ある日、夫が消えた〜5年ぶりに我が家へ。家族と涙の抱擁
中国当局に身柄を拘束され、その後3年以上、事実上行方不明となっていた人権派の弁護士が、昨日、北京の自宅に戻り、家族との再会を果たした。およそ5年ぶりの帰宅である。
長く静かな家族との抱擁
昨日27日の夜、北京にある自宅に戻り、家族との再会を果たしたのは人権派弁護士の王全璋さん(44歳)。
王さんは、妻の李文足さん(35歳)と息子の泉泉君(7歳)をしっかりと抱きしめた。この日を5年近く待ち続けた妻は、夫に何度も頬をすり寄せた。そして、ただ静かに涙を流した。
王さんは、中国政府が邪教とみなす法輪功の信者や、地元政府などとも対立する庶民の弁護をもいとわなかった。「人権派」と呼ばれる弁護士だった。
人権派の弁護士が行方不明に
2015年7月、突然、王さんの連絡が途絶えた。この頃、中国当局が人権派の弁護士や活動家らを一斉に摘発に乗り出したのだ。王さんもその際に身柄を拘束されていた。
しかし、何故か王さんについてはほとんど情報が漏れてこなかった。勾留されているはずの刑務所を訪ねても、家族どころか、家族が依頼した弁護士さえ面会できなかった。安否さえ分からない状態が3年以上続いた。
圧力は家族にまで
2019年1月、王さんは、国家政権転覆罪で懲役4年6か月、政治的権利剥奪5年の判決を受ける。
この間、妻の文足さんは、当局による不当な弾圧だと訴え続けた。そのため、文足さん自身も監視され、時には行動を制限された。息子が幼稚園や学校に受け入れてもらえないなどの圧力も受けた。
コロナを理由に隔離?その時、妻は...
そうした月日を経て、今月5日、王さんは刑期を終えた。しかし、出所後も新型コロナウイルス対策を理由に、14日間の隔離を命じられた。
隔離先は、王さんの戸籍がある山東省済南市。家族の待つ北京ではなかった。
「彼は強制的に済南に送り込まれ、引き続き違法に自由が制限される。彼らの行為に怒りを覚えるし、悔しい。彼が戻ってくる日を毎日数えていたのに」
ビデオ通話でそう話した妻の文足さんは、沈んだ表情だった。さらに口にした心配が、後に現実となった。
「感染症の隔離を口実にして、彼らが長期的な監禁を続けるかもしれないので、とても心配しています」
王さんは、隔離期限を迎えても済南市で監視下に置かれたままだった。北京に戻れなかったのだ。
「家族に会いたい」
軟禁中の王さんは、こう訴えた。
「今一番、家族に会いたい。北京の家に帰りたい。(自分に対する)政治的権利の剥奪をコントロールできなくなる恐れがあるから、北京に行かせない。しかし法律的には何の根拠もない」
今回、妻の文足さんが体調を崩したため、王さんは北京に戻ることが許されたという。
王さんや文足さんの境遇については、国際社会も強く懸念を示してきた。今回、帰宅が許されたのは、新型コロナウイルスの拡大の責任などをめぐって国際的な孤立を避けたい中国当局の思惑が働いたかもしれない。
しかし、中国では今も言論を理由に弁護士や市民が罰せられたり、当局に睨まれた人が、法的な根拠もあいまいなまま長期間身柄を拘束されたりしている。状況は改善されていない。
不安の中で過ごした5年近い歳月を経て、長い抱擁で互いの無事を確かめ合わざるを得なかったのは、庶民の権利を守るために戦った弁護士とその妻子である。