「秋田のふぐはおいしいよね」。そう認知される日を夢見て―／株式会社秋田まるごと加工　畑中雄也さん

岡沼美樹恵

フリーランスライター／編集者／翻訳者

2022/10/3(月) 9:28

秋田県秋田市土崎地区。秋田港を有するこの土地は「北限のふぐ」の産地です。この場所で、この「北限のふぐ」を広めようと奮闘する男性がいます。それが、今回の物語の主役である株式会社秋田まるごと加工の代表取締役である畑中雄也さん。

大学卒業後は、グラビア担当

秋田市に生まれた畑中さんは、高校卒業までを地元・秋田で過ごします。大学は、地元からおよそ900kmも離れた京都へ。卒業後は東京の出版社で働きます。

「グラビアの撮影をやっていたかと思ったら、今度は裏社会の取材をしていたり（笑）。企画書を書くのに自分でネタを拾ってこないといけないから。でも、それはそれで楽しかったですよ」。

そんな畑中さんが秋田に戻ってきたのは、2008年のこと。

「家族が体調を崩し、看病が必要になったんです。とにかく人手がいるということで戻ってきました」。

秋田に戻った畑中さんは、地元新聞社で記者としての職を得ます。

しかしながら「実家の商売が過渡期にありまして。私の実家は県漁協の指定仲買人からスタートして、地魚を加工して卸す加工会社だったのですが、一次加工だけでは立ちゆかなくなるだろう、と思っていた時期でした。なので、安定的な売り上げが見込める加工品の開発を始めようとしていたところでした。そこで『自分の裁量でできる仕事をしてみよう』と思って」と、新聞社の職を辞することを決意します。

お宝のような存在の「北限のふぐ」

そうして取り組んだのが、実は地元秋田ではその魅力を知られることなく、首都圏へ流れてしまっていた「北限のふぐ」の存在。「北限のふぐ」は、西日本で獲れるふぐに比べて25倍ものうま味成分を含む、“お宝”のような存在でした。畑中さんは、独自で常温保存が可能な加工品の商品開発に取り組みました。

「原稿を書いて売るより大変な仕事だな、というのが感想ですね（笑）。商品が完成しても、まだ原稿でいうと“見出し”ができたくらい。そこから販路を開拓してバイヤーさんと商談して、損益分岐点が出て…という感じですから」。

畑中さんは、「酒かす薫る秋田ふぐ白子パテ」「秋田ふぐ白子ムース」、「秋田ふぐオイル漬け（ゆずこしょう七味）」などの商品を開発。

「今日はちょっといいものを食べようか」

そんな食卓の一品に

秋田県産の天然ごまふぐ、とらふぐの白子をチーズと混ぜ、とらふぐなどの出汁で溶き、そこに秋田味噌や自家製のふぐの魚醤で味付けした「秋田ふぐ白子ムース」は、その味、パッケージデザイン、地域性が評価され、仙台市産業振興事業団が主催する「第8回新東北みやげコンテスト」で地域特別賞を受賞しました。

「新東北みやげコンテストで賞をいただきましたが、実はおみやげ品としてではなく、日常の“ちょっといい時間”を過ごしてほしいんです。地元の人たちが、自分たちのところで獲れたものだし、おいしいから食べようよ、っていうものになってほしくて。例えば、『テストでいい点を取ったから、今日はこれ食べようか』みたいな」。