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浦和から新潟へ。“印象派プレーヤー”荻原拓也が持つ魅力の正体

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2020年8月1日、浦和レッズ対清水エスパルスの一戦に途中出場した荻原拓也(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 8月12日、浦和レッズからJ2アルビレックス新潟へ期限付き移籍した荻原拓也。左利きの20歳には、たとえ出場時間が短くともファン・サポーターを沸かせることのできる魅力がある。その理由はどこにあるのだろうか。

■「このエンブレムをつけている以上」

「浦和レッズの選手は『浦和』を背負う責任を持たなければならない」

 2019年から浦和レッズが打ち出している『選手理念』について今年1月、荻原拓也に聞いたときのことだ。荻原は即答した。

「僕は育成からずっと浦和でやってきて、浦和が本当に大好きで、そのチームでこうしてプレーさせてもらっている。このエンブレムをつけている以上、浦和を背負う責任は、意識をしなくても持っています。誰よりも持っていると思っています」

 一本気な20歳のレフティーは今季、「自分がブレークしたポジション」である左サイドバックを主戦場としてシーズンのスタートを切った。そして、公式戦初戦である2月16日のルヴァンカップ仙台戦では、85分からその位置に入った。

「僕はこのポジションでプロになったし、年代別代表にもなりました。左サイドバックは自分の特長を出せる、すごく良いポジションだと思っています」

 練習試合で起用されていた左右両サイドハーフも含めて、「プレーにもっと安定感をつけて、チームの勝利に貢献したい」と意気込んでいた。

■ACL決勝に向かうバスに乗るチームメートに、力いっぱい手を振った

 荻原は1999年11月23日、埼玉県川越市生まれ。浦和レッズジュニアユース、ユースを経て、18年にトップチームに昇格し、1年目は公式戦17試合出場2得点という数字を残している。特に、公式戦デビューとなった3月7日のルヴァンカップ名古屋グランパス戦での2得点は強烈な印象だった。

 2年目の昨シーズンは8試合0得点と振るわず、苦しいシーズンとなったが、穏やかならぬ気持ちを抱えていた時期に見せたある振る舞いは非常に印象的だった。

 19年11月5日、埼玉スタジアムでのJ1リーグ第32節川崎フロンターレ戦。浦和は試合終了後すぐに、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝・アルヒラル戦のため、サウジアラビアに向かうという厳しいスケジュールだった。

 川崎戦からおよそ1時間後、チームバスは浦和サポーターの大エールを受けながら出発した。

 そのときだ。バスの窓に向かって、全身で伸び上がるようにしながら、力いっぱいに両手を振っている荻原がいた。バスに乗っていないということは、現地に帯同しないことを意味しており、だからこそ手を振る姿は深く記憶に刻まれた。バスがゲートを出る寸前まで、荻原は両手を振り続けていた。

■誰とも目を合わせられなかった川崎戦後のクールダウン

 年が明け、今年1月。冒頭の「選手理念」について聞いた後に、このときの川崎戦について尋ねた。すると荻原は「あのときはすごく複雑でした。だからすごく覚えています」と言いながら、丁寧に情景を描写した。

「詳しく言うと、川崎戦はACL決勝に向けてチームがターンオーバーをして、先発をガラッと入れ替えて試合に挑んでいました。まず自分はそこでスタメンに入れず、ベンチにいたのに負けている状態で試合に出られず、そのまま試合を(0-2で)終えた。そのとき、悔しすぎてちょっと態度に出てしまったところがあるんです」

 試合を終えた瞬間、荻原は誰とも目を合わせることができずにいたという。すると、ほどなくピッチサイドで、川崎戦でベンチスタートだったメンバーによるランニングが始まった。

「クールダウンというか、他の選手はACLに向けて走っていました。でも、その中で1人だけ、サウジアラビア遠征に帯同しないのに走っていたのが自分でした。何のために走っているんだと、しんどかった

 しかし、ロッカーに戻ってからのわずかな時間で、荻原は誰に言われるでもなく、自分の中でしっかり気持ちを整理した。

「だから、チームに頑張ってきてほしいという気持ちを込めて、バスに向かって手を振りました。めちゃめちゃ覚えています。悔しかったです。本当に。だけどああいう振る舞いをできて良かった。ネガティブからは何も生まれませんから」

 気持ちのまっすぐさ、前を向いたときの力強さが言葉から溢れていた。続けて、荻原は今季を見据えながらこう言った。

「練習から熱量をチームに伝えることも、浦和を背負う責任だと思っています。毎日一生懸命やることは誰でもできること。さらに僕は、熱量を伝えるところも当たり前にやりたい」

 試合ではもちろんのこと、まずは練習から熱量を出す。それこそが、ファン・サポーターの期待に応えることにつながる。荻原の思いはそこに集約されていた。自分で導き出し、自分で課したテーマだった。

■新潟での背番号は「7」

 8月12日、J2アルビレックス新潟への期限付き移籍が発表された。荻原は新潟の公式サイトで「J1昇格。自分が求めていることはそれだけです。毎試合すべての力を出し切り、チームの勝利に必ず貢献します」と固い決意を表明した。

 浦和では今季、リーグ1試合、ルヴァンカップ2試合に出場。思うように出場機会を得ることはできなかったが、個のスキルに目を向ければ、ドリブルによる推進力と打開力があり、鋭い左足のキックを持つ。プレースキックの精度も高い。

 このように、プレー面で明確なストロングポイントを持つ荻原だが、もしかするとそれ以上かもしれないストロングポイントは、情熱をピッチに投影する力である。だから印象が強いのだ。

 2月のルヴァンカップ開幕戦以来、約半年ぶりの出場となった8月1日のJ1リーグ第8節浦和対清水エスパルス戦では、久々の出番で気持ちが空回りしたと反省の弁を述べていたが、「気負い」は、コンスタントに出場機会を得ることで解消していけるであろう課題だ。

 DF登録ながら、新潟での背番号は「7」になり、前めでの起用も考えられそうだ。荻原の新潟での躍動を大いに期待したい。彼はきっと新潟の力になる。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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