Yahoo!ニュース

『サッカーのピリオダイゼーション』を提唱する、レイモンド・フェルハイエン氏が来日。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

昨年からガンバ大阪が取り入れているレイモンド・フェルハイエン氏が提唱するコンディショニング理論『サッカーのピリオダイゼーション』。このコラムでも何度か、ガンバ大阪を通し、同コンディショニング理論を紹介してきたが、その生みの親であるレイモンド氏が、昨年に引き続き来日。『サッカーのピリオダイゼーション』と題したセミナー(主催:ワールフットボールアカデミー)を富山、北九州、大阪、東京の4カ所にて行った。参加者は昨年の400人を大きく上回る延べ600人。アマチュアからプロの世界で活躍するコーチ陣まで大勢の人が氏の言葉に耳を傾けた。

今や世界各国のサッカー界からひっぱりだこのレイモンド氏。今回はセミナーの合間を縫って、直接話をする時間を設けてくださったレイモンド氏に、昨年、ガンバ大阪の取材を通して感じた主観的な意見をもとに質問をぶつけてみた。

ーガンバ大阪は昨年、初めて『サッカーのピリオダイゼーション』を元にしたフィジカルトレーニングを取り入れました。初年度ということもあり、全てが巧くいった訳ではないとは思いますが、いろんなプラスの効果を感じ取ることができたように思います。

「最初に私が素晴らしいと感じたのは、昨年、ガンバ大阪はJ2リーグでの戦いを強いられ『絶対にチャンピオンにならなければいけない』というプレッシャーの中で新シーズンを迎えたはずですが、にもかかわらず、彼らが新トレーニングを導入し、チームを変化させるんだというチャレンジをされたことです。これは尊敬に値する点だと思っています。しかもその結果として『チャンピオン』という目標を達成されましたからね。そこにはきっといろんな努力があったことでしょう。ただ、私が最初に申し上げておきたいのは、私が提唱するトレーニング理論は決してチャンピオンになるための方法ではない、ということです。というより、チャンピオンになるための方法なんてこのサッカー界のどこを探しても存在しません。すなわち、『サッカーのピリオダイゼーション』もチーム、個人としてのサッカーを向上させるための方法であるということをご理解いただければと思います。

その中で、ガンバ大阪の取り組みが全て巧くいかなかったのは、ある意味当然ではないでしょうか。自転車に乗り始めた時と同じで、誰もが最初からうまくペダルを漕ぐことはできないはずですから。とはいえ、少なからずそのトレーニングの効果を感じたのであれば繰り返し続けていくことで必ず成果を感じられることでしょう。ただ…私は直接的にガンバ大阪の現場を観ていないので具体的な改善点を申し上げることはできませんが、私が指導にあたったクラブでは、巧くいった時期、いかなかった時期というような波を感じたことはないんですよね。つまり、正しくこのトレーニング方法を取り入れられていれば、そのような壁にぶち当たることもない。そこは現場を預かるフィジカルコーチが昨年の経験をもとに、今季、改善を図られるのではないでしょうか。」

ーガンバ大阪の選手への取材を通しても、効果を感じている選手、いない選手に分かれました。個人差が出てくることも想定内だとお考えですか。

「どのトレーニング方法もそうですが、1年を通して全てのトレーニングを選手全員が同じようにこなした訳ではないはずですから。ケガで離脱した選手もいるでしょうし、例えばポジションによってもフィットネスの差は生まれることは十分考えられます。特に、サッカーの特性、ポジションの特性を考えても、1年のうち終盤になるほど、中盤の選手と守備の選手のアクション頻度には差が出てきます。もし仮にチーム内の選手全員が同じ度合いでフィットネスが向上しているとすれば、それは、中盤の選手が必要とされる負荷より低いトレーニングをしているか、守備の選手が必要とされる負荷より高すぎるトレーニングをしているかのどちらかと思われます。そう考えても個人差がある程度出てくるのは不思議なことではないと思います。」

ー日本代表のMF遠藤保仁選手は効果を感じている選手の一人でした。

「そういった声は、他のクラブの選手からもよく聞きます(笑)。私の提唱するトレーニング理論は、基本的にサッカーに特化した内容で行われるので、他のトレーニング以上に取り組みやすく感じる選手は多いと思います。ただ、指導者にとっては今までやってきたやり方を変えることには大きな抵抗もあるでしょうし、実際に難しさも感じることでしょう。特に監督の年齢が高くなるほど、自分のやり方が固まっている分、新たなことに取り組むのはすごく難しいことだと思います。だからこそ、我々、ワールドフットボールアカデミーは、今回のようなセミナーを通してできるだけ若い世代の指導者たち、あるいは将来、指導者を目指す方たちにアプローチをしたいと考えます。若い世代の指導者というのは、経験が少ない分、新しい方法を取り入れたり、チャレンジすることに大きな抵抗はなく、柔軟に物事を考えられると思うからです。そういういみでは、今回、こうして多くの若い世代の方たちがセミナーに興味を持っていただき、実際に参加いただけたことをとても嬉しく思っています。

話が逸れましたが、先ほど遠藤選手のお話が出たので、彼を例にとって話をすると、遠藤選手が効果を感じているのは、おそらく彼がこのトレーニングをしっかりとものにしているからでしょう。だからこそ代表チームにいって他の方法でトレーニングをしても、根本的な部分が揺らがない。実際、私はこのトレーニング方法を提唱しているとはいえ、遠藤選手が代表チームで全く違う方法のトレーニングをしたとしても…もちろんケガを引き起こさない内容のものであれば、全く問題ないと思っています。」

ーレイモンドさんが『サッカーのピリオダイゼーション』を考案されて15年近い年月が経つと聞いています。もともと同トレーニングにたどり着いたきっかけは何だったのでしょうか。

「僕も過去には選手としてプレーしていましたが、その際に自分が取り組んだコンディショニングトレーニングに違和感を感じていたというか。ゲームでは絶対にあり得ないようなスプリントを繰り返すというように、サッカーに活かされるとは思えないメニューが殆どでした。また、プレシーズンには1日に2度の練習をしたことも度々あったのですが、そうすると午前のトレーニングにはすごくいい状態で取り組めても、午後のトレーニングには疲労がたまってしまい本来の力を発揮できないんですよね。そのような経験をしたことで、例え1日1回のトレーニングでも100%の状態で取り組める方が、間違いなくサッカーの向上に繋がるだろうと感じたし、その中ではよりゲームの中で効果を発揮できるトレーニングをするべきではないかと感じました。そのことが、このトレーニングを考案するきっかけになったように思います。」

ー意地悪な質問になりますが、スポーツは結果で評価される一面も持ち合わせています。結果が出なければ、このトレーニングを諦めてしまう指導者もいるのではないかと思います。その点についてはどのような見解をお持ちですか?

「もちろん、そういう指導者もいるかも知れません。ただ、先ほども言ったように私が強調したいのは、このトレーニングはチャンピオンになるためのトレーニングではなく、あくまでサッカーを向上させるためのトレーニングだということです。単純に言えば、ガンバ大阪は昨年J2リーグのチャンピオンになりましたが、彼らがやってきたことを全てコピーすれば他のJ2クラブがチャンピオンになるかと言えば、そうではない。だからこそ、トレーニング理論の提唱はしても、チームごとに選手の質や年齢、チームのスタイルや個々の能力などに応じて変化させる必要性を説いているのです。また見方を変えればガンバ大阪が結果を出せたのはこのトレーニングを導入したからだけではないとも言えます。実際、世界中のどのクラブを見渡しても、チャンピオンになるためには、コンディショニングだけではなくいろんな要素が必要になるはずです。だからこそ、私は常々このトレーニングのことを『サッカーを向上させるための方法の1つ』として紹介しているのです。これを最終的にそれぞれのチームに持ち帰ってよりチームにあった方法で適応させていけるのかは、それぞれのチームで指導にあたるコーチングスタッフの手腕次第。ガンバ大阪に今季、更にいい結果がもたらされることを願っています。」

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

高村美砂の最近の記事