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ダカールラリー王者と走って分かった 「足長バイク」乗りこなし術とは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
▲ダカールラリー王者、トビー・プライスとともに 画像出典:Webikeニュース

ダカール王者のトビー・プライスがゲスト参加

今月初めに「KTM 390アドベンチャー」の国際試乗会に参加してきたことはお伝えしたが、実はその場にスペシャルゲストが来ていたのだ。なんと昨年のダカールラリー2019王者、トビー・プライスのサプライズ参加があり一緒に走る機会を得たのだった。

▲トビー・プライス 画像出典:Red Bull
▲トビー・プライス 画像出典:Red Bull

試乗会の舞台、スペイン領カナリア諸島は火山活動で作られた島。いたるところ巨大な岩だらけの地形で、そこにアスファルトを流しただけのようなワインディングがどこまでも続く様は絶景を通り越して怖いほどの迫力だった。

▲カナリア諸島で開催されたKTM 390アドベンチャー国際試乗会 画像出典:Webikeニュース
▲カナリア諸島で開催されたKTM 390アドベンチャー国際試乗会 画像出典:Webikeニュース

でも本当にラッキーなことに、我々のグループにサポート役としてトビーが付いてくれたのだ。しかもRed Bullの報道写真で何度も見たKTMファクトリーのあのユニフォームで目の前を走っている。とても現実とは思えない不思議な感覚だった。

▲トビー・プライス 画像出典:Red Bull
▲トビー・プライス 画像出典:Red Bull

さらに先導しているのは、これまたBAJA1000王者のクイン・コーディという役者揃い。最初は緊張のあまりちょっと浮足立ってしまったが、しばらくしてペースに慣れてくると落ち着いて彼らの走りを観察することができた。

向き変えが早く加速も早いから脱出も速い

ふとバックミラーを見ると、ピタッと後ろにトビーが付いていてニヤニヤ顏。まるで煽り運転を楽しんでいるようだ(笑)。すると次の瞬間、「先導してやろっか」とばかりに自分の前に入ってきたので、これ幸いと目を皿のようにして彼の走りを勉強させてもらったのだ。

▲KTM 390アドベンチャー ライダーは筆者 画像出典:Webikeニュース
▲KTM 390アドベンチャー ライダーは筆者 画像出典:Webikeニュース

ダカールラリー王者はやはりオンロードも上手かった。タイトなコーナーを右に左に切り返していくのだが、コーナーの前半で誰よりも深くマシンを寝かせて、誰よりも早くアクセルを開け始める。つまり、ターンインでの向き変えが早く、加速するタイミングも早い。結果的にコーナーの脱出速度がめっぽう速いのだ。

なるほど、オフロード的な走り方である。一般的なオンロードでの走り方とはだいぶ異なるので、それだけ聞くと危険な香りがするかもしれないが、マシンを完全にコントロール下に置いているので破綻する気配すらない。

世界一過酷なラリーで強力なファクトリーマシンを自由自在に滑らせたり、飛んだり跳ねたりしている人だから当たり前ではあるが、彼にかかれば390アドベンチャーはまるで玩具のようなものなのだろう。

スキーのスラローム競技のようなリズム感

特に感心したのがサスペンションの使い方だ。390アドベンチャーは前後のサスペンションストロークが170mm/177mmと一般的なオンロードスポーツと比べて30~40mm程度長い、いわゆる“足長マシン”だ。この豊富なストローク量を上手く利用して走るのがコツ。

ややもすると長い足を持て余してしまい、切り返しのタイミングがずれてラインを外したり、足元がフワついて不安定になったりするものだが、トビーを見ていると倒し込みの初期で一気にサスペンションを沈めて路面にタイヤを押し付けているのが分かる。

▲KTM 390アドベンチャー ライダーは筆者 画像出典:Webikeニュース
▲KTM 390アドベンチャー ライダーは筆者 画像出典:Webikeニュース

そして、旋回に持ち込んだら即アクセルを開けてさらにトラクションをキープしつつ、旋回後半では加速しながら車体を起こすとともにサスペンションを伸ばして一瞬フワッと「抜重」した瞬間、今度は反対側に倒し込んでいく。サスペンションのストロークをフルに使って仕事をさせている感じなのだが、その動作がとてもスムーズかつ並外れて速い。

そのリズム感はアルペンスキーのスラローム競技にも似ていると思った。まさに目からウロコが何枚も落ちた気がした。もちろん、誰にでもおすすめできるテクではないが、世界の頂点にいるライダーの走りを間近で見られた貴重な体験だった。

体もデカいがハートも超デカかった

▲トビー・プライス 画像出典:Red Bull
▲トビー・プライス 画像出典:Red Bull

ちなみにダートもご一緒させていただいたが、荒れた林道のような登りのガレ場でスタックしてしまい身動きできずにもがいていたところ、最初に助けに来てくれたのもトビーだった。

丸太のような腕で土に埋もれた後輪をヒョイと持ち上げると、「ノープロブレム」と爽やかな笑み。私のへなちょこぶりを心配したのか、しばらく伴走してくれた後、信じられない走りで目の前から消え去っていった(つまりダートで彼の走りを観察する余裕はまったくなかった)。

▲トビー愛用のヘルメット 画像出典:Webikeニュース
▲トビー愛用のヘルメット 画像出典:Webikeニュース

困っている仲間を見たらまず手を差し伸べる。こうした懐の広さ、気高い精神の在り様が、トビーを2度のダカールラリー王者たらしめているのだと思った。事実、彼は今年のダカールラリー2020で不慮の事故で亡くなったパウロ・ゴンサルベス選手をドクターヘリが来るまで懸命に救護し続け、1時間以上もロスして優勝を逃している。そういう男なのだ。

分け隔てなく誰にでも気さくに接して皆を笑わせる。体もデカいがハートも超デカい。金髪をなびかせて走る32歳のオージーは、走りのテクニック以上のものを教えてくれたのだった。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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