは苦笑いだが、言い換えれば「今後も見ていく」との意思表示だ。
試合後、芦田に話を聞くとなかなかの苦労人だった。今年が大卒2年目、来年2月で24歳になる。
千葉県出身で、千葉英和高校では「今も一番意識する投手で食事に行く仲。2人で夢を叶えたい」と語る山﨑凪(JR東日本)と鎬を削った。2年秋に芦田の故障により、それまで控えの内野手だった山﨑が投手に転向し秋季千葉大会の8強入りに貢献。夏には芦田が盛り返しエースの座を奪い返した。
高校卒業後は近年だけでも岩崎優(阪神)や髙部瑛斗、池田来翔(ともにロッテ)らを輩出している国士舘大へ進学。1年時から登板機会を得たが、故障に苦しんだ。2年の夏に疲労骨折により右肘を手術。公式戦のマウンドに戻ってこられたのは4年になってから。プロや強豪チームからは声がかからず、社会人野球のオールフロンティアに入社。ここで再びプロ野球を目指すことにし、大卒2年目の今年からは独立リーグに挑戦の場を移した。
恩返しの思いを胸に
苦労が多かった分、恩人も多くおり、今回の取材では感謝の言葉が多く並んだ。
国士舘大では、素質を買ってくれた辻俊哉監督(当時/元ロッテ、オリックス捕手)が育成選手としてのプロ入りを模索してくれた。2年の手術後、痛みでなかなか投げられない時期には引退もよぎったが、岩﨑哲也コーチ(当時/元西武投手)が「もったいないよ」と引き留めてくれた。
オールフロンティアでは初芝清監督(元ロッテ内野手)が独立リーグ挑戦の背中を押してくれ、現在プレーする埼玉武蔵では西崎幸広監督(元日本ハム、西武投手から「思いきって行け」と試合終盤を任される。体重移動などフォームで気になったことがあれば由規(元ヤクルト、楽天投手)、辻空(元広島投手)の2人の選手兼任コーチが都度助言をくれる。
そしてチーム練習時以外やオフは、パーソナルで酒井竜矢トレーナー(株式会社DIMENSIONING)に指導を仰ぐ。酒井トレーナーは「やるべきことを妥協なく1つ1つきっちりとやり込める選手。手の状態など繊細な部分まで意識を持っていけるので、まだまだ球速や変化球の精度を更に上げられると思います」と姿勢面を含めて、さらなる伸びしろに太鼓判を押している。
芦田は今後の目標を問われると迷うことなく「NPBに入ることです」と答え「1日1日を最低ラインとして、日々上がっていきたいです」と、ここで満足する気は毛頭ない。感謝の気持ちを胸に、幼い頃から憧れてきた夢舞台へ。未来を切り拓くため腕を振り続ける。