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まだまだ現役!家庭のFAX 普及率はTVゲーム機より高い その使い道は…令和の“最新FAX事情”

岡田有花フリーランス記者
令和3年、FAXはまだまだ現役?(写真:PantherMedia/イメージマート)

 手書きした文字や画像を、固定電話あてに送信し、紙で出力できる「FAX」(ファックス/ファクシミリ)。

 インターネットが普及するまでは、文書をそのままの形で送信できるほぼ唯一の手段として、多くの家庭で利用されていました。

 しかし、スマートフォンやパソコンが普及し、テキストも画像も電子データで手軽に送れるようになった今、FAXは「過去の遺物」と考えている人も増えています

 その現れの一つが、7月末、東京五輪が開幕の際のちょっとした騒動です。NHKが選手への応援メッセージを「FAXで」募集していたことに対して、「なぜ2021年に、あえてFAXなのか」とやゆする声が一部で上がりました。

 FAXは本当に、過去の遺物なのでしょうか。調査データや、実際に利用している人の声から考えてみましょう。

FAXの世帯普及率は「3割」 家庭用TVゲーム機より高い

総務省の令和2年(2020年)の通信動向調査によると、2020年(令和2年)時点で、FAXの世帯普及率は33.6%。3軒に1軒が持っている計算です。この普及率、タブレット端末の普及率(38.7%)、家庭用テレビゲーム機の普及率(29.8%)のちょうど間に位置します

総務省の令和2年(2020年)の通信動向調査より筆者抜粋。FAXの普及率は、タブレット端末とテレビゲーム機の間に位置している
総務省の令和2年(2020年)の通信動向調査より筆者抜粋。FAXの普及率は、タブレット端末とテレビゲーム機の間に位置している

 ただ、世帯主の年代別で見ると大きな偏りがあります。同じ調査の平成28年(2016年)版によると、20代のFAX保有率はわずか1.9%なのに対して、30代で15.2%40代で39.1%50代で48.0%と、年代が上がるごとに急増しており、60代以降はどの年代でも5割前後でした。

総務省の平成28年(2016年)の通信動向調査より筆者抜粋(赤枠は筆者)
総務省の平成28年(2016年)の通信動向調査より筆者抜粋(赤枠は筆者)

 5年前の調査でこの数字ですから、FAX保有率の”世代別格差”は今、当時以上に開いてそうです。

FAX、何に使っている? 「新しく買った」理由とは

 42歳(昭和53年生まれ)の記者の場合、中学生ごろから実家にFAXがありました。実家が商売をやっており、注文書や納品書などもよく送られてきていていた他、LINEもメールも無かった当時は、FAXを友人との手紙のやりとりにも使っていました。

 実家の商売は数年前に閉じましたが、FAXは今もあります。用途を母に聞いてみたところ、「今はあまり使わなくなったけれども、通信販売の申し込みをFAXで送ったり、お葬式の連絡がFAXで来たりする」とのことでした。

 記者の実家のように、「前からあったからなんとなく使い続けている」という家庭は多い一方で、「必要に迫られて、最近新たに買った」という家庭もあるようです。

 筆者が「FAXを現役で使っている人」から話を聞いたところ、目立ったのは小学校や役所、病院とのやりとりです。役所がFAXを現役で利用していることもあり、特に公立の学校関連や介護施設とやりとりするのに必須、といった声がありました。

 小学校の出欠連絡がFAXのみ、という場合「子供が病欠の連絡をするために、ぐったりした子供を連れてコンビニまでFAXを送りにいくのは現実的ではない」と、やむを得ず買った家庭。家族が通院している病院の予約や、世話になっている介護施設との連絡に必須だったので、買わざるを得なかったという家庭もありました。

 他には、

  • 通販や定期購入で、FAX申し込みしか受け付けていないところがある
  • FAXでしか予約できない宿がある
  • 耳の遠い知人への連絡に使う
  • 不動産業界など、主な連絡手段がFAXの業界も多い

 といった意見も、さらに、「オンラインセミナー参加の受付がFAXのみ」という、冗談のような話もありました。

日本だけじゃない?

 FAXが多用されている業界は、海外にもあるようです。ニューヨークタイムズの2021年7月8日付記事によると、米ヒューストンの公衆衛生当局が、新型コロナウイルス関連の報告のFAXを1日1000件も受けており、対応に苦慮しているとのこと。

 例えば、ある研究所から大量のテスト結果を受け取り、「数百ページのFAXが、床全体にばらまかれた」こともあるそうです。

NHK「FAXは視聴者の気持ちが表現されやすい」

 さて、冒頭のNHKの話に戻りしょう。NHKが選手への応援メッセージを「FAXで受け付けた」理由を、広報部に改めて聞いてみたところ、こんな回答でした。

 NHKでは、ネット環境の有無などを問わず、幅広い世代の様々な視聴者からメッセージをいただくため、複数の手段でメッセージを募っています。FAX では手書きの文章やイラストなどをお寄せいただけるため、お送りいただいた視聴者のお気持ちが表現されやすく、充実した放送サービスにつながっています。

 NHKはTwitterやメッセージフォームでも応援メッセージを受け付けていましたが、FAXの世帯普及率がまだ3割もあり、高齢者の連絡手段としては現役と考えると、FAX「でも」メッセージを受け付ける理由が見えてきました。

”日本唯一”のFAXメーカー、「おたっくす」の…

 最新FAXはどうなっているでしょうか? 需要の減退に伴い、FAXを生産するメーカーも減少。2021年現在、家庭用のFAXを生産している日本のメーカーは、「おたっくす」ブランドのパナソニック1社です。

スマホ連携機能などを備えた、パナソニックの最新FAX。デザインもスタイリッシュだ(公式サイトより筆者キャプチャ)
スマホ連携機能などを備えた、パナソニックの最新FAX。デザインもスタイリッシュだ(公式サイトより筆者キャプチャ)

 最新の「おたっくす」は極めて多機能です。受信したファクスを印刷前に画面で確認できる機能はもちろん、スマートフォンで見られる機能も充実しています。また、ブラザーなど複合機メーカーがFAX機能付きの複合機を主に業務用に出しており、家庭で導入する例もあるようです。

 とはいえ、FAXの世帯普及率は低下の一途をたどっており、これからさらに縮小していくと考えられます。「受付がFAXのみ」といったサービスや業界は、今後、さらに減っていくことでしょう

 ちなみに記者は、自宅にFAXどころか固定電話がなく、固定用の電話番号も保有していません。今後、「FAXのみ」で受け付けるサービスを利用する機会がないことを祈っています……。

フリーランス記者

1978年生まれ。京都大学卒。IT系ニュースサイト記者、Webベンチャーを経て、IT・Web分野を軸に幅広く取材、執筆するフリーランス記者。著書に「ネットで人生、変わりましたか」(ソフトバンククリエイティブ)。

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