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日銀総裁人事の行方と、日銀総裁の仕事

久保田博幸金融アナリスト

日銀の総裁選びが本格化すると14日の日経新聞は伝えている。安倍首相はその条件として「大胆な金融緩和を実行できる人」を挙げている。また、麻生太郎財務相は「語学力、組織運営の経験、健康」を条件に挙げている。総裁を含む日銀の政策委員の人事等については、形式上は内閣官房副長官から国会に提示されることで、最終判断は首相官邸にある。ただし、その人選については、日銀への関与を強める安倍総裁とともに、麻生財務相あたりを中心に人選が進められるのではないかとも予想される。

参考までに、イングランド銀行総裁の人事については、副総裁含めて、首相の助言に基づいて女王が任命する形式となっている。その人選にあたっては財務省の影響が大きく、これまでは現役の総裁や財務次官などと検討し、財務相が首相に候補者を推薦する格好となっている。英国政府は11月26日に、英国の中央銀行であるイングランド銀行のキング総裁の後任にカナダの中央銀行であるカナダ銀行のマーク・カーニー総裁を任命すると発表したが、これに奔走したのが、 オズボーン財務相とされる。

2013年3月19日に日銀の二人の副総裁、西村清彦氏と山口廣秀氏が任期満了を迎える。そして、4月8日には白川総裁が任期満了となる。それぞれ再任も可能であるが、少なくともこれまでの報道等を見る限り、安倍総裁が白川総裁を再任させることは考えづらい。また、山口氏と西村氏の総裁昇格についても、現在の日銀執行部には批判的な安倍氏であるため考えづらい。

この場合に総裁だけというよりも、副総裁人事と絡めて3名の人事をまとめて行うことが予想される。日銀の政策委員などを決める国会同意人事は、政府が国会に候補を提示し、衆参それぞれの本会議で同意を得ることが必要となる。このため自公は参院で過半数に届かない状況であり、野党の協力を求める必要がある。 前回2008年の際の日銀総裁人事では、やはりねじれ国会となる中、当時の野党であった民主党は、与党の自民党が提出してきた財務省出身の総裁候補を参院でことごとく否決し、戦後初めて総裁ポストが空席となるという異常事態が発生した。ただし、今回は野党となった民主党もむやみな反対は控えるようである。

NHKの報道によると、安倍総理大臣は15日に内閣官房参与を務める、アメリカ・エール大学の浜田宏一教授や、静岡県立大学の本田悦朗教授ら、専門家らを集め、日銀との連携強化の方策や、ことし4月に任期が切れる日銀の白川総裁の後任人事ついて意見を聞き、検討を本格化させるそうである。いわゆるリフレ派と呼ばれる浜田宏一氏や、本田悦朗氏の人選となれば、かなりリフレ色の強い人選となることも予想され、その人選に果たして麻生財務相がどの程度関わるのかによっても状況は異なってくるように思われる。

しかし、総裁だけでなく副総裁も含めるとなれば、多少なりバランスも意識されると思われる。まさか3人とも積極的なリフレ派となるようなことは考えづらい、というよりあまり考えたくない気もする。麻生太郎財務相や甘利明経済再生担当相は財務省OBを選択肢から排除しない意向を示している。また、バランスを考えれば、少なくとも3名のうち1人は日銀出身者が入る可能性もあり、それは副総裁となるのではないかと見ている。

総裁候補としては、5年前にも総裁候補となった武藤敏郎元日銀副総裁(現、大和総研理事長)、岩田一政前日銀副総裁(日本経済センター理事長)、黒田東彦元財務官(アジア開発銀行総裁)、伊藤隆敏東京大学教授、小泉純一郎元首相の秘書官でもあった丹呉泰健元財務次官(内閣官房参与)、勝栄二郎前財務次官などが上がっている。ただし、副総裁一人がもし日銀出身者となるとなれば、中曽宏日銀理事の名前も挙がっている。

日本の中央銀行である日銀の目的として日本銀行法第1条には、銀行券を発行すること、物価の安定を図ること、決済システムの円滑かつ安定的な運行を確保することが明記されている。日銀は発券銀行であることに加え、銀行の銀行、そして政府の銀行としての役割を担っている。

日銀の働きとして重要なもののひとつが、日銀券の紙幣を発行であるが。この紙幣に対し価値を与え、円滑に使われるようにするための管理をしているところが日銀となる。日銀券、つまりお札を見ると、お札の表面に赤い印章があるが、これは「日銀総裁」の印章で、「総裁之印」と篆書という字体で書かれている。日銀券というお札は、安心して使えるように日銀総裁がその価値を保証しているものであり、それだけに日銀総裁に課せられている責任は重いものがある。あまり輪転機を回しすぎるような政策を取ると、日銀券への信用が失われる懸念もある。

日銀は金融政策だけが仕事ではなく、むしろそれはほんの一部であり、日銀は「円」という通貨の価値を安定させ、お金を通じてあらゆる取引の決済が円滑に行われるようにするために、経済全体に流通するお金を管理するという大きな責任を負っている。いわば金融というインフラを管理しているのが日銀といえる。そのトップが日銀総裁なのである。

私たちは、買い物などを含めて毎日いろいろな商取引を行っている。決済システムとは決済手段であるお金を受払いしたり、証券を受渡したりするための仕組みのことである。決済システムのうち、お金を受払いする仕組みを「資金決済システム」、証券を受渡すための仕組みを「証券決済システム」と呼ぶ。日銀が安定させなければいけない決済システムは、金融を介して日本経済に関わる決済の仕組み全体を指す。お金の流れを安定して維持させるためには、決済システムの安定が求められる。

日銀は物価の安定を図り日本経済を支えるという重要な役割があり、日銀総裁は日銀の最高責任者として、こうした機能を円滑にするため職務執行の責任を担っている。日銀の仕事として最も重要なものは金融政策の決定だが、金融政策の決定は合議制を取っており、日銀総裁の票も他の政策委員と同じ一票にすぎない。しかし、総裁は最終的に議長として政策委員の意見を取りまとめる。総裁は政府の経済財政諮問会議に出席し、財務大臣とともにG7(7か国財務相・中央銀行総裁会議)や中央銀行総裁会議(BIS)などの国際会議に出席している。

日銀総裁の給料は日銀のサイトに「日本銀行における役員の給与等の支給の基準」があり、ここに参考資料として給与2016千円(月額)、役員手当て5016千円(半期)とある。

日銀総裁になるための条件は「経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験のある者」とあり、それ以外に国籍含めて条件は日銀法では見当たらない。

第二十一条  日本銀行に、役員として、審議委員六人のほか、総裁一人、副総裁二人、監事三人以内、理事六人以内及び参与若干人を置く。

第二十二条  総裁は、日本銀行を代表し、委員会の定めるところに従い、日本銀行の業務を総理する。

第二十三条  総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する。

2  審議委員は、経済又は金融に関して高い識見を有する者その他の学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する。

過去の日銀総裁は日銀出身者と財務省出身者のたすき掛け人事と言われていたが、日銀法が改正されてからは、速水優氏、福井俊彦氏、白川方明氏と結果として日銀出身者が続いている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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