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窮地に立つ中国恒大集団 元会長の許家印氏が上り詰めた「極貧から中国一の富豪」という激動の半生

中島恵ジャーナリスト
破綻の危機にある中国恒大集団(写真:ロイター/アフロ)

中国の不動産大手、中国恒大(こうだい)集団の債務問題が、中国のみならず日本や欧米など世界中で注目を集めている。

今夏、「共同富裕」(ともに豊かになる)を打ち出した習近平政権が同グループを救済するのかどうかが注視されているが、救済するにせよ、救済しないにせよ、世界に与える影響は甚大だ。

そんな中、同グループの創業者であり、元会長である許家印氏の動向も注目を集めている。許氏は9月21日、従業員たちに向けて「懸命な努力に深く感謝する。一刻も早く暗闇から抜け出そう」というメッセージを送り、事業継続に意欲を見せている。

許家印氏とは一体どのような人物なのか。あまりメディアに出ないという許氏について、中国のサイト「捜狗百科」や「MBA智庫百科」ほか、中国のSNSなどに掲載されている彼の略歴を参考に紹介しよう。

農村で生まれ、幼少期は父や祖母と暮らす

許家印氏は1958年10月9日、内陸部にある河南省周口市にある小さな農村で生まれた。わずか1歳のときに母親を敗血症で亡くし、元傷病兵である父親と祖母の元で育てられた。幼い頃から祖母の内職をよく手伝って、家計を助けていたという。

1975年に地元の高校を卒業後、地元で2年間ほど働いていたが、ちょうど中国の「文化大革命」(1966~1977年)のあいだ停止していた大学入試が再開されることになったため、一念発起して大学を受験。1年目は不合格だったが、2年目に湖北省にある武漢鋼鉄学院(現在の武漢科技大学)に3番目という優秀な成績で合格。大学では金属材料や熱処理などを専攻した。

大学時代は貧しくて食べるものもなかったという許氏。「いつも堅いパンを食べていた。服は1着しかなく、その服を寝る前に洗って、裸で寝て、翌日はまたその服を着て授業に出ていた」と自伝などで明かしている。

その当時、中国の大学生はみな貧しかったので、「服が2~3着しかなかった」という人も珍しくなく、許氏の話は特別に貧しい人の話ではないが、それでも辛かっただろうと推測する。

1982年、大学卒業後は、地元である河南省にある舞陽鋼鉄公司という企業に就職した。当時、中国では自分の意思で就職先を決めることはできなかったので、他の人々と同様、否応なく、政府に決められた企業に就職した。許氏はそこで約10年間働いたが、1992年に退職して広東省深圳に行くことを決意した。

ちょうど、1992年には鄧小平氏の「南巡講話」が行われ、深圳は改革開放の気運にみなぎっており、そこで一旗揚げようと考えたからだ。

深圳で一旗揚げようと不動産事業へ

これが許氏の運命を大きく変えた転換点だったといっていいだろう。許氏はそこで、自らの意思で貿易会社に就職。1994年ごろには「これからは不動産が注目されるはずだ」と考え、社長に直談判。不動産関係の事業部を立ち上げ、短期間に実績を残した。

奇しくも、中国は1980年代後半から住宅制度改革が始まっていた。90年代に入ると分譲住宅の販売が解禁されるようになっていて、これから伸びるビジネスだと踏んだからだが、その「先見の明」が見事に的中したのだ。

そして、1996年、38歳のときに不動産会社、恒大を設立した。2008年の北京オリンピックが決まり、90年代後半から不動産市場は活況を呈し、その勢いに乗って、同社は躍進した。

2009年には香港証券取引所に「中国恒大」として上場を果たした。その後も中国の不動産ブームは続き、2017年には中国の富豪番付で総資産2900億元(約5兆円)と首位に立ち、一躍「中国一の富豪」にまで上り詰めた。

中国恒大集団の許家印・元会長(中国メディア「鄂州」より筆者引用)
中国恒大集団の許家印・元会長(中国メディア「鄂州」より筆者引用)

2018年には中国共産党から「傑出した民営企業家100人」にも選ばれた。母校である武漢科技大学の教授をつとめたり、不動産関係の団体で要職にも就いたりするなど、この20年ほどの間ずっと華々しい活躍を見せた。

2021年に米ビジネス誌「フォーチュン」が選出した「中国企業500強」ランキングの「不動産企業」部門ランキングでは、「碧桂園」「緑地」「万科」などの不動産大手を抑えて第1位に輝いた。

不動産バブル崩壊は起きるのか?

だが、今年9月に入り、当局の引き締め政策やコロナ禍の景気低迷などの影響を受けて、巨額の債務を抱えていることがわかり、窮地に立たされていることが判明した。

9月22日、同グループは社債の利払いを実行すると発表。ひとまず目前の危機を脱出しようとしているが、経営破綻という悪夢がまだ消えたわけではない。

中国は10月1日から国慶節の大型連休を控えているが、今後、経営状況の悪い他の不動産大手なども含め、最悪の場合、経営破綻の連鎖などが起きて、不動産バブルの崩壊にもつながる可能性もある。それだけに、世界中がかたずを飲んで、同問題の推移を見守っている。

許氏は来たる10月9日に63歳の誕生日を迎える。波乱万丈でジェットコースターのような波乱の半生を生きてきた許氏だが、果たして、その日を平穏に迎えられるのだろうか。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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