はやぶさ2観測チーム、小惑星リュウグウに現れた「ネコ」に立ち向かう
2021年4月27日、JAXA「はやぶさ2」プロジェクトチームは、現在のはやぶさ2の状況と科学的成果に関するオンライン記者会見を開催した。後継ミッションの旅の途上にあるはやぶさ2は、宇宙の放射線環境のため探査機にいくつかの不具合が現れているものの、省力化を進めながら運用を続けているという。また小惑星リュウグウを観測したデータから、新たな科学論文の成果が発表となる。論文はリュウグウ表面の含水鉱物の分布を示すものだが、画像に不思議な「ネコ」模様が現れ、研究チームを驚かせたという。
はやぶさ2に搭載された光学航法カメラONC-T(望遠)。ONC開発副責任者で立教大学の亀田真吾教授らは、2021年5月に出版予定の宇宙科学誌「ICARUS」にONC-Tの観測データから得られた含水鉱物の分布に関する論文を掲載する。ONC-Tのデータを画像化したところ、含水鉱物を示す青くカラー化された領域がリュウグウ表面に不可解な巨大な模様を描いた。模様はまるでネコのイラストのようで、含水鉱物が帯状にムラになって存在することになってしまう。これまでのリュウグウ観測の成果と一致しなくなるため、ネコ模様の原因を突き止める必要があった。
亀田教授らがリュウグウの別の場所を観測したデータを同じように画像化したところ、同様のネコ模様が現れた。このことから「装置の特性としてこのような模様が見えてしまっている」と推定。地上で保管されていたONC-T搭載のCCDの同等品を用いて感度の試験を行った。
はやぶさ2の打ち上げ前に行ったONC-Tの試験で、動作時の温度変化によってCCDの感度が異なるということがわかっていた。しかし時間の制約から、限られた試験のデータしかなかったという。実際には、打ち上げ前の試験環境では24~28度の室温で較正試験を行っていた。実際に小惑星リュウグウ滞在時には、CCDは-30度と地上よりもはるかに低温の環境にあった。低温時には、感度の分布が異なることが確認された。
ネコ模様はCCDの感度ムラが原因であることが確かめられたことから、リュウグウで観測した288枚のデータを補正を行った。補正に成功するとネコ模様は消え、含水鉱物の存在を示す0.7マイクロメートルの波長を吸収する物質がリュウグウ全体に一様に分布しているが、赤道付近の南北5度までの領域では平均よりもやや0.7マイクロメートル帯の吸収が強いということが見えてきたという。
こうして得られた結果は、2020年5月に東京大学の諸田智克准教授らが発表したリュウグウの歴史に関する論文と一致する。小惑星リュウグウは30万年~800万年前のある期間に現在よりも太陽に近づく軌道にあり、太陽光に焼かれて表面の物質は赤く変化していた。一方で、赤道付近の物質は太陽に接近した時期よりも後に表面に出てきたもので、「青い領域は新鮮で、高温にさらされていない含水鉱物の吸収が見られる」と亀田教授は説明した。
小惑星リュウグウのようなC型小惑星は、表面の物質分布の状況が火星に似ているという。今回、光学航法カメラの性能を突き詰めて得られた成果は、小惑星の歴史を解明するだけではない。2024年に打ち上げを予定している「火星衛星探査機MMX」搭載カメラの開発、観測計画にも活かされるものになった。