クラシック界の大谷翔平&天才ピアニスト&売れっ子作曲家、3人で「Shikinami(しきなみ)」です
「Shikinami」は、国立(くにたち)音楽大学の同級生だったヴァイオリン・白須今(しらす・こん)、ピアノ・野口明生(あきお)、ギター・堤博明の3人で2006年に結成。全員がほぼ180cm以上と高身長で迫力があり、ライブを重ね人気上昇中のインストグループです。
個々での活動も活発で、白須さんは「東京2020オリンピック」開会式オープニング映像のオーケストラでコンサートマスターを務めるなど、音楽監督としても活躍。
野口さんはティンホイッスル、ローホイッスル、アイリッシュフルート、イーリアンパイプスなどの演奏活動で引く手あまたで、NHK大河ドラマ・朝ドラにも参加しています。
堤さんは大ヒットアニメ『呪術廻戦』『東京リベンジャーズ』などの音楽を手がける大人気の作曲家です。
―皆さんの出会いは?
3人:全員1985年生まれ、国立音楽大学の同級生です。学部は違いますけど、選択で同じ授業(即興演奏法)を受講した時に堤・野口が知り合いました。堤・白須はサークルが同じ、モダンジャズ研究会です。堤が白須に「面白いピアニストがいる」と紹介して3人が出会いました。「初めまして」と即興で合わせた時に「これはすごい」となりまして…すごくいい感じの曲が生まれて、即座に「3人でやっていきたい」と思いました。
―それぞれの印象は?
堤:白須君は「変な人」です。初めて会った時、部室の前の廊下に大の字で寝ていました(笑)。
白須:当時、神奈川・横浜市から通っていたので、朝が早くて睡眠不足だったんです…。場所を選べという話ですよね、すみません。堤君は、金髪ロン毛でベルボトム。いつもギターを背負って背も高かったので目立っていました。
堤:野口君は授業で弾いたピアノの即興が素晴らしくて、先生が感動して泣いていたのが強烈に印象に残っています。
野口:堤君は、ロン毛でオレンジのジャージ。見た目は怖かったんですけど、大学近くの学生が集まるコンビニのベンチの前で誰かがコーヒーをこぼしたら、ティッシュを出してコンクリートの地面を拭いたんです。なんて清らかな人だろうと感激しました。
堤:そのコンビニの店員さんがいつも優しくしてくれるいい人だったので、その人が帰りにこぼれているのを見たら悲しい気持ちになるかもと思ったんです。どこの道路でも拭くわけではないですよ。
白須:僕たちが伊勢神宮など地方で演奏させていただく時は車で行っていましたが、全部堤君が運転してくれています。山口県は片道13時間かかりましたけど1人で…本当に優しい人なんです。
野口:白須君は俳優の中村俊介さんに似ている!と思いました。韓国ドラマ『冬のソナタ』が流行っていた時期で、笑顔はヨン様みたいでもありましたね。
―今は大谷翔平さん似ですよね。
白須:それはうれしいです。「2023WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)」以前から言われていたので、すごい方になられたなと、正直恐れ多いです(笑)。
―音楽大学に入るのは狭き門ですが、卒業後は?
野口:そこがもっと大変です。学校でものすごく優秀だった人でさえ、卒業後はピアノ教室の先生か小さなコンサートを開くのが主流で、海外で経験を重ねて帰国しても仕事がない。クラシックの世界にいること自体、本当に狭き門です。
堤:野口君はピアノ学科首席入学です!
野口:そんな人は毎年出ますから、クラシックだけで生きていくのは大変なことです。僕も卒業後うまくいかず、整体師になろうと思って動いたこともありましたが、やはり音楽で頑張ろうと思い直し、今に至ります。アイルランド音楽に傾倒していったのは在学中に聴いたCDがきっかけです。演奏者がほとんどいないのでほぼ独占企業みたいになりまして(笑)、作曲家の久石譲さんがこの楽器を吹ける人を探していて繋がることもできました。
―堤さんは作曲家として大人気ですね。
堤:今、作曲は僕の仕事のメインになっています。サウンドトラックを作ることが多いです。最初は、サウンドトラックにギター演奏で参加したのがきっかけで、プロデューサーさんから「曲、作れる?」と聞かれて「作れます」と答えたことが作曲の仕事に繋がりました。サウンドトラックのことを劇伴(げきばん)と言いますが、その言葉さえ知りませんでしたし、マナーや業界の常識も全く知らず、現場で失敗しまくりながらもガムシャラにやってきました。
―他の音楽との違いは?
堤:大前提として、映像と声の上に音楽をつけることです。まず誰が演じるのか。声の周波数でぶつかる楽器が出てくるんです。例えば、バイオリンの周波数と主役の声が当たるとか、リコーダーをハモらせると、どんなに音量を下げても目立って聞こえるとか、思いもかけないことが判明します。
映画は、映像があるところに音楽をあてていくことが多いですけど、アニメ・ドラマは台本などを読んで想像して曲を作ることが多いです。そこには、選曲家さんという音楽をつける専門の職業の方がいらっしゃるので、その方に曲をお渡しして良きところに音楽をはめていただくという形です。だからテレビで流れているドラマやアニメの音楽は、予想外のシーンで使われていたり、毎回その曲が流れていたりと、面白い経験をさせてもらっています。
―手がけた音楽『呪術廻戦』『東京リベンジャーズ』などが次から次へとヒット。どんなところが評価されていると思いますか?
堤:作品のジャンルでは“ホラー”と“恋愛”モノなどで特に手応えを感じることがあります。例えば『東京リベンジャーズ』を作る時は、中学校にやんちゃな友達がいたなとかイメージしながら、様々な経験を活かしているかもしれないですね。自分が担当する作品では白須君、野口君にも演奏者として参加してもらうことも多々あり、演奏の力で何倍にも力を上げてもらっています。
―それぞれの活動があり3人が集まった時に思うことは?
白須:単純に3人でいると楽しいです。音楽的に言うと、堤君が僕たちの音楽にリズムをもたらしてくれる、骨格を出してくれる存在です。
野口:僕と白須君はクラシックだから、どちらかというと横乗りなんです。堤君はロック・ポップスなので縦乗りなんです。
堤:僕は邦楽ロックをよく聴いていました。バンドをやっている頃は「XJAPAN」を演奏したり、「GLAY」、「L'Arc〜en〜Ciel」、「B'z」も好きでしたね。
―次のライブ(5/13)はどのような内容に?
白須:オリジナルの人気曲も演奏しますし、国立音楽大学の同級生でボーカルグループ「LE VELVETS(ル・ヴェルヴェッツ)」の佐藤隆紀さん(『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャン役としても知られる)がゲストです。野口君が学生時代よくコンビニの前でたむろしていた仲間です(笑)。
野口:大学は3年で単位を全部取ってしまったので、4年は実技だけだったんです。だからコンビニの前でいつも2~3時間は話していました(笑)。
白須:今年1月、高橋幸弘さんが亡くなられた時に、今月(5/13)のライブで「YMO」の曲をと思っていたら、まさか坂本龍一さんまで亡くなられるとは、驚きました。
野口:僕は坂本さんが亡くなられた時にすごく落ち込みました。やはりとても影響を受けていたので…何かできればとは思っています。
―「Shikinami」の音楽とは?
野口:「情景が浮かぶ音楽」。僕たちの曲に『五十鈴川(いすずがわ)』という曲がありますが、僕はピアノで“川のせせらぎ”、白須君はバイオリンで“そこに吹く風”、堤君はギターで“木漏れ日”。それぞれのイメージを楽曲に込めているので、そういう表現・描写ができるグループだと思っています。そして、人の心に残るような音楽を続けていきたい、音で勝負したいです。
堤:お客様からいただいた感想で「『Shikinami』の音楽は何か分からない感情が湧いてくる」とあった時に、これかなと思いました。奥底にある未知の感情は自分でも探している最中で、説明できない感情やゾワッとする瞬間は、お客さんとメンバーの気持ちが一つのものを共有した瞬間なのかなと思います。
野口:だから、インストをやっているのかもしれない。歌詞があれば意味がダイレクトに入ってきて分かりやすいけど、インストの場合は僕らが「悲しい」と思っていても、聴いている人は「懐かしい」とか、別の感情が無限に生まれる。人によって解釈が違う、そこが面白い部分です。
白須:昔は放出型だったけど、最近は皆と繋がる形になってきて楽しいです。放出型の時は「聴いてください!これです」という感じだったのが「皆で繋がりましょう」という感じになってきたと思います。
野口:僕が今も大事にしている学生時代の先生の言葉が「すごいテクニックを持っている人は、その場ですごいと感じる。でもそれは一瞬で、心に残る音楽は一生残る」。そこを目指したいと思います。
【インタビュー後記】
堤さんは察しがよく、質問に対しての答えが出るように、皆が話しやすいトピックを提供してくれたりまとめてくれたり、さり気なく裏回しをしてくれる方。白須さんはセンターの位置におさまりがいいスター感があり、なおかつ天然の香り漂う自由人。野口さんは玄人好みの才能豊かな旅人。それぞれが全く違う個性なのに、3人揃うと不思議とマッチしてなんとも心地よいのです。WBC日本代表が“野球が大好きな少年の集まり”と言われましたが、「Shikinami」は”音楽が大好きなピュアな少年の集まり”です。一度仕事をすると、彼らのことが好きになるというのも納得です。
■Shikinami(しきなみ)
国立音楽大学で出会った白須今(Vn)、野口明生(Pf)、堤博明(Gt)によって2006年5月に結成。ユニット名「Shikinami」は、【重浪】――重なり合い、絶えず波を立てている――という意味で、3人の音を世の中の流れに重ね、聴く人の心に届けていきたい…という想いが込められている。2010年「修禅寺桂座音楽賞」グランプリ受賞。同年8月修禅寺本堂にて演奏。2021年、東儀秀樹 with Shikinamiとして渋谷ストリームホールでコンサートを行い、チケット完売。多くのコンサートを開催し、今年3/29発売の東儀秀樹ニューアルバム『NEO TOGISM』に演奏参加。「Shikinami Spring Concert 2023」は、5/13(土)、東京・銀座ヤマハホールにて開催予定。
<メンバー>
▼白須今(しらす・こん)ヴァイオリニスト
1985年6月21日生まれ、兵庫・神戸市出身。180cm。2歳よりヴァイオリンを始める。兵庫県立西宮高校音楽科を経て、国立音楽大学演奏学科卒業。2009年、伊勢神宮宇治橋渡り始め式典で雅楽師・東儀秀樹氏と共に奉祝演奏を果たす。2019年「KABUKI 2019 at G20 OSAKA SUMMIT」にて歌舞伎役者・中村米吉氏と共に「本朝廿四孝」を披露するなど、積極的に日本伝統芸能とのコラボレーションを実現させている。近年は東京2020オリンピック開会式オープニング映像のオーケストラでコンサートマスターや、コンサート・舞台の音楽監督を務めるなど、多岐に渡り日本音楽を盛り上げている。
▼野口明生(のぐち・あきお)Piano/Tin Whistle / Uilleann Pipes / Irish Flute / Duduk
1985年8月5日生まれ、東京都出身。185cm。Shikinamiリーダー。3歳からピアノを始める。国立音楽大学ピアノ科卒業。大学卒業後、独学でアイルランド音楽を始め、現在は、ティンホイッスル、ローホイッスル、アイリッシュフルート、イーリアンパイプスをメインに演奏活動をしている。他にはアルメニアの楽器・ドゥドゥクなども演奏。NHK連続テレビ小説『エール』、大河ドラマ『西郷どん』、ドラマ『MIU404』『最愛』、映画『二ノ国2』、アニメ『Dr. STONE』『呪術廻戦』、ゲーム『アナザーエデン 』『ゼノブレイド3』のほか、ゲーム「クロノトリガー」の作曲者、光田康典氏のバンドや作品など、多数の作曲家作品に参加。
▼堤博明(つつみ・ひろあき)作曲家・編曲家・ギタリスト
1985年6月5日生まれ、 東京都出身。179cm。国立音楽大学音楽文化デザイン学科卒業。14歳からギタリストの鈴木禎久氏に師事し、高校時代に「リットーミュージック主催 第一回誌上ギター・コンテスト」にてグランプリを受賞。現在は作曲を中心に、活動の幅を広げている。近年劇伴を担当した作品は映画「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」、アニメ「呪術廻戦」、「東京リベンジャーズ」「Dr.STONE」など。